ザ・グレート・展開予測ショー

月ニ吼エル(15)〜後編


投稿者名:四季
投稿日時:(01/ 2/14)

 関の表情に、皆それぞれに期待の表情を面に浮かべた。

 掴み所のない人物だが、ここまで楽しそうな表情をすることは滅多にないのだ。(横島や美神をからかう時くらいである)

 息を呑んで見守るギャラリィを見回し、たっぷりと溜めを作ってから、関はきっぱりと断言した。

「有力な情報は、なにも得られなかった!」


 ずがしゃーっ!×3


「なんじゃそりゃー!!」

「そう言えば、俊介君そういうの好きだったわね……」

「人間って……」

 それぞれから驚愕を通り越して唖然の表情を引き出した関はいたく満足そうな表情でうんうんと肯いていた。

「いや、なかなか重要だぞー?通常のウィルスでは有り得ない死に至り、おまけに生存本能から、どう隠そうとしても残ってしまう筈の残留霊波すら誤魔化す。面白いじゃないか」

 関が心底そう思っているだろうことは、その瞳の輝きを見れば明らかだった。

 厄介事が好きなのかもしれない。

 未知の出来事にわくわくしている子供のような表情だった。

「面白いって……」

「……相変わらずだわ」

「迷惑な嗜好……」

 苦笑する美智恵以外の二人が半眼になる。

 げんなりした表情だ。

 それでも笑顔が崩れない関は、色んな意味で『普通』の枠からは逸脱している人格かもしれない。

「何、ヒントもあるとも」

「ホントっすか?」

 半信半疑の横島の面持ちに、関が傷ついたような表情を作った。

「酷いなぁ、僕はこんなに君の意見を必要としているというのに」

「……嘘吐き」

 タマモが胡散臭そうに目を細め吐き捨てた。

 九尾の狐のそれよりも優れた幻術があり、妖孤が化かされることがあるのだと言う事を、最近実感している彼女である。

 魔法を使えなくても魔術師にはなれるのだ。

「ま、それはいいから、ヒントとやらの事を教えて欲しいわね」

 このままでは埒があかないことを知っているのだろう、付き合いの長さで一日の長がある美智恵が、話題に軌道修正を施す。

「まあ、霊現象とは関係ありませんが。――身内や知人に確認できた限り、どの被害者も亡くなる数日前に風邪のような症状を訴えていたそうですよ」

 横島の目が、少し険しくなった。

「必ずしも呪詛の類じゃないってことですか?」

 それによって対処法はまるで変わってくる。

 しかし、ただの病なら先程の霊薬と文珠で回復している筈なのだ。

「さて、それを知る為にも、協力して欲しいのだけどね……」

「間違いないよ、それは呪詛だね」

 関が当初の目的に返ろうとした時、やけに断言調のハスキーな声がそれを遮った。

「美神さん、おキヌちゃん、お帰りなさい」

 既に気配を察していたのだろう、タマモがさして驚いた様子もなく視線を向ける。

 部屋の入り口には美神とおキヌ、そして声をかけたもう一人がいた。

「なっ……」

 怪訝そうに首を捻った横島の表情が驚愕に固まる。

 その一人、黒いコートの美女を指差すと、口をパクパクさせている。

「やあ、お帰り令子。お邪魔してるよ」

 飄々と言って片手を挙げる関の脇を横島が駆け抜けた。

「そこの声も素敵で綺麗なねーちゃん。今度僕と一緒にめくるめく……ぐはあっ」

 ちなみに最後のは美神の肘鉄とおキヌの抓りの効果である。ついでに背後ではシロが悪夢にうなされタマモが笑顔で狐火を半ダースばかり用意している。

 が、実に意外にも、その女性は嫌がるどころか寧ろ嬉しそうに横島の頭を豊かな胸元に掻き抱いた。

 美神たちの表情が引き攣り、シロがベッドの中で悶え、タマモの狐火が五ダースに増量された。

「をを、俺にもついに春がっ!?」

 鳩尾の痛みも何のその、歓喜の表情を浮かべた横島に、美女は茶目っ気たっぷりの笑みを投げかけた。

「あら、ダーリン、やっと積極的になってくれたんだねぇ」

「…………ダーリン?」

 そんなこそばゆい呼称を今時関たち以外に使う人間(?)と言ったら。

「グーラーッ!?」

 がばっと名残惜しくも勢い良く上げられた横島の顔の前には、楽しそうにウィンクする褐色の美女の笑顔。

「ご名答♪」

 髪を掻き揚げて角を露わにして、肩にはぴよぴよと忙しないガルーダの雛達。

 紛れもなく、あのグーラーだった。

 というか、気付かんかったんかい。

「いや、そんな格好してるから、気付かなかった……」

 男装の麗人といった趣のグーラーを頭から足元までまじまじと見つめる。

 相手が誰だか認識しない内に思わず抱きついてしまった所為か、照れくさそうな表情だ。

「ま、郷に入っては郷に従えってね」

 こちらも照れくさそうなグーラーの表情になにやら新鮮な驚きを感じたのか、横島がうんうんと肯く。

「いや、良く似合ってる。なんか宝塚みたいだな」

 ハスキーな声と涼やかな目元が、長身もあいまって独特の美しさを醸し出していた。

 が、横島はやはり横島と言うべきであろうか。

「ま、感動の再会はそれ位にしてっ」

「そうですよ、今はしなきゃいけない事がある筈です」

「ううっ、く、苦しいでござるぅ……」

「横島、火加減はどれ位が良い?」

 ギャラリィの性格の事をすっかり忘れていた。

 シロなど、意識がないのにこれである。

 後で待っている折檻はいかばかりだろうか。

 後ろでは年配組み――というと怒られそうだが、人生の先輩方がにこにこと、いや寧ろニヤニヤと眺めていたりする。

「そういや、何で、あんな風に断言できるんだ?」

 心底不思議そうに首を傾げた横島に、グーラーは唇の端を上げた。

「同じことがあったからさ」

 あっさりと言い切って見せる。

 ちらりと肩で戯れるガルーダの雛を見た瞳に、不思議な決意が色となって浮かんでいた。

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