ザ・グレート・展開予測ショー

おキヌのような花


投稿者名:Misao
投稿日時:(01/ 3/ 2)

雨。
しとしとと静かに降る雨は、何故か回りの音を消し、静寂を呼ぶ。
そして憂鬱さを増してしまう。
「昨日はあんなに晴れとったのになぁ・・・」
横島の心も晴れから雨に変わっていた。
今日、おキヌとは一言も会話を交わしていなかった。というより交わせなかった。
事務所のソファーに石のように動かずただ座っている横島。
仕事もキャンセルになってしまい、やりたい事もない。
おキヌが来るのを、ただ待っていた。
「何であの時、思い切って言えなかったんだろ・・・」
昨日の事がどうもひっかかっていた。
今までおキヌのことで、こんなに悩む事があっただろうか。
いつも笑っててひかえめで、明るく振舞ってくれるおキヌ。
しかし昨日のあの言葉。
『ちゃんと・・・私を1人の女として見てくださいっ!』
あの強い目、それから冷たい態度。
なぜあんなささいな事から、おキヌがキレてしまったのかが分らなかったのだが、なんだか自分も辛い。
きっと彼女は今まで、気持ちを心の中に押さえ込んでいたのだろう・・・この自分の曖昧さに対するもどかしさを。
自分はどこかで避けていたのだ。誰か1人だけを心から愛する事に。
避けていた?違う、恐れているのだ。失った時のあの悲しさがトラウマになって・・・。
でも、だからって彼女をこのまま傷つけていくだけなのか?
サーーーーーー。
雨音が耳鳴りのように気持ちが悪い。
「俺、何やってんだろ?」
なぜこんなにシリアスに考え込んでいるのか、自分で少しおかしくなってくる。
笑ってればいいのに・・・笑えない。
カチャリ。
ドアの開く音と同時に反射的に呼びかける。
「おキヌちゃ・・・。・・・すいません」
横島は少し照れてまたうつむいた。
「・・・あんた、おかしいわよ?私とおキヌちゃん間違うなんて・・・らしくもない。
何そんな似合わないマジな顔して悩んでるんだか〜。
それでなくても雨だし、仕事キャンセルされてイライラしてるのに・・・うっとーしーわね」
美神は大きな音を立て、荒っぽく椅子に座り、書類に目を通している。
「べ、別に悩んでなんかないっすよ!」
「おキヌちゃん、なんだかあんたに冷たいわよね〜。4回ふざけて4回無視されてたし。
一体なにやらかしたの?仲直りさせるのは私の仕事じゃないし、金にならないし、どーでもいいんだけどね」
あんたも問題に入ってるんだよ・・・と心の中で呟きながらも、口に出してはいえない。
「美神さん、俺ちょっと出かけてきます」
横島は勢いで外へ出た。
「・・・何考えてんだか。雨に濡れていい男にでもなろうってのかしら?バカねぇ」
誰もいない公園。
横島は屋根付きのベンチに座った。
そうだ・・・俺は一体誰が本気で好きなんだ?
気付けばこき使われながらもけっこうマジで仕事に没頭してた。愛する者を失った。美神さんと、おキヌちゃん・・・俺は誰かを愛せるのか?
「風邪・・・ひきますよ」
いつもの高くて優しい声。
「お、おキヌちゃん!・・・」
「私、ここで考えてたんです・・・。昨日、あのドレスを見た時、私の想いってどうなっちゃうのかなって思ったら。気付いちゃった、今まで避けてきた事に。
ずっとこらえていたキモチ、溢れ出しちゃって。
私の気持ち、中にしまっていたほうがみんなに迷惑かけないし、傷つけないし、そのほうがやっぱりいいのカナ・・・って」
おキヌは白く軟い手を組んだ。
「今日、横島さんがニコニコしながらも一瞬つらそうな顔するの、分っちゃうんですよね。
でも、ずっと引いてばっかりの私じゃ嫌だから、無視するしかなくって・・・。
なんか、ハッキリしないのは私ですよね!」
おキヌは背を向け、歩き出して止まった。
「私、横島さんがはっきりしてくれるまで待とう、待とうって。ずっとそう思ってきました。
でも私にだって・・・耐えられないこと、あるんですよ・・・」
「わ、わかってるよ。おキヌちゃんは思いやりがあるから美神さんや俺のこと」
「分ってないじゃないですか・・・。
そうやって優しくされればされるほど私、辛いんですよ!?」
横島は口を閉じた。
「美神と横島さんはいつも楽しそう。でも私はそんなに打ち解けられない。
私だってヤキモチ焼きます!横島さんに想われたい・・・。私のこと・・・想ってくれないんだったら。
・・・冷たくされたほうが楽なんですよ」

この言葉を言い残してから、おキヌが事務所に来ない日が続いた。
「あの・・・今日もおキヌちゃんは・・・」
「だぁから!里帰り!!言ったでしょうが。何日も何日も聞かないでよ。一週間は帰ってこないってば。
はぁ〜・・・。おキヌちゃんいないと部屋が散らかりほうだいだし、まともな食事もできないし?困ったもんだわ」
横島は拳を握り締めた。
答えを出さないと・・・これ以上おキヌちゃんを傷つけられん!


次回へ続く。


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