ザ・グレート・展開予測ショー

NERVOUS BREAKDOWN!!(6)


投稿者名:ブタクリア
投稿日時:(01/ 3/ 6)

数人でカラオケを楽しんでいる現場を、一歩引いて見てみると、マイクを持っている者以外の者は曲を選んでいたり、他の者と話をしていたりで、結局カラオケを楽しんでいるのは歌っている本人だけ、という話がある。
まさにこれこそ人生の縮図ではないか。

喧騒の中のビルの一室、そこで一人の人間の生命が消えようとしている。
が、そんなことはおかまいなしに、街の喧騒は続く。

雪之丞は、事切れる前にやらねばならぬ事があった。
(まずいっ……「死」はマズイ!……「生」か!? 「蘇」か!? 「癒」……「戻」……復活……ええいっ、もう、なんでも……いい! 生存……治療……復帰……存……命……………)
雪之丞の体が光を帯びる。
光が消えると、雪之丞はムクリと起き上がった。
『ちっっくしょう!! 早速1個使っちまったぜ』
スーツの胸ポケツトから取り出した、小さな巾着のような物を握り締めて床を叩く。
多少違和感はあるが、元通りになった腹部に目をやり、風穴の開いた服や飛び散った血液がそのままになっているのを見て思う。
(チッ、アイツなら、服も、なにもかも元通りになるような機転が利くんだろうがな……)
そんなことを考えながら、いくら見渡しても、部屋に女の姿はなかった。

来た道を引き返すように徐邸に帰る。
と、入り口のところに麻生の姿が見えた。
外で立って待っている麻生を見て誰かが気を遣ったのか、椅子にちょこんと座っている。

近くに来ても座ったままなので、変だなと思い、そのまま麻生の前までくると、眠っているからだと解った。
『おいっ!』
少し大きめに声を出し、起こそうとするが、彼女は低血圧なので「うぅ…」と唸っただけでなかなか起きない。
しかたがないので指で瞼を無理矢理開いて顔を近付ける。
『起きろ!!!』
雪之丞が怒ったような声に怒ったような笑顔で言と、麻生はふらふらしながらも起き、その拍子に椅子から転げ落ちた。
『雪之丞!ど、どうでした!?』
目をこすりながら言う麻生。
『フンッ……やられたよ』
そう言って親指で腹を指す。
血だらけの破れた服を見て麻生は、あの惨事を思い出したのか、すでに胃には何も入っていないのに、また嘔吐しはじめた。
いつもの事なので、今までのことを説明し終えると、理解したという意思表示に、麻生は吐きながら手でOKサインを出した。
『雪之丞さん!』
胡紅が駆け寄ってきた。
『雪之丞さん……あっ、その格好は!?』
いかにもバツ悪く答える。
『フン、ドジ踏んじまってな』
『おケガは!?』
『ああ、友人から貰った(正確には友人の上司から買った)お守りのお蔭でな』
そう言うとポケットから取り出した、カラの小さな巾着を胡紅の手に握らせた。
自分でもなぜそうしたのか解らないが。
『やるよ、もう効果はねぇが、気休めにはなるだろ』
手の平のお守りを見ていた胡紅が雪之丞に目をやり、言う。
『あ、服の代えを、すぐ用意させます!』
断ろうとも思ったが、腹に穴の開いた服じゃ格好がつかないので、断るのをやめた。


今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa