ザ・グレート・展開予測ショー

鎮魂の横島


投稿者名:Shinsho
投稿日時:(98/ 3/ 8)

Shinshoです。本作品は、前回投稿いたしました「迷魂の横島」の続編です。最初は「まだ先が続きそうな最終回」というコンセプトで書いていたんですが、やっぱりどうしても終わってほしくないなあ・・・と思うわけで、アシュタロス戦後の、新しい展開へのプロローグという部分を含めて書いてみました。最終回と受け取るか、更に続きを想像していただくか・・・とりあえず、読んでいただければそれだけでうれしいです。
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甲板がゆれた。
船の上空に浮かぶ球型結界から発せられる、横島の霊の緩衝波の影響だ。
美神とおキヌ、それにタイガーと雪之丞が横島の霊を鎮めるべく、南太平洋で作戦を開始してから、ちょうど20日目の夜だった。今、4人はおキヌの召集で甲板の作戦用のデスクに集まっている。皆、疲れを互いに見せまいと必死だった。
この20日間、4人は必死に働きつづけた。特におキヌは、今回の作戦の総指揮にあたってその非凡な才能を十二分に発揮した。
作戦の目的が「除霊」ではなく「鎮魂」にある以上、ネクロマンサーであるおキヌがエキスパートという事になる。おキヌはタイガーの精神感応から、横島の霊波動の強さと方向、更にその周期と霊体の死角を正確に読み取り、海上に直径2.5kmもの巨大な球型結界を展開し、その半径を徐々に狭めて結界を安定化させる作戦を取った。タイガーが逐次おキヌに横島の霊体の状況を送り、美神と雪之丞はおキヌの指示のもと、横島の霊体の死角を衝き、霊波動を受け流し、方向を変え、弾き返し、結界内外を飛び回って結界の維持をサポートした。おキヌは少しずつ、着実に結界の半径を縮め、実に17日間かかって横島の霊を半径10mの安定した球型結界に閉じ込めたのである。維持するのだけでも難しい、魔法陣の立体型ともいえる球型結界を霊体圧縮に用いるあたり、おキヌの才能は天才と称して余りあった。
しかし、この夜のおキヌは、さすがに立っているのもやっとという様子である。
無理もない。
美神、タイガー、雪之丞が3人交代で安定化した球型結界を維持している間、おキヌは3日3晩不眠不休で横島の鎮魂に取り組んできたのである。結界の傍から、幾度も横島に話しかけ、ネクロマンサーの笛を吹き、時に危険を承知で結界内での鎮魂も試みたが、ついにタイムリミットの3日を過ぎても横島の鎮魂はならなかった。
「もうこれ以上結界は持ちません・・・。作戦を、封印安定法に切り替えます。」
ゆっくりとメンバーを見渡し、おキヌは最後の決定を下した。
「やっぱりそれしかないのか・・・」
雪之丞がつぶやく。彼らしからぬ事だが、不安そうな顔つきであった。
封印安定法とは、霊体を護符や魔法陣に強制的に封印し、一気に安定化させる方法である。被害が最小で短期間で行えるため、除霊には一般的に用いられる方法だ。しかし、目的が霊体を鎮めるという事になると、成功率は極めて低かった。
普通、小さな霊でも地についた幽霊となるのに100年はかかるといわれる。それを短期間に行おうとすれば、霊体にかかる衝撃は計り知れない。最悪、意識も記憶もない、単なる物理的な霊波動の塊となってしまう可能性もある。しかし、このままではじきに結界は破れ、その反動で開放された霊波動によってどれだけの被害が出るか想像するだけで恐ろしかった。
「おキヌちゃん、ほんとにいいの?私たち3人がかりなら、何とかあと半日は持ちこたえられるわ。もう一度試してみたら・・・」
「いいえ、美神さん。もう、時間がないんです。それに、これ以上横島さんを苦しめるわけにはいきませんから・・・」
おキヌは、横島の鎮魂に取り組んでいる間中、ずっと横島の霊の声を聞いていた。未だ戦いつづける、横島の声を・・・。

(うおおおお・・・・アシュタロスううう・・・どこだ、どこだああああ・・・・殺してやる・・・・・・・
アシュタロスめええええ・・・・・)

それは、生前の横島には想像もできない、呪詛と殺意の悲鳴だった。
(このまま苦しみつづけるなら・・・いっそ・・・)
おキヌは、もう一度メンバーを見た。その目には、ネクロマンサーとしての決意がしっかりと浮かんでいた。
「わしもそれが最善じゃと思う・・・。それに、横島さんなら、きっと元どおりになってくれそうな気もするしノー」
タイガーの声には、誰よりも自分を励ましている感があった。
「そうね・・・。おキヌちゃんがそこまで決意してるんだったら、もう何も言わないわ。こうなる事は避けたかったんだけど、実は考えていた作戦があるのよ。」
「作戦?どんな?」
美神の言葉に雪之丞が身を乗り出す。
「横島の霊を封印する際の衝撃を和らげる作戦よ。強制的に魔法陣に追い込むのでなく、霊体を魔法陣の中に誘い込むの。エサは、これよ。」
甲板がゆれた。
横島の霊の緩衝波のせい・・・ではない。甲板にいた美神以外の人間が全員ずっこけたのだ。
美神が机の上に出したのは、女性用下着2点セット、2人前だった。
「魂の髄までスケベが染み込んでる横島の事だもの、これを魔法陣の中に置けば自分から突っ込んでくるわ。」
「な、なるほど・・・。」
「美神さんっ!!!なに考えてんですかっ!!!」
「情けない手なのは百も承知よ、おキヌちゃん。だけどこの際・・・」
「そうじゃないです!!なんで私の下着まであるんですかっ!!」
「ぁ、これ?あ、あはは、たぶん頼んでも貸してくれないだろ〜な〜と思ったんで、洗濯物からこっそり・・・」
「へ〜、おキヌちゃん、結構派手な下着付けとるんじゃノー」
「なっ・・・違います!!私のは白いほう・・・」
言いかけて、ますます真っ赤になる。
おキヌが集中力を回復するまで数分が必要だったが、とにかく甲板上の魔法陣の中央に「エサ」が置かれ、全員が配置についた。おキヌが結界上に飛び上がる。
(横島さん・・・憶えていて、私たちの事・・・)
4人全員の意識が横島の霊に集中する・・・結界がはじけ、すさまじい光が魔法陣から発せられた。
光がおさまったとき、結界の中央に、一人の青年の幽霊がいた。
美神が駆け寄った。
「横島!!横島君!!!わかる?私よ、美神!美神令子!!あんたの飼い主!!わかったら、返事しなさい!!」
たとえ幽霊としての形を保っていても、いったん記憶を戻すきっかけを逃せば、その機会は永久に失われる。美神は、必死に横島の幽霊に語りかけた。
「横島君!!憶えてる?あんたは横島よ!!私は美神令子!頼むから返事してっ!!」
横島は答えない。その瞳は焦点を結んでおらず、虚ろに空をおよいでいた。
「だめよっ!!何かしゃべって!!なんでもいい、しゃべれっ!!!なんでもいい、そう、名前!!自分の名前いってごらん!!」
その言葉に、横島がわずかに反応した。瞳がわずかに動き、美神を見る。
「あ・・・・・・・う・・・・・・」
「そうよっ!!名前よっ!!名前名前名前っ!!!あんたの名前っ!大きな声で!!ほら、さん、はいっ!!しゃべれっーーーーーーーーーーー!!!!!」

「・・・・・・・・・・・・・お・・・・・・・・・・・・き・・・・・・・・・・・・ぬ・・・・・・・・・・・・・・」

おキヌが駆け寄り、横島の胸元に倒れ込んだ。おキヌの身体は、まだ完全に安定化しきっていない横島の身体を通り抜けて重なってしまい、その胸に抱かれる事はできなかったが・・・・
泣いていた。
5年前の大戦後、決して人前で涙を見せなかった娘が、今、幽霊となった横島のもとにうずくまって泣いた。声は出ず、ただ大量の涙がおキヌの頬を伝い続けた・・・。
美神達は、そっとその場を離れ、船室に戻った。

自分の船室の窓から、美神は海を見ていた。影のはっきりとできる、明るい満月の海だった。
「そうなのよね・・・。」
つぶやいた。
美神は、横島の生前、いや、死後も、「横島は自分の事を・・・」と、そう思っていた。
その事に、当人は気づいていなかった。そして、それは違っていたのだ。
横島がさっき言った言葉。名前という言葉から絞り出した、唯一の記憶・・・。両親の名も、美神の名も、自分の名前さえも忘れた青年が、唯一覚えていた名・・・。
横島の心の深淵には、常に、その名を持つ少女がいたのだ。
その事に、生前の横島自身は、気付いていたのだろうか?
美神は、考えるのを止めた。それはもう、どうでもいい事だ。
いま、横島は帰ってきた。たとえ幽霊であろうとも、間違いなく、横島が帰ってきたのだ。
それで、十分だった。
これから時間をかけて、ゆっくりと、横島は生前の記憶を取り戻すだろう・・・。新しい思い出も、またできるだろう・・・。
美神は、月を見上げた。
「終わったわ・・・ママ・・・やっと・・・」
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「危ない!美神さんっ!!」
おキヌがとっさに作った結界の抜け穴から、美神が逃げ出した。まさに間一髪だ。
おキヌの結界の中に閉じ込められているのは、死者の魂を食らう妖怪、「御魂喰」である。一般に巨大化する事はあっても、その動きは鈍い・・・はずであったが。
「なによこいつのスピードはっ!これじゃ1000万どころか、3000万でもやすいわよっ!!」
プロの予測を超える事態にあたって、依頼人を報酬で責めるのは筋違いではあるが、確かに21世紀の第1号ベビーが小学校にあがろうというこの時代に、バブル経済の墓標のような首都圏の廃ビルで妖怪退治というのは不景気この上ない。美神ならずとも、愚痴の一つも出ようというものだった。
「おキヌちゃん、もっと結界狭められない!?」
「駄目です!これ以上狭めたら囚われてる魂までつぶれちゃいます!!」
美神は舌打ちした。せめて一瞬でもすきがあれば・・・と、はっとして美神はさっきから傍らに従えていた青年の幽霊を見た。優しく、そう、とても優しくにっこりと微笑む。
「よ・こ・し・ま・君!」
「な、な、なんすかあっ!!」
美神の笑顔に、何かとてつもなく危険なものを感じて、幽霊はとっさにあとずさろうとしたが・・・。
不可能だった。美神は迅速に、かつさりげなく彼の手を取り・・・
その10倍のスピードで腕をひるがえした。
「囮よろしく!!」
「だーーーーーーーーーーーっ!!!やっぱりっ!!!」
おキヌが結界をゆるめる暇もない。横島は結界をぶち破り、結界内に叩き込まれた。幽霊のくせにドクドクと血を流しているのは、生前の記憶のなせる業だ。
「くっそー・・・あの三十路女・・・。俺を二度死にさせる気か・・・・・・・・・・どわあああああああああああああああっ!!!!!」
起き上がった横島の視界いっぱいに、御魂喰が迫っていた。横島を飲み込まんとするまさにその寸前。
鞭となった美神の神通棍が、正確に御魂喰を捉えた。
(オ゛ギャアアアアアアアアアアア・・・・・・)
その御魂喰の悲鳴に、とどめをささんとする美神のキメ台詞と、横島の絶叫が重なった。
「この美神令子が極楽に―」
「ジョーブツさせてくれえええええええええっ!!!!!」

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最後はちょっと書きすぎてしまった気もしますが・・・いかがだったでしょうか?
おキヌちゃんびいきが過ぎるぞ!!と思われた方、すみません・・・。何をかくそうおいら、おキヌちゃんびいきなんです。バランスをとる意味で、いえ、もとい主役への敬意を賞しまして、最後は美神にしめていただきました。やっぱりしんみり終わるのは「GS]らしくないなあ、と思ったものですから・・・。ともかく、幽霊だろうが、妖怪だろうが、魔族だろうが楽しくおかしく描かれる椎名先生の世界の1ppmでもまねできたかなあ、と思って読み返してみるに・・・ああ、これじゃぜんぜん、「鎮魂」になってないなあ・・・タイトル間違えたなあ・・・・(^^;;


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