ザ・グレート・展開予測ショー

【リレー小説】『極楽大作戦・タダオの結婚前夜』(その0)[プロローグ(後編)]


投稿者名:Iholi
投稿日時:(01/ 1/26)

「ルシオラ……。」
__美神の口を突いて出たその名前は、彼女たちの舌にはあまりにも苦々しい。しかし美神はその苦味を茶などでで誤魔化そうとはせず、甘んじてそのままを受け入れた。不覚にも唇の端が、微かに歪んでしまった。
『その答えは半分アタリで半分ハズレなのね。横島さんの娘さんの中にあるルシオラの霊基はほんの僅かしかないから、彼女は初めからルシオラとして生まれてくるわけじゃ無いの。彼女はあくまで一人の人間の子として生を受け、成長していくのね。そして16歳の誕生日、ご両親は彼女に全ての真実を打ち明けて、ホタルの形に結晶化したルシオラの霊体を託すの。』

__東京タワーでのベスパとの死闘の後、霊体消滅の危機に陥っていた横島を救うべく自らの霊体を惜しみ無く彼に提供し、その儚い生命を散らしていった少女魔族ルシオラ。コスモプロセッサーを用いずに彼女を再生する方法はたったひとつ、周辺に散乱した彼女の霊体を可能な限り多く回収することであった。しかしルシオラの霊体の大半は横島の霊体修復に費されていた為に、復活したベスパの懸命の回収作業にも関らず、集められ結晶化した霊体はルシオラを再生するのには僅かに足りなかった。
__新たな解決策を見出だしたのは他ならぬ美神令子だった。『横島の体内で息付いているルシオラの霊基を受け継ぐであろう、彼の子供にルシオラの魂を転生させてやれば、転生が可能かもしれない』と。かくして人間と魔族との間に茅生えたひとつの数奇な恋は、運命の悪戯に翻弄されたあげくに、恋人同士が未来の父娘になるという、まことに冗談の様な結末を迎えたのであった。

『さて、問題の娘さんね。もしこの霊体の結晶を自らに受け入れれば、彼女は100パーセント、とは言わないまでも98パーセント完全に、中級神魔並みのパワーを持った魔族の戦士・ルシオラとして復活することが出来ます。加えて人間界では世界最高レベルの霊能力者でもある、未来の横島さんの血を濃く受け継いでいるから……』
__未来の横島の肩書きについて誰も突っ込まない事に少々拍子抜けしたヒャクメではあったが、見回した二人の表情から発っせられる無言の気迫に押されて、ヒャクメは思わず生唾を飲んだ。
『……、その肉体的・霊的なポテンシャルは計り知れないの。下手すると横島さんみたいに化けに化けまくって、上級神魔レベルにまで成長してしまうかもね。そうなると彼女はその次の確定的未来で、霊的世界に多大な影響を及ぼしかねない。しかも彼女はあの騒動ゆかりの悲劇の人物ということで、神魔界ではあまりに有名だし、そんな彼女の事を武闘派の連中やその他の侵略者が放って置くとは、到底考えられないわ。』
__ヒャクメの話を聞きながら美神は、自分も魂の結晶を持つ者としてアシュタロス一派に狙われていた過去を思い出していた。かつて世界の十指に入る辣腕スイーパーでありながら、教会に破門されている所為で協会からもその存在が無視され続けていた唐巣神父。そんな彼の元に彼女が弟子入りさせられたのには、スイーパーとしての実力を開花させるまでは彼女の存在を極力隠しておく意図もあったのではないだろうか。まだまだ自分は、あの両親に頭が上がらないらしい。
__ヒャクメはティーカップの残りを一気に飲み干したが、その顔は微かに強張っていた。それに構わず、彼女は話を再開する。
『さて、ここで予測される彼らの行動パターンは、大まかに分けて二つ。一つ目は、彼女を自分たちの味方につける事。二つ目は、その……彼女を抹殺する事、なの……。』
__ヒャクメは心苦しそうに唇を噛んだ。美神は思い切って口を挟む事にした。
「で、当然上級神魔の間でもこの事が問題になった。そこで出た結論も、その二つなんでしょ?」
『……ご明察ね。』
「そんな! 神魔の方々がルシ……横島さんの娘さんを殺す相談をするなんて!!」
__キヌは青褪めた顔に悲しいとも腹立たしいともつかない表情で叫んだ。しかし美神はあくまで冷静に、隣りに座る心優しい少女に語り掛ける。
「でもね、おキヌちゃん。安全性と効率を考えた場合、これが一番ベストな方法なのよ。アシュタロスの一件の時に、私が世界GS本部の特殊部隊に暗殺されそうになったみたいにね。」
__美神はカップと同様に冷えきった眼差しを、そのままヒャクメの方へと滑らせる。
「で、結局、どうなったの、神魔の合同会議の結論は?」
『はい、最終的にはほぼ満場一致で、横島親娘を保護する事に決定したのね。』
__一同、長い長い溜め息を吐いた。微かに空気が柔らいだ気がした。
『で、その事業の第一段として、上級神魔会議の名義で遣わされたのが、このワタシなのよ。えーっと、「委任状。美神令子殿。貴君は、次の確定的未来(以下甲)である横島忠夫(以下乙)の結婚式の前日及び当日、つまり6月23日及び24日の二日間、乙の身辺を警護すること。ただし可能な限り甲に影響を及ぼさぬよう細心に注意を要する。同伴者及び装備の選別は貴君に一任する。また特殊な人員及び装備の調達の際には、我々は可能な範囲内で援助を惜しまない。その他任務の詳細は担当の神魔に説明を乞う事。貴君の健闘を期待する。以上。」以下略、なのね。』
__確定的未来で起こった事は、後の未来に深刻な影響を与える。逆に言えば、確定的未来以外での歴史干渉では、大きな未来改変は起こりえないのである。だから何としてもこれから向かう未来で、新生ルシオラの生みの親となる横島が何者かに誘拐されたり暗殺されたりする事は、絶対に防がなくてはならないのだ。
『残念というか幸いというか、現在の神族や魔族には大規模な時間移動能力を使える者がいないの。だからこの様な形で歴史に干渉出来るのは、今の処ワタシたちだけの特権なのね。あぁでも無用な歴史干渉は慎しんで下さいね。下手すると帰れなくなっちゃうかもしれないから。』
__ヒャクメは額の汗をハンカチで拭うと、久々に安らいだ笑みを浮かべて茶のおかわりをすすった。
__一通り話が終った安心感からか、キヌと美神の口からも自然と笑みがこぼれる。
「……ま、せいぜい気を付けといてあげるわ。私は十分なギャラさえ貰えりゃいいんだから。もちろん、たんまり貰えるんでしょうね?」
『ええ、それは勿論。こちらに……。』
__そう言ってヒャクメは、傍らに寝かされている旅行カバンの鍵をてきぱきと開ける。ひょいとカバンを持ち上げて逆さにすると、明らかにカバンの容積を無視した大量の金塊が止め処なく床の上に落下する。黄金色の反射光のシャワーを呆然と眺める美神とキヌの無意識の呟きは耳障りな轟音に掻き消されて、幸運にもヒャクメの耳には届かなかった。

「「……横島くん/さんの結婚式かぁ……はぁぁぁ。」」
__それはそれはもう、深い深い溜め息の二重奏だった。

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