ザ・グレート・展開予測ショー

月ニ吼エル(14)〜後編


投稿者名:四季
投稿日時:(01/ 2/ 7)

「横島、アンタ、ああいう変態にどうにかされないでよっ!?」

「……絶対にご免だって……嫌な事想像させるなよ」

 人差し指を突きつけるタマモの姿に、思わず苦笑する横島。

 図らずも天狗が言っていた通り、冷静にはなれたようだった。

 そこまで計算していたとしたら天才だろうが……微妙なところだ。

「そうとも、横島君は僕達と働くんだからね」

 耳元で再び起こる囁きに、横島は無言で裏拳を放った。

 がすっ。

「うーん、裏拳もパワフルだなあ」

「頼むから登場する度に耳元で囁くの止めてくれませんか?」

「いや、マイハニーがこうすると横島君が喜ぶと言っていたのでね」

 疲れ切った表情の横島に、鼻血を流しながらも輝くような笑顔でしれっと言ってのけたのは、当然関である。

「ゆうねえ……そういう遊びは止めてくれよ」

 遠い目をした横島の肩を、関がバンバンと叩いた。

「ま、気にするな。それより話は聞いたよ。ただの病気じゃないんだってね」

 どうやって聞いていたかは言わずもがなである。

 事ある毎に肩を叩くのも伊達ではないということだ。

「病原菌の正体は解ったわよ」

 続いて屋根裏に上ってきた美智恵が、横島たちが一番知りたいであろうことを告げる。

 ちなみに「せめて私の手で安楽死させるーっ」と、のたまっていた上村動物病院院長には、三人で(看護婦も後ろから殴り倒す形で協力していた)ご退場願った。

「……一体、なんだったんですか?」

 一呼吸置いて、横島が尋ねる。

 その瞳は落ち着きを取り戻していた。

 タマモが後ろで小さく笑った事に気付いたかどうか。

「変種の狂犬病ウィルスよ」

 美智恵は驚くなとは言わなかった。

 ただ横島の目を見ている。

 目の前の男が強くあることが出来るのか、見極めようとするかのように、一瞬たりとも目を逸らさなかった。

「……それも、ただのウィルスじゃないんですね」

 美智恵たちの雰囲気から、或いは先程の天狗の台詞から何かを察していたのだろう。横島は唇を噛み締めただけで堪えた。

「そうよ。どんな関わりがあるのか詳細は不明だけど、この一週間の間に見つかったある種の異常死体から同じウィルスが検出されてるわ」

 横島とタマモが息を呑む音が、やけに大きく響いた。

「その異常死体と言うのは、どれも狂犬病患者の死に方じゃなくてね」

 後を継いだ関が、言葉を続ける。

「ある種の霊能力が関わっている可能性もある。オカルトGメンに調査要請が来たよ」

「……シロを、調べさせろってことですか?」

 横島の言葉は苦渋に満ちていた。

 関を必要以上に疑っている訳ではない。

 ただ、その言葉の意味するところは又、誤解しようの無い響きを持ってもいた。

 貴重な生体の被験者だろう。

 そして、関は頷いた。

「全ての情報は君たちに開示しよう。シロ君の体を不用意に傷つけることもしないよ」

 彼の余裕は崩れるところがない。

 それは虚仮脅しでも虚勢でもなく、確かな実力と経験に裏打ちされたものだ。

 今の横島には、その溢れんばかりの自信が羨ましかった。

「感染経路には、一応当たりがつけられますよ」

 話題を逸らす為に、横島は笑顔で言った。

 作り物めいた、いつのも良くも悪くも活力に満ちた笑顔とは似ても似つかない仮面。

 タマモが痛々しそうに、それでも目を逸らさずに見つめている。

 それが、彼女のプライドだった。

「白いコート着てた、長い黒髪の、綺麗なねーちゃんです」

 シロが腹を抑えて苦痛にうめいていたという状況と、あの日腹に付けられた傷が、確かな予感となって心の隅に居座っていた。

「なるほど」

 話を逸らされた事を罵るでもなく、関は深く頷いた。

「それは、この女性かな?」

 懐から取り出された写真に写っていたのは、確かにあの女性だった。

 こんなにあっさりと見つかってしまって良いのだろうか。

 もしかしたら、この女性に会えばシロの病気の謎を解く手掛かりが掴めるかも知れない。

「あ、ええ。確かにそのねーちゃんです。でも、どうして関さんが……」

 写真を食い入るように眺めていた横島が、顔を上げて疑問をぶつけようとして、言葉を途切れさせた。

 気付いてしまったのだ。

 この場でそれが出てくる理由は一つしかないという事を。

 関が一人一人の特徴を憶えているほど熱心に今取り組んでいる事件が何なのか。

「ああ、そうだ」

 関は、淡々と促す。

 逆らい難い力で引き込まれるように二枚目の写真を見て、横島は言葉を失った。


 彼女の首から下は、虫食いのように穴だらけだったのだ。

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