ザ・グレート・展開予測ショー

【リレー小説】『極楽大作戦・タダオの結婚前夜』(9)


投稿者名:桜華
投稿日時:(01/ 2/27)

 通りをこそこそと物陰に隠れながら、三人の美女達が歩いている。一人は満面の笑みで。別の一人はこの世の終わりのような顔で。最後の一人は、冷や汗を流して引きつった顔で。人目を引くことこの上ないが、彼女達はそれを気にかけない。気にかける余裕など持ち合わせてない。
「横島さんが……」「横島クンが……」
 希望と絶望という対極に位置する二人が言う。引きつった笑顔で、もう一人の女性――ヒャクメは話題を変えようと必死になっていた。
『で、でもまあ、未来の事ですし、これから変わる可能性も……』
 嘘である。無限とも言えるシュミレーションのすべてが行き着くという確定的未来での横島の花嫁がキヌなのだ。現在に戻ってどれだけ頑張っても、結局横島はキヌを選ぶと言う事だ。
「はあ。なんか、やる気なくした……」
 美神がため息のついでに言う。
『そ、そんな。頑張ってもらわなくちゃ困りますねー。ここで横島さんになにかあったら、また大戦の再現になる可能性もあるんですねー』
「そうは言うけどさあ。大体どうやって未来を思い通り変えようってわけ? 奴らの目的は横島クンじゃなくて、横島クンの娘なんでしょ。今どうこうしても、彼女が自分たちの望み通りになるなんて保証はどこにもないのよ」
『暗殺なら、横島さんを殺せばそれで事足りますねー』
「味方に引き込むつもりなら?」
『特定は出来ないけど、いくつかありますねー。
 一つ。横島さんを洗脳する。つまり彼を通じて自分たちの思い通りに教育しようってわけねー。
 二つ。横島さんの霊基構造をいじる。自分達の命令を聞く従順な人形にするのよねー。霊体は一部ながら遺伝する……というよりも、影響を受けるから、上手いことやればもれなく親子でゲットできるのよねー。
 他にもあるけど、とりあえず可能性が高いのはこの二つねー』
「次の確定的未来で行動を起こす可能性は?」
『ないとは言いきれないけど、その時は横島ファミリー全員を相手にしなくちゃならないのよ。私だったらそんなのごめんねー』
「敵さんはやっぱ来るか」
『そうですねー。だからやっぱり、美神さんとオキヌちゃんに頑張ってもらわなくちゃいけませんねー』
「そうね……おキヌちゃん、いつまでトリップしてんの! 横島クンを追うわよ!」
 現実に回帰し、再び追跡を開始した美女三名。それでも人目に気付かないのはなぜだろうか。





「横島さん!」「兄ちゃん!」
 呼びかけに、横島は足を止めた。振り向くと、そこには子連れのグラマー美人。
 見覚えのある顔に、横島は驚愕した。
「美衣さん、ケイ!」
 二人は、かつて横島が身を呈して救った事のある化け猫親子だった。
「兄ちゃん!」
 子供の方……ケイが横島に跳びついた。
「兄ちゃん、久しぶり!」
「久しぶりだなあ、ケイ。何年振りかな、大きくなったなあ」
 確かに、初めて出会った時は小学生ほどの外見だったのが、中学生ほどのそれに成長していた。
「妖怪だって成長するんだよ」
「そうだな。見違えたぞ」
 抱きかかえたケイを下ろし、美衣と向き合う。
「お久しぶりです」
「あの時は本当にありがとうございました。ご結婚、おめでとうございます。」
「いえ、大した事はしてませんよ。それより、一体どうしたんですか、こんな人里に下りてきて?」
「おキヌさんから招待状を貰ったんです。聞いてませんか?」
「あいつが? ヘぇ、そうだったんだ。でも、山奥にですか?」
「はい。石神という方が使いだとおっしゃって」
「……なるほど」
 浮幽霊に届けてもらったというわけだ。
「でも、いいんでしょうか? 妖怪なんかが出席しても」
「構いやしませんって。オレ達は付き合い広いすからね。町内の不幽霊も集まるし、神族・魔族も来るんですよ。妖怪の一人や二人、全然大丈夫ですよ」
「し、神族・魔族もですか?」
 拍子抜けの美衣。そんな事は想像してなかったようだ。
「だからそんなに気にかけなくていいすよ」
「は、はい」
 見つめあう二人。しばし、甘い雰囲気が流れる。
「横島さん」「美衣さん」
 互いが互いの名前を呼び…………空が、翳った。同時に、なにやら落下音。
「へ?」
 見上げる横島の顔が驚きに染まる。
「ダーリ〜〜〜ン!!」
 降ってきた女は、そのまま横島に抱きついた。
「ダーリン、じゃない、もう結婚するんだったね。横島、久しぶり!」
「おま…グーラー!?」
「おキヌに招待状貰ってさ。子供達と急遽かけつけたんだよ」
 上空には、二十六匹のガルーダが舞っている。
「でかくなったな、あいつらも」
「成長期だからね。人間で言えば小学生ってとこかね」
「なんで翼が生えてるんだ?」
「あたい達が戦ったのは、霊基構造を操作された陸戦仕様の奴だったみたい。これが本物のガルーダさ!」
 雄々しく翼を広げて大空を舞うガルーダ(ただし人間の子供大)は、確かに魔鳥の名を冠するにふさわしかった。しかも、二十六匹。圧巻だ。
「だけどお前ら、どこに泊まるってんだ。あいつらと一緒じゃ、ホテルはムリだぞ」
「まだ決めてないんだ。横島、泊めてくれないかい?」
「ムリだよ。入りきらねえって。そうだな……妙神山はどうだ? 神族の人間界駐留所の一つなんだが」
「あ、そこいい。あんたも行かないかい?」
「え? 私ですか?」
 いきなり話題から外されたかと思えばいきなり話題を振られて、すぐに答えられない美衣。その沈黙を、グーラーはイエスと受け取った。
「よし、決まり。横島、早く連れてっとくれよ」
 グーラーに促され、ケータイで連絡を取る横島。
「あ、もしもし小竜姫様? え? ちょうどよかったってなにが……月神族が来てるぅ!? 迦倶夜さんと神無と朧が? 地球の霊気の薄さに瀕死になって妙神山に保護ぉ!?」
 いきなりいつもの霊気濃度の百分の一の場所に降り立てば、そうなる事も仕方ないだろう。
「大丈夫なんすか? そうすか。あ、こっちはですね。ちょっと人を預かって欲しいんですよ、一晩だけ。妖怪なんですけど。ええ、29人。うち、27人は子供……そこをなんとか……ありがとうっす。お願いします。じゃ。
 O・Kだってよ」
「よっしゃぁ!」「すいません、何から何まで」
 相反した反応の二名。
「いいすよ、別に。それじゃ行きましょうか」
「空飛んで行こうよ。うちの子供達がやってくれるってさ」
「「え……」」
 冷や汗をかいたのは、空など飛んだことのない化け猫二匹だった。





「ミギャァー―ーー! 恐い、恐いーーー! 空飛んでるぅぅぅぅぅ!!」
「落ち着きなよ、美衣。別に落ちたりしないさ」
「フギャァーーーーー! 兄ちゃん! 助けてぇぇぇぇぇ!!」
「落ち着けって。誰もとって食いやしねえよ」
 錯乱中の化け猫二匹を連れて、一行は妙神山へと向かっていた。
「しかし……なんだ、この殺気は。なんか、寒気がする」





 同時刻。地上。
「横島ぁぁぁぁ! このごに及んで他の女といちゃつきやがってぇぇぇぇぇ!」
「明日はもう結婚なのにぃぃぃぃぃ!」
「……………」
 嫉妬と怒りの炎を燃えあがらせる二人の女と、大量の脂汗を流す一人の女性が、そこにいた。

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