ザ・グレート・展開予測ショー

別れの前に・・・。 


投稿者名:ツナさん
投稿日時:(01/ 3/ 8)

 深夜。もうすぐ夜の1時を回ろうかという時間だった。
 その時間、ルシオラはなぜか目を覚ました。
「ん・・・」
月明かりの中、目覚し時計を見ると、眠い目をこすりながら起き上がる。
何かの予兆だろうか。頭から突き出した触覚が、何事かを察知したように感じたのだ。
 何事か、とは何か・・・。
 それもわからないまま導かれるようにベッドを降りる。隣のベットを見ると、パビリオが幸せそうな寝顔で寝息を立てていた。彼女は何も感じてはいないようだ。ルシオラはわずかに笑みを浮かべるとパビリオを起こさないように気を使いながら着替えるとそっと寝室を出る。
『何か御用ですか?』
廊下に出ると人工幽霊一号が直接彼女の意識に語りかけてくる。どちらかというと霊体に近い彼女と人工幽霊一号は直接言葉で会話を交わすよりテレパスのほうが意思の疎通が図りやすい。
「少し屋上で風を浴びてきたいの」
ルシオラは無意識のうちに答える。まるで誰かが待っているかのような口調で。
『・・・わかりました。その程度でしたらオーナーに話を通さなくてもいいでしょう。今屋上のドアの結界を解きます』
人工幽霊一号も巧みにそれを感じ取ってはいたが、そこに悪意を感じることはなかったので、了承する。  
『・・・解けました。ただし精神の一部をつないでおきますが・・・』
「わかってます、気にしないで」
『どなたとお会いに?』
「・・・さぁ。私にも・・・」
『そうですか。良い夜になるといいですね』
意味深な言葉に、笑み(人工幽霊に顔があるかどうかはこの際置いといて)を浮かべ、送り出す人工幽霊一号。ルシオラも笑みを返すと、屋上へ出て行った。

「こっちから行こうと思ったんだけどな・・・」
「・・・ヨコシマ・・・なのね」
屋上に出たルシオラの目の前に立っていたのは、おそらく20代後半であろう、ヨコシマの姿だった。ヨコシマはただやさしい、そして寂しそうな困ったような笑みを浮かべて立っていた。
「・・・ひさ・・・いや」
対峙する二人。ヨコシマが声をかけようとしたが、慌てて口をつぐむ。
「なに?」
ルシオラはただ笑みを浮かべて聞き返す。毎日会っている彼とは違う彼と知っていても、同じ微笑みを浮かべて。
「・・・いやな。もう一度若い頃の君に会いたいと思ってな。来ちまった」
「・・・そう」
何か照れたような、困ったような顔で頭を掻くヨコシマの傍らにそっと歩み寄るルシオラ。
「・・・ヨコシマって、うそつくのが下手ね。ずっと変わらないのね」
「・・・うそなんかついてないさ・・・」
目線を合わせようとするルシオラ。その視線をそっとそらすヨコシマ。ルシオラは寂しそうな笑みを浮かべる。彼女はヨコシマと会った瞬間から、会った瞬間、その笑みを見た瞬間からすべてを察していた。
「私・・・・」
「言うな。言わないでくれ・・・」
ルシオラの言葉を遮るように声を荒げるヨコシマ。気付かれたとしても言ってほしくない言葉がある。
「言いに来たんでしょ。わざわざ・・・」
平然と、まるで子悪魔のごとくいたずらっぽく言うルシオラ。ヨコシマは何も言わず、ぐっとルシオラを抱きしめた。
「・・・出来れば助けたいと思った。いや手段はある・・・たぶんな」
「あなたはヨコシマであってヨコシマじゃないわ・・・」
「そうだな。すまん。これじゃまるで死神だな・・・くそ・・・」
「・・・いつ?」
「一週間後・・・」
「そう」
「ありがとう、ヨコシマ」
「礼なんかいわれたって・・・、言われたってなぁ・・・」
「ごめんね・・・」
「・・・・・・」
「今度はいつ会えるのかな・・・」
「きっと会えるだろ・・・いや、会えるんだ・・・」
「・・・ヨコシマがそういうならきっとそうね・・・」
そういって振り返り背中を見せるルシオラ。これ以上は何も言うことはない。ヨコシマの手には文珠が握られていた。その文字は忘であった。
「記憶は消さないで・・・」
振り向きもせず言うルシオラ。
「いいのか?」
「・・・いいの。私はあなたに、そしてもう一人のあなたに会えただけで幸せだから」
「俺も・・・そうだった」
「良かった。じゃ、いくわ」
「会いに行くのか。・・・話は聞いたな、人工幽霊一号」
『・・・ばれてましたか』
ヨコシマが話し掛けると人工幽霊一号がばつが悪そうに答えた。
『朝までにはお帰りください、ルシオラさん』
「・・・わかってるわ。じゃあね、ヨコシマ」
「ああ、またな」
その瞬間、ヨコシマの気配が消えた。ルシオラは空をじっと眺める。
『ゆっくりと、泣いていらっしゃい・・・』
「・・・泣かないわ。また会えるって言ったから・・・」
  

                                   fin

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