ピートが人といる理由。
投稿者名:ツナさん
投稿日時:(01/ 3/10)
ピエトロ・ド・ブラドーは人間にしてみればそれこそ永遠に近い年月を生きることを宿命付けられたヴァンパイア族の一員である。
彼の父は狂信的な世界征服論者で、母はととあるヨーロッパのいまや没落してしまった貴族の出の人間であった。
彼女の名はシュエルといった。貴族の身分で在りながら民とその時をともにし、多くの民に聖女とたたえられたクリスチャンである。
しかしその献身さゆえに時のバンパイアの王たるブラドーに自らその身をささげ、ピエトロを身ごもった。しかし彼女のその自愛に満ちた心はその後も変わることなく、聖女シュエルの名はいまだに多くのヴァンパイア族の者に語り継がれていた。
ピートには実のところ母の記憶はほとんどない。
彼らの時間と母、人間たる彼女の時間には大きな開きがあった。つまるところピートがそれこそ赤子のうちに、彼女は世を去ってしまうことになる。それが彼女の人としての生き方であり、また人間界の征服をたくらみつづけたブラドーへの唯一の抵抗であった。
その死に際し、ブラドー伯爵はこうのたまわったという。
「人の命はこれほどはかないものか。
私は彼女を愛し、永遠をともに生きようと願った。
しかしシュエルは言った。人とは借り物の時の流れを甘受しえ、そして時の終わりもまた受け入れることが出来る。それが人であり人の有り様だと。そしてその最後のときまで私の牙を拒否し、逝った。
彼女の思いはわかる。が、私はもうこの悲しみはたくさんだ。
ならばすべ手の人をわが一族、ヴァンパイアとして生まれ変わらせよう。私が支配者となり、すべての人間を失う悲しみから救おう」
残念ながらその思いは度重なる失敗と、彼の支配本能のため歪んでしまったが、ピートはゆがむ前の父に一度だけこう話したことがあった。
「父さん。やはり人は人であるべきではないかと思うんです。
人の一生は短い、しかしそれだけ大きな輝きを放つと思うんです。
母上は僕を生んですぐに、いえ、人としての天寿を全うして逝ってしまいましたが、われわれの心には確かに暖かい、そして輝ける思い出として母が生きているとは思いませんか。そして僕たちがより多くの思い出とともにあることこそ、人と我々の確かな繋がりであり、神に与えられた甘受すべき宿命であり、人にして永遠に近い時を生きる僕たちがその孤独に耐えうる唯一のものではないのでしょうか。人にとっても我々一族にとっても、ありのままでの生こそが祝福されるべき生き方なのではないかと思います」
その言葉に父はしばし物思いにふけっていたが、ヨーロッパの魔王たるドクターカオスという不老不死の人間に敗北を喫して以来、答えを得ぬまま歪んでいく事となる。
それからしばしの時を経て(といっても人間時間で約6百年ほど)、ピートは日本から来たある男と出会うことになる。
ピートはその人間と時をともにし、さまざまな事を学び、さらにさまざまな人と出会いそしてある時、こんな言葉を語っている。
「僕はいったい何人の人と別れていくのだろうか。愛しい人たちと別れるのは辛い。しかしそれもまた甘受すべき宿命の一つなのか・・・。
答えは、おそらく永遠に近い時を経てもわからないだろうけれど、それでも僕は人と生きて行きたいと願う。悲しみよりより多くの幸せな思い出が、僕の心にはあふれているから」
FIN
今までの
コメント:
- この作品を馬酔木さんの「永遠のあなたへ」に捧ぐ。
勝手に捧げてごめんちゃ。
多分めちゃくちゃだと思うけどきがむいたら読んで下され。 (ツナさん)
- ・・・・・・・・すごい。
の一言です。 (hazuki)
- 捧ぐ……って、よろしいんですか!?こんな素敵なの、頂いちゃってよろしいんです
か!?(><)←嬉しさのあまり動転中
騒ぎたくっててすみません。本当に嬉しいです。ブラドーもピートもピートのお母さん
も……みんな素敵で、本当にすごいです。私の書いたものにこんなすごいもの捧げてもら
えるだけの価値があるのでしょうか。お釣りが出まくりですよ
ああ、勿体無いっっ!!(><)
すみません。「永遠のあなたへ」、最後までもうちょっとあるのですが、個人的な都合
で投稿遅れまくってます。こんな素敵なものを書いて下さったツナさんにも恥じぬよう、
頑張ります。本当、ずるずる引きずっていてすみませーん……(TT) (馬酔木)
- ルポルタージュ風の構成が効いてますね。
シュエルを失った寂しさ故に歪んでいくブラドー……彼女は決して望んではいない形であるはずだし、ブラドーもそれを自覚していたでしょうに……その皮肉が、悲しいです。 (Iholi@プロメとっとと書かないと……)
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