ザ・グレート・展開予測ショー

続・最強の女!?


投稿者名:桜華
投稿日時:(01/ 3/18)

 米田タエは管理人室にてお茶を飲んでいた。
「……ふう。やっぱりお茶は梅昆布茶だねぇ」
 いえいえ、煎茶や玉露などもなかなか。
「……梅昆布茶だねえ(ぎろり)?」
 ………………はい、そうですね。
「ふむ」
 満足げに湯呑を傾けるタエ。
「……む!」
 その動きが、ぴたりと止まる。
「混沌の気配!」(作者注:混沌はカオスと読んでねプリーズ)
 湯呑を置き、傍らにある戦国時代の武将もかくやというほどの強弓を手に取り、難なく弓を引く。
 放たれた矢は、ドアを紙の如くあっさりと突き破り、消えていった。
「のわああああああああああああ!?」
 それに続く、男の若々しい悲鳴。
「……若々しい?」
 不審に思い、タエはドアを開ける。無論、片手に薙刀装備で。
「おやまあ。小僧じゃないかい」
 ドアの前にいたのは、何度か見た覚えのある少年だった。
 数本の弓矢によって壁に見事なオブジェにされている少年の名は、横島忠夫。
「バ、バーサン。これは一体なんのまねっすか?」
 血みどろになりながら、横島は問う。それに答えて、タエは、
「いやぁ。貧乏でしみったれた匂いがしたものだから、てっきりカオスのおっさんかと思ってねぇ」
 にこやかに笑いながら、かなり失礼な事を言う。
「バーサン……」
「それよりも、何か用かい?」
「美神サンのお使いできたんだけど……」
「そうかい」
 言って、先に歩き出すタエ。
「なんでバーサンが行くんすか?」
「わしも用があるからのう。今日こそ家賃を取り上げてやるわい!」
(カオスのおっさん……いい加減払えよ……)
 カオスの部屋の前に立つ二人。
 ノックをしようとした横島を制し、いきなり合鍵で扉を開けるタエ。
「バーサン。いくら管理人でもそれは……」
「戦いは、先制、奇襲が基本じゃ。
 カオスさん! 家賃は出来たのかい!?」
 ずかずかと足を踏み入れながら叫ぶタエ。しかし、返事はなかった。
「留守か?」
 横島が言う。
「そうかもしれん。じゃが、そうでないかもしれん」
「は? それってどう言う……」
 横島の質問には答えず、タエはおもむろに弓矢を引いた。
 
 ズダダダダン!!

 一度に四本の矢が押入れに向かって放たれる。その後に続く静寂。
「押入れにはいないか」
 呟くタエ。
「バーサン。襖を開けりゃいいじゃねえか」
「甘いな、小僧。トラップが仕掛けてあったらどうするんじゃ。そんな初歩的な失敗を犯すわけにはいかん」
 思考はもはやゲリラ兵だ。
「外に出たのなら管理人室の前を通る。わしに判らんはずはない。とすると、窓から逃げたか?」
「確かに、窓からなんかシーツの梯子が垂れ下がってますけど」
「……フム。小僧!」
「はい?」
「御国のために死んでこい!」
 言うと同時に横島の襟首をつかみ、そのまま腰に乗せて窓の方向に投げ飛ばすタエ。
「はいいいいいいい!?」
 叫びつつも、しかしそこは美神の助手というもっとも過酷な職業に従事する横島。なんとか窓枠に手を伸ばしてつかみ、落下を免れる。
 だが――タエの方が、横島よりも何段も上である。
「バーサン! いきなり何をしてひいいいいいい!?」
「つべこべ言わずに死んでこい!」
 窓枠の横島の手首めがけて薙刀を振り下ろすタエ!
 手首切断と二階からの転落。横島は後者を選んだ。
 窓枠から手を離し、重力に従って落下する横島。二階程度の衝撃など、彼にはものの内にも入らない。
 しっかりと、横島は両足で大地を踏みしめ着地し――

 どごおぉぉおおぉぉぉおぉぉおん!!

 足元からの爆発に、さらに吹き飛ばされる。
「カオっさんめ。やはり地雷を埋めておったか」
 大空を待って消えていく横島を眺めつつ、タエが呟く。
「……仕方がない。帰るまで、待つとするか」






 数時間後。
『……作動開始。熱センサー、反応・なし。胴体センサー・反応・なし。赤外線センサー・反応・なし。室内に、生物はいません、ドクター・カオス』
 そんな声とともに、押入れがゆっっっっっくりと開いた。
 中から出てきたのは、右肩に矢が突き刺さってまるで落ち武者のようなカオス。後ろからはマリアも出てきた。
 肩を押さえるカオスには傷による痛みはなく、むしろあのばあさんを出し抜いてやったという喜びに満ち溢れていた。
「マリア。わしらはついに怨敵の魔の手を逃れた」
『イエス。ドクター・カオス』
「しかしながら、いつまた侵攻を再開するか分からん」
『イエス。ドクター・カオス』
「わしらの存在が気付かれんうちに、さっさとバイトに行くぞ」
『イエス。ドクター・カオス』
 忍び足で窓に近寄り、シーツの梯子から降りようとするカオス。
 だが……
「家賃の支払日は、もうとっっっっっっっっっくに過ぎてるんじゃがねえ」
 部屋の中から響く声に、その動きはぴたりと止まった。
 振りかえる。
 そこにいたのは、紛れもなく、米田タエであった。
「ななななんで部屋の中に!? センサーには何も反応しなかったぞ!?」
「ふ、甘いね。心臓の鼓動を止めて仮死状態に陥れば、センサーを欺くことくらいわけないさね!」
「ば、化け物め」
 その化け物が、薙刀を構えてゆっくりと近づいてくる。
「さて、カオスさん。家賃はで・き・た・かい?」
 その顔は悪鬼か修羅か、はたまた羅刹か。
「す、すまん。もう一日! もう一日だけ待ってくれ! 明日には必ず払うから! だから今は見逃してくれ!」
 無駄と知りつつも言い訳をするカオス。
 しかし彼は、次の瞬間呆然とした。
「しょうがないねえ。明日すぐにもって来るんだよ」
 なんと、あのばあさんが薙刀の構えを解いてそう言ったからである。
「……え?」
 はたしてこのババアがこれまでこんなにあっさりと引いたことがあっただろうか? この程度の言い訳で薙刀の構えを解いたことがあっただろうか?
 否! 断じて否である!
 そのあり得ないはずの出来事が起こり、カオスはしばし茫然自失とした。
「ところで、テレビつけても言いかい?」
「え? あ、ど、どうぞ」
 反射的に答えるカオス。
 テレビのつまみを押し、スイッチが入る。
『…………午前零時を回りました。ニュースをお送りします』
 テレビからは、そんな声が聞こえてきた。
 ニヤリと笑いながら、ゆっくりと振り返るタエ。
 その言葉の意味が浸透するまでに、かなりの時間を要した。
「さて」
 ことさらゆっくりと、タエは言う。
「『次の日』になったけど……家賃は出来たかい?」
 その顔は、夜叉か魔王か。
「も、もう一日――」
「待てん!!」
 彼女の名は、米田タエ。
 この世で最強の女である。

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