ザ・グレート・展開予測ショー

【リレー小説】『極楽大作戦・タダオの結婚前夜』(6)〜汗とサウナと指輪と女 (後編)


投稿者名:四季
投稿日時:(01/ 2/ 8)


「でも、そうは言っても、横島さんは美神さんタイプが好きなんでしょう?」
「うっ、それは……いや、でも、小竜姫様好きですよ、うん、全然イケてますって」
 くすくすと笑いながら反撃した小竜姫に、しどろもどろの横島。
 なにやら良い雰囲気だが、何か忘れていないだろうか?
「……」
 そう、視線を五十センチばかり落として見ると、そこには不機嫌そうな殿下の顔があった。横島と小竜姫に挟まれた位置にちょこなんと座っている。
 それはそうだ。
 自分の頭越しに家臣と家来の睦事を交わされたのでは、幾ら子供でもたまったものではない。
 ただでさえサウナで暑いのに、やってられっか!という感じである。
 が、そのぶすっとした表情に、一筋の光が差した。
 別名、悪巧みを思いついた顔とも言う。
 にやりと歪んだその口元は、小竜姫が見ていれば、いつもの悪戯の前兆だと一目瞭然だったろうが、生憎と、視線は横島に注がれている。
「小竜姫、横島、暑い、一旦出るぞ?」
 先程読んだサウナ利用法の約十分毎に体を冷やし、休憩するという手順に従って、提案する。
「そうですね、汗もかきましたし……」
「そーっすね、んじゃ、シャワーでも」
 すっかり殿下の事を失念していただけに、小竜姫も横島も慌てて立ち上がった。
 殿下が二人のバスタオルの端を握っているとも知らずに。
「えっ?」
「あっ?」
 ずるっと。
 何の警戒もしていなかった小竜姫と横島は、自分の体から落ちていくタオルを、どうすることも出来なかった。
「ふん、二人とも警戒心が足りん。もっと修行する事じゃな」
 お子様殿下は自分をないがしろにした家来に懲罰を与えられてご満悦だったが。
「しょ、小竜姫様って……意外と……」
「い、い、い」
 当の家来二人は一瞬の硬直の後。
「ぶしゅーーーーーーーーーー!!!」
「いやああああああああああっ!!!」
 一人は鼻血を噴き出し、一人は絶叫と共にしゃがみ込んでしまった。

 そして、唯でさえサウナで頭に血が昇っていた横島が血まみれで倒れ、切れた小竜姫により殿下に恐怖のお仕置きウルトラデンジャラススペシャルスーパーマッドネスフルコースがたっぷり振舞われたという。
 その後一時間三十四分間、その個室に近づくものは誰もいなかった、らしい。



「もしかして、指輪?」
「わ、わ、結婚指輪ですか?ど、どんなのなんでしょう」
「これは、指輪のサイズとかで範囲がぐっと狭まりそうな予感なのねー」
 一方の未来では、こじんまりした店舗の為に中に入ることが出来ない三人が、それぞれにヤキモキしていた。
「そうだ、盗聴器!」
 はっと気付いた美神がポケットの中からボタン大の金属を取り出す。
「なるほど、それをドアの下から滑り込ませるのね〜」
「というか、美神さん、どうしてそんなものを……」
 良心担当者が乾いた笑いを浮かべる。
「あら、おキヌちゃんは聞かなくて良いの?」
「じゃ、二人で聞くのね〜」
「あっ、わ、私も、その、聞きたいです……」
「そうそう、人間こういう時は正直にならなきゃ♪」
「しっ、静かにですね〜」
 流石にこの手の事には金に糸目をつけないのか、三人のイヤフォンからは鮮明な音で店員と横島のやり取りが聞こえてきた。
『はい、これが父から預かってた指輪です』
 鈴を転がすような澄んだ声。
 少女のもののようだ。
 特に他意はないのだが、思わず息を飲んでしまう三人。
 横島の人徳(?)と言えよう。
『サンキュ。――おおっ、やっぱ、親父さん凄いなあ……綺麗だ』
『ふふ、横島さんのなけなしの金だからって、スッゴク気合入れて頑張ってたんですよ』
『ちぇっ、口がわりぃのは相変わらずだなあ……』
『職人気質の人ですから……でも、図星なんでしょ?』
『うわっ、娘まで言うようになっちゃって……ま、確かに結婚式神式にしたのだって、半分はコレの為だけど……俺、今の内から育て方考えとこっかなあ……』
『あら、息子さんかもしれないじゃないですか』
『まーね。でも、なんとなく娘が生まれるような気がするんだ』
 無邪気な少女の言葉に答えた横島の透明な声に、美神とおキヌが拳をぎゅっと握る。
 ヒャクメが、横目で(文字通りの意味で)そんな二人の様子を見て、嘆息した。
『ふふ、そうだと良いですね――ね、フローライトで作った指輪なんて洒落てますよね。世界で一つって感じで。どうして蛍石なんて選んだんですか?』
『なんだ、今日はやけに質問するなあ……』
『ふふっ、こんなに愛されてる横島さんの奥さんになる人が羨ましくって……私の将来の幸せの為に参考にしとこーかな、なんてね♪』
 何時の間にか少女の口調が砕けたものになっている。どうやら横島はこの店の顔馴染らしい。
『気が早いなあ。親父さんが拗ねるぞ?』
『それも男親の特権じゃないですか』
『あーあ、女の子は怖いね』
『へへー。でも、ホントにいいなぁ、横島さんのお嫁さん。幸せですよねー、ちょっと妬けちゃうな』
『ちょっと違うかもな。幸せなのは俺の方なんだ』
『わっ、すごーい。マリッジブルーなんて宇宙の果てのお星様だ』
『でも、ほんとだよ。――訳ありの俺を丸ごと受け入れてくれた人だからな……』
『うーん、アツイアツイ。――で、質問の答えは?』
『ちぇ、誤魔化せないか』
『ふっふっふ、チョコレートの砂糖漬けより甘いんだよねー』
『んじゃ、ま、秘密ということで』
『わっ、それってズルっ』
『そ、大人ってずるいんだよ。悪しからずご了承くださいってヤツ』
『ふーん……この指輪のイニシャルの人に言っちゃおっかなあ……横島さんに一度口説かれたって』
『な、ちゃ、茶ーしばかへん?って誘っただけやないか』
『あ、焦ってる。関西弁になってますよー』
 そこまで聞いて、美神とおキヌが顔を上げた。
「横島さん、未来でも変わってないんですね……もうっ」
「イニシャル!?」
 もっとも、理由は違っていたが。
「なるほど、指輪のイニシャルさえ判れば、相手を特定できるのね〜」
「……あ、そっか。でも、どうやって見せて貰いましょうか?」
「「「……う〜ん……」」」
 良いアイデアだと思ったのだが、方法に行き詰まってしまった。
 ところで。

 路上に蹲って喜んだり起こったり悩んだりしている三人の美女の姿を、通行人が目を背けてこそこそと避けて通っていたりした。

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