ザ・グレート・展開予測ショー

オカルトG−メン西条の事件簿。終章


投稿者名:ツナさん
投稿日時:(01/ 2/15)

 事件から数日後。
 ちょうど正午を回ってお昼休みに入った頃。 
 オカルトGメン本部の屋上に西園寺の姿があった。
 事件解決の翌日には数十ページにもなる報告書を書き終え提出した彼はその後、与えられた仕事以外は何をするでもなく、こうして屋上に通っては何をするでもなくフェンスに腕を乗せてぼんやりと空を眺めている。
 その面影は少しやつれたように見えた。目の下にくっきりとくまが現れ、いかにも睡眠不足です、と訴えているように見える。自分のやってしまったことに対して結果が見えない、明らかに後悔の念がそこに見て取れた。
 西条はそんな彼を見て痛々しく思った。自分が手を下すべきであったと後悔もしたが、後の祭りである。
「西園寺」
下手に刺激をしないように、後ろからそっと声をかける西条。
西園寺は数秒間、じっとそのまま空を眺めていたが、西条が立ち去らないのを感じ取るとゆっくりと振り向いた。 
「どうも」
その声は張りがなく、まるで十も老けたように感じる。
「答えは見つかったか?」
「いえ、ぜんぜん見当もつきませんよ。どちらに転んでもただの人殺しでしょ」
「そうだな。確かにそうだよな」
「僕はね、西条さん」
「ん?」
「人を殺したいと思ったことは何度もある」
そのショッキングな発現にも西条は何も言わない。
 彼ら霊能者は必ずどこかでひどい仕打ちを受けている。それは学校のいじめであり、社会からの畏怖と軽蔑の目であり言葉であり、他にも世間的にさまざまな迫害を受ける。その力が顕著であればあるほど。
 「人」とは違う。ただそれだけでどこへ行こうと好奇と恐怖が付きまとう。
 そのため邪な道に落ちていくものも少なくないが、ほかの者はどこかで霊能者としての自覚と誇りに目覚め、自らを生かす仕事を生業に生きている。
「この仕事について、生きがいを感じるようになってからは思ったことはないですけどね」
「ああ」
「でも本当に殺すとは思っても見なかったです」
「そうか」
西条はタバコに火をつけながらただ黙って話を聞く。
「所詮はただの人殺しなんです」
「だが俺は助かったよ。そしておそらくはこの街に住む何万という人間の命もな」
「・・・」
西条の助かった、という一言に西園寺は無言で答える。
西条はタバコを吹かしながらその視線をそっと受け止めた。
「誰かがやらなくてはいけない事がる。それが正義だとは言わないよ。そんな生易しいものではない。除霊1つとっても同じことだ。それが100%の正義なんてことはない。
 ま、ジャスティスなんて霊剣を持つ人間の言葉ではないかな、こんな言葉は」
「先輩は、どうでした、こんなとき」
「初めてのときは苦しんださ。その次はその半分苦しんだ。でその次はその半分、最後には何も感じなくなった。・・・正直、怖いよ。こんな仕事明日にでもやめたくなる」 
「ですよね」
「だが、やめられないだろ。俺がやめたら他の誰かが俺と同じ苦しみを味わうことになる」
「・・・先輩らしい言葉ですね」
「そうか。ま、そういうことだ。お前の気持ちもわかる。分かるけれどこの仕事を続ける限り避けられないことだぞ」
「・・・考えていても始まらない、か。なんか少しだけ気が楽になりましたよ。しかし殺すことでしか救われない命があるって言うのも、悲しいですね」
「そうだな。今度はそうならないように努力しよう、お互いにな」
「はい!先輩!」
「少しはマシな顔になったな」
西条は西園寺の先ほどとは違い鋭い意思を持った真摯な目を見て、彼をパートナーにしようと心に決めた。
 彼とならうまくやっていける、と思った。
 嫌なことの後には何かしら良いことがある、そう信じてやまない西条である。そうでなければとうの昔に笑顔を忘れていただろう。

ぐぅぅ

「あ!!」
その時ちょうど西園寺の腹がなく。西園寺は恥ずかしそうな顔を赤らめ、西条は思わす吹き出してしまった。
「ははは、いいタイミングでなったな」
「はぁ、そういえば一昨日から何も食ってません」
「なにぃ、良くそれで仕事してたな。よし、ランチに行くぞ、『相棒』」
「え、あ、はい!!!」
相棒といわれ、少し戸惑った西園寺だったが、すぐになんともいえない嬉しさがこみ上げてくる。
「当然先輩のおごりですよね?」
「なに言ってるんだ、お前のおごりに決まってるだろ?」
「そんな、まだ給料日前なのに」
「冗談だよ、ははは」
と西条が笑みを浮かべたその時、入り口の鉄扉が開け放たれ、部下の一人が飛び出してくる。
「西条さん、109(霊的傷害事件)発生です!」
「どこだ?」
「南地区一丁目のマンションです!」
「こんなときに!!」
「パンにミルクぐらいは買っていけるだろ!急いで用意しろ!3分後に出動するよう伝えろ!」
「了解!!」
部下が一礼して階段を駆け降りていく。
「さあて、気合入れていくぞ!」

ぱぁん

西条はにやりと笑うと思い切り西園寺の背中を叩く。
「いってぇぇぇ!!!」
西園寺は背中を走る痛みに一瞬顔を歪めていたが、何かを吹っ切ったような、そんな顔をしていた。

fin

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