ザ・グレート・展開予測ショー

魂の旅(1)


投稿者名:ツナさん
投稿日時:(01/ 3/18)

 春めいた風があたりを覆う時節。
 氷室キヌは、その開け放たれた窓から流れ込む暖かな春の息吹を全身に感じ取りながら、日課である事務所の整理を実に楽しげにこなしていた。
 彼女がこの事務所に住み始めてから早二年あまりの月日が過ぎていた。
「るるるんるるるんるんるん・・・・」
端から見れば面倒くさい雑務にしか見えない、書類を整理しているこの時も、彼女は心から好きであった。
 自然に聞き覚えた鼻歌を口ずさみながら、てきぱきと部屋を片付けていく。
『ただいまオーナーがお帰りになりました』
そこに人工幽霊一号が声をかける。同時にヘアのドアが開いた。
「あ、お帰りなさい美神さん」
「いつも悪いわね、おキヌちゃん。どう、きりのいいところでおやつにしない?ケーキ買ってきたのよ」
美神の手には帰りがけに近所のケーキ屋でかったレアチーズケーキがある。最近事務所に近くに出来た、フランスパリの五つ星のレストランでパテシエを勤めていたというケーキ職人の作ったケーキが食べられるという店のお勧めのケーキである。
「あ、いいですね。そうしましょうか、一段落ついたところですし」
おキヌは持っていた書類の束をダンボール箱に詰めると、お茶を入れてきます、とキッチンへと向かった。
「人工幽霊一号、シロとタマモ呼んでくれる?」
『わかりました』
人工幽霊に一言告げて、美神もキッチンへと向かった。
「紅茶はダージリンがいいわ。少し濃い目に入れてくれる?」
「わかりました。で、シロちゃんはミルク、と」
「シロには紅茶に香りがきついみたいね」
「ええ、私も最初は知らずに普通に出してたんですけどね。シロちゃんはちょっとあの香りが嫌みたいですね」
「そのうち慣れるわよ。タマモなんかは平気で飲んでるのにねぇ」
狼族は肉食だからかしらね、と美神は思った。ま、肉食といっても平気で人間と同じ物を食べるのだから、さほど人間と差はないのだろうが。
「ケーキ、ケーキ、早く食べよ」
「あの甘さが幸せでござる♪」
なんてやっているうちにシロタマが屋根裏から降りてくる。
「ちょっとは落ち着きなさいよ」
美神ははしゃぐ二人をたしなめながら、皿とフォークを並べる。
「はしはないでござるか?」
「あんたねぇ、こーいうものをはしで食べよーとする?」
「物を食べる時は手掴みか箸でないと、どうも気持ち悪いでござる」
「まあ、ああゆう独特の文化圏で育ったんだから、わからなくは無いけどね、少しはなれておかないとダメ。スプーンで食べなさいね」
「わかったでござる」
「お茶もって来ましたよー」
美神とシロが問答している内におキヌが紅茶とミルクを持ってきた。
と、おキヌの足が突如ふらつく。
「おキヌちゃん?」
美神が心配そうに声をかけると、おキヌは軽く微笑む・・・が。

がっしゃぁぁん

そのままカップを乗せたトレイを落としてへたりとしりもちを突くと、そのままぐったりと横たわる。
「おキヌちゃん??」
「どうしたの?」
「しっかりするでござる」
異変に気付いた三人がすぐさまおキヌに駆け寄る。
「あ・・れ・・・みかみ・・・さん?あ・・・」
おキヌはきょとんとした顔をしてわずかに声を発したが、そのまま気絶した。目をあいたままで。
「ちょ、おキヌちゃん、しっかりして、おキヌちゃん?おキヌちゃん?」
美神はしきりに声をかけるが、意識を取り戻さない。
「タマモ、救急車。シロ、横島君に連絡とって、携帯の番号知ってるわね?」
美神はパニックになりそうな自分を押さえ込みながら、二人にすぐに指示を出す。この倒れ方は尋常じゃない。とりあえず気管を確保するように仰向けに寝かせ、あごを少し持ち上げた状態で安定させると、まず大きく深呼吸して自分を落ち着かせる。
 そして冷静に症状を見た。
「・・・うそ、霊基構造が徐々に崩壊しているとでも言うの?何でこんなに急速に生気が失われていくの・・・?」
美神がみるに、おキヌの体から生気が急速に失われつつあった。
「救急車すぐ来るって!どう、おキヌちゃんの様子」
携帯をしっかりと握ったままタマモが叫ぶように言う。 
「・・・わからないわよ!!!」
「わからないって、美神さんがそんな事でそうするのよ?」
「救急車まだ?何でこんな時に限ってさっさと来ないのよ!!!」
「落ち着いて、さっき電話したばっかでしょ?」
「わかってるわよ」

だだだだだ、ばん!!!

「お、おキヌちゃん!!!!」
とそこに横島が飛び込んできた。よほど急いできたのか、かなり息が荒い。
「あ、先生もう来たでござるか?」
続けてシロも部屋に入る。
「文珠を使ったんだよ。さすがに四文字はきつかった・・・それよりおキヌちゃんどうしたんですか?」
「なぜかわからないけど倒れたのよ!!!」
「わからないって、美神さんがついてながら・・・。とにかく」
横島はポケットから文珠を出す。そしてすばやく念をこめるとおキヌの胸の上に置いた。
文珠には癒の文字が刻まれている。
文珠はすぐに発動しおキヌの体を暖かい光が包んだ・・・が。
「効かない???」
おキヌは意識を取り戻すどころか、わずかに痙攣をして、またぐったりとする。
「この馬鹿、この期に及んでしくじってんじゃないわよ!!!」
美神が髪を振り乱して激しく叱責する。
「いえ、ちゃんと発動しましたよ!!!・・・くそ、何がどうなってるんだよ!!!」
横島もわけがわからず叫ぶ。
「魂が消えかかってるとしか思えないんだけど・・・」
と、その時タマモが冷静な口調でつぶやいた。その返事は突如背後から現れた気配によってもたらされる。
「そのとおりだ。この娘の魂は消失しかかっている」
「・・・何しに来たのよ・・・死神!!!」
美神はその姿をキッと睨みつけた。
「落ち着け女。おまえの良く知る龍神の娘の下へその娘を運ぶがいい。道はあるはずだ」
「・・・死神のあんたがなぜそんな助言を?」
「その娘の魂はまだ死すべきときではない。神がそう決めたのだ。そして死すべき時は、私が迎えに来る事になっている・・・最もその時はお前達にとってはるか先の事だが・・・。急げ、時が無い」
それだけ言うと死神は姿を消した。と同時に救急車のサイレンがけたたましく響いてきた。
「・・・とにかく小竜姫様のところへ行くわよ。あいつがそういったんだから」




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