ザ・グレート・展開予測ショー

【リレー小説】『極楽大作戦・タダオの結婚前夜』(0)[プロローグ(前編)]


投稿者名:Iholi
投稿日時:(01/ 1/26)

「はぁぁ……未だに信じられないわ……。」
__南向きの大窓から振り注ぐ柔らかな春の日差しとは対象的に、ダークグレーのスーツを粋に着こなす長い亜麻色髪の麗人――美神令子――は、水で戻したのしいかの様にぐったりと机に突っ伏している。彼女は三ッ指に狭んだ一葉の葉書をもう一度睨むと、本日何度目かの深い深い溜め息を吐いた。
「まさかあの娘に、先越されちゃうなんてね……。」
__葉書にプリントされた写真には、線は細いが見た目に誠実そうな細面の新郎と、ショートカットに純白のヴェールを被せた童顔の新婦が、ぎこちなく腕を組みながらも幸せそうに微笑み合っている。
__写真の下にはラメの入ったピンク色のサインペンで、懐しい丸文字が認(したた)められている。

《 美神センパイ! ホ〜ントお久しぶりですっ! なかなか連絡がつかなくて結婚式にご招待できなかったのはと〜っても心残りです。 でもセンパイのお式の時にはゼヒゼヒわたしを呼んで下さいね! やっぱり式場は私たち二人の思い出の詰まったあの教会かなぁ……エヘヘッ。絶対、約束ですよ! 千穂 》

__千穂は女子高時代の美神の後輩である。容姿も学業も霊力も優秀な上に、後輩の面倒見の良い姐御肌な面も持ち合わせている美神が、女子高と云う聖域の中で如何なる位置を占めていたのかは、本人の意思に関らず想像に難く無い。千穂は美神の追っかけの中でも特に筋金の入った猛者であり、加えて男性という生き物を極端に嫌悪する傾向すらある要注意人物であった。
__そんな彼女も女子高卒業後すぐに就職した職場で知り合った男性と恋に落ち、こうもあっさり結婚するだなんて、世の中まだまだ分かった物では無い。
__因みにメッセージ中の『私たち二人の思い出の詰まったあの教会』と云うのは、千穂に取り憑いた悪霊を美神が除霊したあの事件の舞台となった、唐巣の教会の事だろう。

「はぁぁ……。」
__やはり美神の口から出るのは、深い深い溜め息ばかりだった。


__こんこんっ……かちゃっ、きぃぃぃ……ぱたぱたぱたぱた……

__軽いノックの後、スリッパのリズムも軽やかに入室してきた長い黒髪の少女――氷室キヌ――は、春らしいイエロー系のスリーピースに腰エプロンと云ったいでたちで、二人分の紅茶の用意を載せた盆を片手で支えている。彼女は半死半生状態の美神を見付けると、しょうがないと云った面持ちで、その傍らにカップとピッチャーを静かに置いていく。
「どうしたんですか、美神さん? 珍しく自分で郵便受けに行ったと思ったら、へなぁ〜っとしちゃって……わあ、可愛いお嫁さんですね! 学生時代のお友達ですか?」
「……えぇ、女子高の後輩。昔はあんなに私に懐いていたのに、全く薄情なモンね。」
__美神はのそのそと上体を起こすと、湯気の漂うティーカップにピッチャーを傾けながら、件の写真に釘付けになったキヌの問いに殊更面倒臭そうに答えた。
「うふふふっ。」
「……おキヌちゃん、何が可笑しいのよ?」
__キヌの突然の微笑に、美神が不審そうに振り返る。キヌは悪戯っぽい笑みを崩さず、囁くように言った。
「ひょっとして、ヤキモチ、ですか?」
「な、……い、言っときますけどね、私にはそんな趣味は、無いからね!」
「(……そう云う意味、じゃ無かったんだけどなぁ)」
「……んもう。」
__美神は視線をティーカップへと移したが、ピッチャーは殆んど空になっていた。ミルクの匂いしかしてこないミルクティーに映る自分の顔を観て、美神はもう一度深い深い溜め息を吐いた。
__キヌは大窓の外、爽やかな春の空を眩しそうに眺めている。

「「(結婚、かぁ……。)」」
__見方の違いこそあれ、この二人の想いは春空よりも気高く、ミルクティーよりも純粋なのだ……多分。


『まあ、美神さんもおキヌちゃんも、悩み多きヲ・ト・シ・ゴ・ロなのは解るけど、ね〜〜!』

__何処かしら間延びした声が、二人しか居ないはずの事務所に響きわたった。と思いきや、美神たちの目前の空間で電気的な火花がスパークする。呆気にとられる二人の目の前でその火花は徐々に人型をなし、煙と閃光の中で瞬時に実体化した。
『どもどもー、お久しぶりなのね!』
__さっきまで何も無かった空間では、爬虫類の鱗模様のつなぎの上に薄手のケープを羽織った小柄な女神――ヒャクメ――が、大の男が楽々収まりそうな巨大な旅行鞄に腰掛けて右手をひらひらさせている。着衣に劣らず個性的にアップされた髪型に、派手なアイシャドーと目玉を模した奇怪なアクセサリーを施した彼女の顔には、不思議と理知的な光が宿っていた。

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