ザ・グレート・展開予測ショー

GS横島!/元始女性は太陽であったか?(5):intermission


投稿者名:AJ−MAX
投稿日時:(01/ 1/22)

 そこは薄暗いオフィスであった。

 明滅する蛍光灯が室内を申しわけ程度に照らし出し、壁面の汚れをかえって浮き立たせていた。

 下ろされたブラインドからは外のネオンの明かりだけが細く漏れ入ってくる。

 外界の騒音から切り離されたそこに、二人のスーツ姿の男がただ一つ置かれた事務机をはさんで対峙していた。

 他に備品と呼べるようなものは何も置かれていない。

「結局弓の小娘はどうなったんじゃ!? まだ生きとるのか」

 茶色のダブルを着た背の低い方の男が、今にもズボンが弾けそうなほどにでっぷりと肥えた腹を揺らして怒気もあらわに吐き捨てた。

 年齢は五十がらみといったところだろうか。

 綺麗に禿げ上がった頭部には、冬だというのに玉のような汗が浮かび、蛍光灯の光を脂っこく照り返していた。

「おそらく。私の妖術が完全に効果を表す前に父親の方が何かの術を使って戦闘から離脱させた。生きていても不思議ではあるまい」

 それに答えた黒いスーツの男の声はほとんど機械的なほどに冷静であった。

 茶色のスーツの男よりも頭一つ分ほど背が高く、その分痩せぎすである。

 黒い長髪との対照が際立つ蝋細工のように真っ白なその顔は嘲笑めいて歪んでいた。

 非人間的な容貌のせいか、外見では年齢が判然としない。若いようでもあるし、年をとっているようでもあった。

「ならばなぜ追って片をつけん! 貴様一週間も何を手をこまねいておった!?」

 中年男はなおも収まらない様子で、唾がかかりそうな距離まで顔を近づけて怒鳴り散らした。

 一言言葉を発するたびにたるんだあごが別の生き物のように震える。

 しかし黒スーツの男は顔をそむけることもせず、空ろな瞳でその狂乱ぶりを見つめるだけであった。

「位置を特定するのに時間がかかった。手がかりは私のかけた妖術の波動だけだったからな。おまけにずいぶんと遠くに転位していた」

「……ふん! 居場所がわかったのならさっさと行け!」

 中年男は鼻白んで、犬でも追い払うように手を振った。

「言われるまでもない」

 黒いスーツの男はそんな様子にもさして興を覚えないようで、鉄面皮な顔を崩さず身を翻してドアへ向かった。

「……いちいち癇に障るやつじゃ! 満足に仕留め切れもせんかったというのに……」

 中年男が言ったその科白に、黒いコートの男はノブに掛けていた手を引っ込め、首だけをめぐらせて室内を振り返った。

 その顔に浮かぶ作り物のような無感情さは変わっていない。

 だが。

 先ほどまで生気を感じさせなかった瞳が、今は男の内心の怒りを表すように炯炯と紅く燃えていた。

「ひ……っ!」

 中年男は数歩たたらを踏んであとずさったが、すぐに壁に遮られてしまった。それでもさらに後ろに下がろうと太い手足をばたつかせる。

「契約は履行するさ。そしてその後は……お前だ」

「な、なんじゃと!?」

 今にも腰を抜かしそうになりながら、ひっくりかえった声で中年男は叫んだ。

「その醜悪な豚面にふさわしい死をくれてやるから、楽しみに待っているんだな。私は受けた侮辱を忘れてやるほど寛大ではないのだ」

 そう言って男はもがく中年男に嘲笑を浴びせた。

 ――時おり覗く口内は血で染まったように紅かった。

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