ザ・グレート・展開予測ショー

魔界軍人の休日に、


投稿者名:トンプソン
投稿日時:(01/ 3/22)

「なんだ?お前は休日ではなかったのか?」
上官のワルキューレの部屋をノックしたのはべスパである。
現在魔界軍に在籍しているのは周知の事実だ。
「上官、この休日の間に下界へ行く事は可能ですか?」
「下界?人間の格好になるのであれば大丈夫だが」
ワルキューレもどうして下界なんぞに興味を持ったのかはべスパに聞かない。
「ちゃんと出勤日までに戻ってくれば問題は無い。只、行くのであればな」
「何か手続きでも」
「資○堂の春物ファンデーションを買って来てくれるか?お前のお勧めでいいぞ」
「イエッサー」
苦笑を隠した顔であった。
べスパも原型ではさる古本屋の店員状態なので触覚を隠しOL風の格好になる。
下界に着いた時刻は某テレビ局の昼にやってる名物生放送の真っ最中である。
「なんでこんな男に自分の悩みを相談するのかね?」
独り言を軽く言いながら、大手ハンバーガーチェーンのシェイクをゆっくりと嗜む。
当然一人だ。格好の割には可愛い腕時計を見て、
「思ったより早い時刻だな。時間を潰さないと駄目か」
ゆっくりとたしなむとは言え、三十分で店を後にする。
雑多な街をぶらりと歩く。
「ふーん、デパートにでも寄るか」
そのデパートは昼過ぎなので客の数は少数であった。
「あのー。もしよろしければ、新作のファンデーションでも如何ですか?」
1階は化粧品売り場を散策していた時に売り子に声をかけられた。
「あ、そう?実は知り合いから春物ファンデーションを頼まれたのだが」
「ではお客様がお試されて、お気に召した物をお持ち頂ければ宜しいかと」
「そうだね。たのもうか。出来れば派手にならず控えめで頼むよ」
「はい。かしこまりました」
鏡の前に座り、売り子から流行の兆候を踏まえた説明の元で化粧が施されていく。
「今年のルージュは少し押さえた色が出回っています。これなんかどうですか?」
「ふーん。微かだけど、甘い匂いがするね」
「お客様はお鼻が宜しいようですね。それとアイシャドウは・・」
べスパにもまだ時間はたっぷりあるので、売り子とたっぷり付き合いをして、
「私の上司にはこの色よりも、もう少し濃いほうがいいかな?」
と、自分の観点だけ出なく、人間の知恵も少々拝借して御土産を仕上げた。
次に洋品店や、本屋を冷やかしに行き、屋上へ上がる。小さな遊園地の状態だ。
アイスクリームを購入してベンチに腰掛けた時、
「ママー!」
小さい子がやってくる。
「ママ?あたしは違うぞ」
その小さな子は顔を真赤にして、
「ご、ごめんなさーい、間違えちゃった」
小さい舌をちろりと出す。
「はは、気を付けろよ。ほらあそこで手を振ってるのがおかあさんじゃないか?」
「うん!じゃあね、おばちゃん」
おばちゃん、という年齢ではないが、小さい子から見ればそうなのやもしれぬ。
「ママ、か。あいつはママを望んだのか?それとも単に惚れただけなのか」
答えが帰ってくるわけも無い。
そして、
夕日が映えてくる時刻が迫ると、べスパはバスで浜松町まで向かう。
バスを降りた丁度に花屋を見出して、
「・・・買うか」
と言って店に入る。何人かのカップルはいたが邪魔に成る程ではなかった。
店員が、
「いらっしゃいませ。どのような物を御探しですか?」
「そうだな。あまり大きいのはいい、黄色の華がいいかな?」
「プレゼントですか?」
「まぁ、そんなところだ」
その店ではセールの花束であったが、丁度の品を購入した後に、
東京タワーへと向かう。
展望台の料金を払うのも人間として来ている故である。
何分かして展望台に登ると、矢張りそこかしこに恋人の多い時間だ。
「こんな所に一人で来るの方が稀か」
エレベータの中で思うべスパだ。
上に付いて真っ先に西日の強い窓に向かう。どうやら男がひとり先客がいた。
何気なくその男の顔を見ると、知った顔だ。
「横島」
「あん?どな・・・あ!べスパ、目的は一緒かな?」
横島は汗びっしょりの状態である。
「あぁ、そうだな。でもお前なんで運動した後みたいなんだ?」
「ははは、金がないから階段で来たんだ。ちょっとばてたよ」
「・・お前・・。成る程な、あいつが惚れたのも少しはわかるような気がするよ」
「あいつの姉さんにそう言ってもらえると、少しは気が楽になるよ、あ、それ献花で」
「まぁな。でも窓が開かないようだからな、ここにおいておこうかな?」
「ちょっと貸してくれるか?」
黄色の華を手に取ると、文殊に何やらを込め窓を目掛けて放り投げると、
ガラスが無かったかの如く、外壁に黄色の花束が音も無く落ちる。
「ありがとよ、横島。あいつが転生するまでは、時間が有れば来てほしい」
「あぁ、ここが、惚れた女の墓だからな」
一陣の風が吹き、花びらが舞う姿は夕日に照らされ、蛍の如く煌きながら散っていった。

       -FIN-

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