ザ・グレート・展開予測ショー

月ニ吼エル(15)


投稿者名:四季
投稿日時:(01/ 2/14)


「なんなんすか……これ」

 横島の第一声は、気の抜けたような問い掛けだった。

 虫食いの枯葉ように、無造作に幾つもの穴の空いた遺体。

 酷く非現実的で、写真で見ただけでは脳が即座に現実のものとして反応しない。

 けれど、関と美智恵の態度から、それが現実である事も、また明らかだった。

「これが、今回の件の典型的なケースだよ」

 関は、事もなげに言ってのけた。

 淡々とした口調には如何なる揺らぎもない。

 或いは、一流の条件というのはそういうものかもしれないな。

 タマモは、またいつもの一歩引いたような冷静な視点に返り、自分を立て直した。

「ふーん。どれも、大差はないってことね。――具体的な事例はどの程度まで?」

 冷静を演じている内に、それが現実の自分の精神を整えていく。自分の一部に確かな炎と熱を感じながらも、同時に問題なく心を研ぎ澄ませて行く事ができる。

 永く転生を繰り返してきた魂の経験からか、自分の体と精神を巧く使いこなす術を、彼女は心得ていた。

「ほら、しっかりしなさいよ」

 小さな声で叱咤すると、普段より幾分レスポンスの遅い横島の脇腹を小突く。

 実際、関の冷静さとはタイプは異なるが、横島の切り替えの速さなら、とうに立ち直っていて良い筈だった。

「ん、ああ、さんきゅ」

 少し驚いた顔をして、横島が頷く。

 まさか、タマモが他人に干渉するような台詞を吐くとは思わなかったのだろう。それが横島のみの特別な感慨でない事は、美智恵が優しげに目を細めたリアクションからも見て取れた。

「まず、被害者同士の関連は、今のところない。年齢、性別、社会階層、趣味、交友範囲、当日の行動、見事に共通点がないな」

 無論、何か見落としているのかもしれんが。

 表面上は特にタマモの行動には反応を示さず(もっともこの男の内心は誰にも読めないが)、関は自らの持つ情報を諳んじた。

「発見現場はどうなんですか?」

 横島からの積極的な問い掛けに、関が珍しく嬉しそうな顔をした。次いで、感心したように二人を見比べる。

 口の端が軽く上がった。

「これ又てんでバラバラでね。都心から郊外、都内じゃないものもあるよ」

「じゃあ、やっぱ、何らかの形で、そのウィルスだか何だかが関係してるんすね」

「ふむ。そう思うかね?」

 関は、自らは判明している事実以外は口にしなかったが、横島が何か反応する度に、横島の意見を求めた。

 関の中には単なる反応が面白い玩具以上の何かが、あるのかもしれない。例えそうでも見えはしないが。

「……シロを見ていればね、思いますよ」

「死因はなんなの?」

 横島の語尾に重ねるようにタマモが尋ねた。

 時間があるようには思えない。

 感傷に耽る暇など、言うまでも無い。

 そう、それだけの筈だ。

「死因はショック死だね。アレを外傷というのなら、外傷性のショック死だろう」

 付け加えるなら、死体がそれぞれの場所に遺棄されたのではないかと言う疑いも初めはあった。

 が、一部の被害者には目撃者がいたので少なくとも全てがそうでは無いという事は確かである。

「ああ、そうそう、その目撃者は、加害者を見ていないな」

 体だけが傷つき着衣には破れ目どころか乱れも無いと言うのだから、或いは見えていても解らないかも知れないが。

 だが、可能な手口は確実に狭まっているように思える。

「そういや、オカルトGメンが担当になったのって、今日なんですか?」

「いや、昨日だよ」

 気のせいか、横島の目を見つめる関の笑みが深くなったようだ。

「何かあるのね?」

 美智恵が呆れたような口調で呟いた。

 そんな話は聞いていない。

 いや、そうだ、まだその件については質問していなかった。

 自らの興味に従い自発的に喋り出すのでない限り、訊かれなければ必要な事も答えない。

 関の人格を失念していた自分に、苦笑してしまう。

「何よ、霊的検死やったの?」

 タマモが、少し気の抜けたような表情を見せた。

 何度か調査に協力しているが、Gメンの操作能力は国内どころか世界でも屈指の美神除霊事務所から見ても、どんな同業のライバルよりも侮りがたいものがあった。

 潤沢な資金と組織力、バックについているICPOの権威と信用という面では民間は対抗する術はない。

 無論それが全てではないが。

「ああ、そうだね。昨日と今日の二人に関しては、残留霊波が散ってしまう前に検死することができた」

 良く出来ました、とでも言いそうな口調で、関が微笑んだ。

 今にも頭でも撫でそうな顔つきであるが、実際にそんなことをしたら、撫でた方の手は程よくミディアムに炙って貰えることだろう。

 今のところ、タマモの頭を撫でて無事だったのは、焼かれる前に既に丸焦げだった横島くらいなものではなかろうか?

「それで何か解った事はあるんスか?」

 横島の言葉に、タマモの眉がぴくりと怪訝そうに動いた。

 声のテンポが何時もよりほんの少しだけ早い。トーンも違う。彼女でなければ解らない程度の違いだったが。

「ああ、あるとも。とびっきりの奴がね」

 心もち胸をそらして、関が言った。

「…………」

 皆、無言で関の次の言葉を待つ。

 誰かの喉がゴクリと鳴った。

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