ザ・グレート・展開予測ショー

NERVOUS BREAKDOWN!!(5)


投稿者名:ブタクリア
投稿日時:(01/ 2/15)

冷たい風にはコンクリートが良く似合う。
誰の言葉でもない言葉だが、悪くないイメージだ。

女の家まではそう遠くなかった。
彼女は雪之丞がはぐれぬよう、ときどき後ろを向いて雪之丞の姿を確認すると「へへ へへへ」と嬉しそうに笑う。
その姿を見ながら雪之丞は、ボサボサ髪と目の下の強烈なクマをなんとかすれば、ママに似ていなくもないかなと思った。

錆びた鉄の階段を登り、無造作に張り付けた様なドアを開けて入る。
雪之丞は彼女が軽い混乱状態に陥っているがゆえの、挙動不信なのであると思っていたが、彼女にはこれこそが日常であり正常であると考えを改めることになった。
(………イカレてやがる)
この部屋の雰囲気を言葉で現すと「サイコ」や「電波系」といったところだろうか。
コンクリートの壁は様々な色のペンキがぶちまけられ、上から謎の文字が無数に書き殴られている。
家具は散乱し、電化製品は故意に壊された跡があり、飾ってあったと思われる花は萎れて床に横たわっている。
「………まあ、人の趣味はそれぞれだからな」
とりあえず何かを言おうとして、そんな言葉が口をついた。
女は「へへへ」と笑い、髪をかきあげようとして、またもつっかえた。
『あ、えと、洗ってきますね』
そう言うと彼女は奥のドアへ入っていった。
雪之丞は、どこに座っていいものかわからないので、その辺の物に目をやって待つ。
普通の家庭にある様なものが異常な変形・散乱をみせている中に、意外な物を発見する。
(式神ケント紙?)
ドアの開く音がして、赤く染まったタオルを首にかけた彼女が戻ってきた。
左手には先程からもっている包丁、右手にはフランスパンを持って、モフモフとかじりついている。
よく見るとパンにはカビが生えていた。
彼女はモフモフしながら言う。
『あっ!、これ、パンです!……食べます?』
『いや、いい』
『そうですね……あんまりおいしくないし』
そう言うとテーブルにパンを置いた。
圧倒されている自分に気づき、雪之丞は気を取り直して、彼女に質問をする。
『で、どうしてあそこにいたんだ?』
彼女は雪之丞の声が聞こえなかったか、質問の意味がわからなかったかの様に「へへへ」と嬉しそうに笑っていた。
この部屋の様を目の当たりにした雪之丞には、その沈黙が何か意味のあるものに思えた。
『徐の家の庭に、どうして居たんだ?』
もう一度、言い聞かせるように質問を発する。
『あ!はい!私ですね!?……徐、さんの、家の庭……なんか、行けって言われた、ような……いや、私が行こうと、思ったと思います、あ、でも、いや、徐さんに、来なさいって……言われたような………』
考えれば考えるほど、言動が支離滅裂になってゆき、それに合わせて雪之丞を見ていた瞳の焦点がずれ、口が半開きになる彼女。
(チッ、まともな話にならねぇな)
彼は性格上、人の話をじっくり聞くなど、無駄な時間だとさえ思ってしまうが、そうも言ってはいられない。
見るからに思考の果てにイッてしまっている彼女を呼び戻すため、テーブルを強く叩く。
バンッ
彼女は背骨を引っ張られたかの様な反応をし、雪之丞に焦点が戻った。
『………名前は?』
『あっ!え、はい!翠玲(すいれい)です!』
そう言うとまた「へへへ」と嬉しそうに笑う。
『翠玲、落ち着いて、とりあえずその包丁置いたらどうだ?』
なんとか彼女の精神をまともな状態にしようと発した言葉だったが、逆効果だった。
翠玲は固まらんばかりの勢いで握っている包丁をじっと見つめて、なにやらブツブツとつぶやき始めた。
(……またか)
先程の様になんらかの刺激を与えて正気に戻そうとしたが、今度の彼女の思考は、凶器に集中している。
どうしたもんかと翠玲の様子を伺う。
ドブッ ヂュ
(!!!???)
腹が、焼ける様に痛い!
気づいた瞬間、全身に冷たい汗が浮かぶ。
グジュ キ゜ュ
何かはわからない、だが、臓器が握りつぶされている様な……。
『あ゛っ』
雪之丞の後ろから、濃紺の装束を纏った何かが、その右腕で雪之丞を貫いている。
『あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛う゛ぐぁぁぁぁ!!!』
ブジュ
握られていたモノが弾けた。
『%*@$#&^/j<<<<.;;@%\♪!!!!!!!』
気が狂いそうな痛みで倒れながら、後ろを見る。
(式神……か!?)
それ以上、頭を働かせることが出来るわけもなく、薄れゆく意識の中で雪之丞の頭に「死」という文字が浮かんだ。


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