ザ・グレート・展開予測ショー

死神の依頼


投稿者名:トンプソン
投稿日時:(01/ 2/10)

それは深い深い夢の中からであった。
『・・・キヌ、オキヌ・・オキヌ』
「誰?私を呼ぶのは」
暗い暗い夢の中で一つの炎があった。それが徐々に形を作っていった。
襤褸切れのフード、右肩から突き出した大鎌、そして人骨が。
「・・・死神さん」
『キヌ、頼みたい事がある』
そして赤く光る目に髑髏が浮かびあがる。悪夢としか言えまい。
『おぬしには、貸しがある。私を覚えていよう』
「はい」
確かに以前自分の我侭でゆり子ちゃんを助けた事があったか。
死神はどの部分から声を発しているのか、動いている場所がないのだ。
『・・・。頼む、ある女の子の元へ行って欲しい』
「え?」
『ここより近くの病院にいる。彼女のもと・・・へ・・・・・』
-RRRRRRR・RRRRRRRR・RRRRRRR-
オキヌの意識は目覚まし時計のベルにあった。 丁度AM6:00を指していたのだ。
「ふぁっ、っぁー!」
窓辺には小鳥、と言いたいところだが、烏が1羽、窓に止まっていた。
ベットの上でまだ眠気の取れぬ状態だが、
「なんだったんだろう、今の夢は」
だが、合う人物にも詳しい行き先も告げられなかった。それに場所柄病院は少なくない。
「ま、いいか。夢だもんね」
楽天家な部分の少なくない、すぐに忘れ様とした。
「あ、今日はゴミの日だったんだ、出しにいかないとね」
そそくさと、着替えをすまして、前日に括っておいたゴミ袋を出しに収集場へ向かう。
『カー、カー』
防護ネットの上へ無造作に置く人がいるのだ。餌に有りつくカラスがいた。
「ちゃんとしてもらわないと、困るのよね」
オキヌの存在に気付いたカラス連中が人間をからかうべく、バタバタ飛び回る。
「きゃっ、止めて!カラスさん」
止めるばかりかオキヌをつつく輩も出て来るから性質が悪い。
だが、先程上の窓辺にいた一際大きな烏がが舞い降りてきて、
『カーッ!』
オキヌに纏わりついたカラスがみな何処かへ退散していく。
「?どうなんてんのかなぁ?あんたこの辺りのボスなの?」
その烏は一回オキヌの廻り一周旋回してから肩に止まった。
「人になつっこいのねー」
オキヌはゴミを防護ネットの中にいれる。ついでに散らばったゴミの整理も。
帰ろうとした時に、その烏が彼女の髪を軽く引っ張った。
「ナァに?ついて来いって言うの?」
そのようだった。オキヌの肩から飛び立つ時も気を使って顔を傷つけないようにした。
「何処に連れていく気なの?烏さん」
烏はオキヌが見失わないスピードで飛行する。道案内をしているようだ。
赤信号で待ち、二つ目の交差点を渡たり、新幹線が地下を通る陸橋に至った。
その陸橋縁に女の子がいた。
「あれ?こんな時間に?」
陸橋越しに子供が新幹線を見るなんて別段おかしくもないが、その子は寝巻き姿だった。
「どこの子供なんだろう?」
奇異に思ったその時、なんと女の子は金網を攀じ登ろうとするではないか!
「あなた、何やってるの」
驚くオキヌはその女の子に近寄り抱きかかえる。華奢というのも違う。
まるで大病を煩っているかのような女の子だった。微かに薬湯の匂いもする。
「離して、離して!お姉ちゃんには関係ないでしょ?」
「関係なくはありません!どうして死のうとするのよ、死んじゃうと痛いのよ」
「おねがい!あたしはどうせ死んじゃうんだからぁ・・」
「え?」
聞き返すオキヌの腕の中でその女の子は力を失ったが如く目をとじる。
「なんなのよ、一体」
彼女の着ていた寝巻きに記入されていた病院に連れていくと、小児科担当の看護婦が
慌てて出てきた。
「すいませんでした。今日勝手に出て行こうちゃっただなんて」
有難う、有難うと何度も言う看護婦が所要で少し出ていった時、その女の子は目覚めた。
「・・あ、ここが天国なの?」
「ちがうわ、あなたが入院している病院よ」
「そっか、死ねなかったんだ」
「ねぇ、どうして死のうとしたの?」
「だって、だってあたし、ずっとこの入院していて、もう治らない病気だって」
「誰かそんな事いったの?」
「・・・誰だって・・・いいじゃない」
女の子は頬に痛みを感じていた。オキヌの平手打ちだ。
「なんで、なんであなたは自分の命を粗末にするの?だって今は生きてるじゃない」
「・・でも・・」
「でもじゃありません!死んじゃうって事はね、もう好きな物も好きな事も出来なく
  なっちゃうの、甘えないで?そんなんで死のうなんて駄目よ。がんばらなくちゃ!」
その子は一瞬の間が有ったあと、ワンワンと泣き出したのだ。
「ゴメンナサイ、お姉ちゃん、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ」
胸元で涙も鼻も出すその子を抱締めていた。意を決したのか震える唇を開く。
「お姉ちゃんはね、昔幽霊やってたんだけど、生き返られたの」
「え?」
「幽霊ってね。すっごい寂しいんだ。誰にも気付かれないし、眠りも出来ない」
幽霊であった次分の事を女の子にわかりやすい単語を使って教えた。
「そうなんだ。わたし幽霊になるの嫌、うん頑張るよ、ゴメンねお姉ちゃん」
「こっちこそ、打ったりしてごめんね。じゃぁ約束、指きりげんまん、」
『ゆびきりげんまん、ウソついたら 針千本のーますっ』
そう言ってオキヌはロビーに向かった。そこに女の子の母親らしき人物が
「あの、貴方が私の娘を救って頂いたって」
「はい、そうですが?」
「本当に御迷惑をおかけいたしました、御礼を申し上げます」
「そんな、御丁寧に。あの、お子さん病気治ると・・」
「はい、ですがあの子はもう・・」
その場に泣き崩れる母親に変って主治医らしき人物が、
「可哀想ですが、あの子の命はもう」
「・・・・」
オキヌは何も言えなかった。
その夜、オキヌは無理を言ってアルコールを貰いベットに入った。
そして夢を見た。
『・・・キヌ・・オキヌ、オキヌ』
暗い暗い夢の中に出現した炎が再度死神に形成された。
「死神さん」
オキヌの問いかけに頷いただけだ。
「どうして?あの子は死病にかかってるって」
『そうだ、たった今生を摘み取ってきた』
「あの、助けられませんか」
『駄目だ』
抗議をしようと死神に近づいた時、大鎌を一振り、オキヌを振り払う。
『生ある物、我に触るな!』
「この、分からず屋」
大きい声で抗議しようとしたとき、死神の影から昼の女の子が出てきた。
『おねえちゃん、ごめんね、あたしがんばったんだけど、でも嬉しかったよ』
「嬉しい?」
『うん。死んじゃう前にお姉ちゃんに会えて、次は丈夫な体で生まれてくるね』
そういって女の子の魂は徐々に消えていった。
「待って、そんな、そんなぁ」
泣き崩れるオキヌだ。魂の昇華を見届けた死神が再度オキヌの前に現れた。
『許せ、定めだ』
「はい。でも一つだけ教えて下さい。何故私をあの子の元へ?」
『あの子は本気で自殺するやもしれなかった。その後はわかるであろう?』
あの女の子を自縛霊したくなかったのだ。生死の区別をつけたかったのだ。
「えぇ。だから」
『それにお主と触れ合えば、あの子も笑顔でここに来れると踏んでな』
死神の本心である。
「いえ、御礼を言うのは私の方です」
「なに?」
これは死神にとって以外であった。まさか礼を言われるとは。
「いい仕事を教えてくれて、死神、ううん貴方、本当は優しいのですね」
『・・私もこの仕事を長く続けているが礼を言われたのは初めてだ』
もう、涙も止まり夢の世界が歪んできた。朝が近い。
「あの、今度私が死んじゃうときは、死神さん、貴方が来てくれますか?」
動くはずの無い死神の骸骨が微かに赤くなったようにオキヌは見えた。
『・・・解った、約束しよう・・・・今はサラバだ、オ・・・・キヌ・・・・』
朝起きると昨日窓辺にいた烏が飛んでいく姿があった。

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