ザ・グレート・展開予測ショー

プリンス・アンド・バタフライ 5と41/204


投稿者名:ツナさん
投稿日時:(01/ 1/22)

 お子様二人を抱えた横島が人ごみの中を脱兎のごとく駆け抜けていくのが令子には見えた。
「あっちよ!」
「え、どこですか?」
小竜姫はきょろきょろとあたりをうかがっているが、天竜童子の気配藻パビリオの気配も他の人間の雑多な気にまぎれて感じ取れない。そのため美神の感覚に信憑性がるとは思えなかった。
「ほら早く、追うわよ」
「本当ですか、私がわからないのに」
美神に促されても、いまいち信用できない小竜姫。
「確かにあそこから横島君の気配がしたのよ。どうせそこにいるでしょ、王子様もパビリオも」
「横島さんに関してはものすごい嗅覚をお持ちのようですね」
「そう?」
何で、と言いたげな美神。おキヌちゃんが美神の後ろで少しだけで焼いているように見える。
「ええ。それこそ何か、たとえば運命の糸で結ばれているみたいな感じがしますけど」
「な、なんであいつと赤い糸で結ばれてなきゃいけないのよ!」
「えい!」
「・・・なにやってるのよおキヌちゃん」
「・・・いえ、なんとなく」
何かを切るような素振りをするおキヌをじと目で見る美神。おキヌちゃんは美神の深層心理からにじみ出る無言の圧力に、思わず半歩下がる。 
「おお、また会えましたなドナルド殿。拙者いつも見ておりますでぇ!!」
何時の間にかドナルドドックにすり寄っていくシロの後ろ頭に美神のハイヒールが突き刺さる。
「な、何をするでござるか!!」
「いいから黙ってついて来いこの馬鹿犬!」
「狼でござる!!」
首根っこを引っ掴んでシロを引きずっていく美神。
「・・・相変わらず大変そうですね、おキヌちゃん」
「ええ、お互い苦労しますね」
良識派の小竜気とおキヌが何時の間にか買ってきたウーロン茶を啜りながらしみじみと語り合っている。
「ほらそこの二人も!また大阪まで飛ばされたい?」
「・・・あの人、私が神だって忘れてると思いません?」
「ええ、多分忘れられてるとおもいます。すいません、悪気は無いと思うんですけど」
「いえ、これも私の不徳のいたすところかと。・・・もっと修行しなくては」
表面上は明るく振舞いつつも結構思いつめてる小竜姫であった。

「ここに隠れよう」
横島が指差したのは、ジャングルパークというアトラクションである。立ち入り禁止の入り口を迷わず霊波刀で破壊して進入していく。
 中は南米アマゾンをイメージしたのか、うっそうと生い茂る木々と雑草群。獣道らしき所を黙々と歩いていく。
「多少は時間が稼げるはずだ」
「すごいのう、まさか日の本にこのようなところが存在するとは思わなかったぞ」
「ほんとにアマゾンみたいでちゅけど、これがほんとに作り物でちゅか?」
そう、よくよく見ればここにある草木すべてが、カーボンもしくはグラスファイバー製の軸に耐燃性特殊合成樹脂を被せ塗装された真っ赤な偽物である。人々を楽しませるためならデジャブーランドに妥協の二文字は無い。おそらくこの500uくの森全部で10億近くかかっているのではないだろうか。
 よほど近づいて見なければそれとはまったく気付かない。
時々サルの鳴き声や鳥の羽音が聞こえてくる。それがより生々しくもあり、なんとなく違和感を感じるところでもある。
「いいのかな、こんなところに入ってきてさぁ」
「いいのよ。責任は保護者の横島が全部取ってくれるから。ほんと人間の子供って楽よね」
「・・・なんでついて来るんだよ?」
後ろを振り返るとタマモと真友君がちゃっかり付いて来ている。横島は追い払おうと思ったがこの擬似森林の中でタマモはともかく真友君を置いていくのは問題と思った。
「良いではないか横島。遊ぶときは大勢のほうが楽しいぞ!」
「そうでちゅよ。この際人間でも妖狐でも気にしまちぇん。みんなお友達でちゅ」
「そうじゃ。どうだ横島!余は一日で3人も友が出来たぞ!これも余の人徳のなせる技かのう!」
「へぇへぇ、よーござんしたね」
「王子様とお姫様がそうおっしゃられてるわ、横島」
「ったくがきどもが。わかったよ。みんなまとめて面倒見てやる」
半ばやけの横島である。
「できれば・・・帰りたいかな、と」
唯一のまともな人間真友君が弱気な発言をしているが、誰も答えない。
「なんかとんでもないことに巻き込まれてる気がする・・・」
もう泣くしかない真友君であった。

「ここね!」
それから三分後には既に美神が横島が破壊した非常口を発見していた。
「あんの馬鹿、絶対半殺しよ!」
「お、落ち着いて美神さん。殿下たちもいらっしゃるんですから」
「わかってるわよ。できるだけ怪我をさせないようにって、強いから気にしなくても大丈夫ね」
「あーん、分かってないよこの人。怪我うんぬんではなくてですね美神さん、あ、最後まで話を聞いてくださいよぉ」
「無駄でござる、小竜姫様。ああなってしまってはもう止める手立てはないと存じますれば、願わくば死人(しびと)がでないことを祈るだけでございます」
シロが平伏しながら進言する。シロは武士である。目上に対するときはおおげさなまでに礼儀を正す。
「・・・ああ、私は神でありながらあの人の暴挙を止めることが出来ないのですね」
「御意にございます」
「あ、シロさん、そんなに気を使われても困りますよ。頭を上げてください」
「は、よろしいのでございますか?」
「ええ、お気になさらずに、楽にしてくださいね」
「はさすれば、・・・いやぁ慣れないことは疲れるでござるよ」
「結構変わり身が早いですね」
「はははは、申し訳ないでござる」

「よこしまぁ!!でてこぉい!!」
もはや猛る鬼神と化した美神が擬似森林を掻き分け、横島の姿を追う。
「げ、こんなに早く来やがった!!」
横島は美神の気配を感じ取ると、
「タマモ、真友君を安全な場所に連れて行け」
と指示を出す。
「うん」
狐は勘のいい動物である。何か危険があるのを察知したのか素直に指示に従い横島の後方から奥へ逃げ込む。
とほぼ同時に。

ぼひゅん!!

美神の強烈な神通棍の空気を切る音が耳元を通り過ぎて手前の木をなぎ倒す。
「ついに来ましたね美神さん!」
「あんたまた私の悪口言ったでしょ!」
「え。言ってませんよそんなこと!」
「たとえば金の亡者だとか!」
「そんなの何時ものじゃないですか!!」
「何時もそんな事言ってるのねあんたは!!やっぱり半殺しよ!!」
「な、何怒ってるんですか!」
「うるさいわね!!」
実のところ美神、朝タマモと話をしたときからイライラが続いているのである。(私はタマモ参照)
そう、自分の思いがある一点にたどり着いてしまいそうなのがその原因であるのだが。
『スケベだけど結構つくすタイプのいい奴だし、嫌いじゃない・・・』
というそのあまり考え、認めたくない事を打ち消すかのように横島に襲い掛かる。
「お、落ち着いて美神さん」
横島は気付いていない。
 いっぱいいっぱい、大きな動作で交わしているようでその振り下ろされる霊気の鞭を無意識のうちにすべて見切っていることに。
そして美神はそれを理解した。もう彼より弱いという事実を。
それでも彼女はまるで意地っ張りな少女が駄々をこねるように鞭を振りつづける。
「おとなしく食らいなさいよ!!」
「無茶言わんでくださいよ美神さん!」
美神の鞭が偽物の木々を次々となぎ倒していく。それでも美神はとまらない。
「やめい、やめぬか!」
「いいかげんにするでちゅう!」
天竜童子とパビリオはとんだとばっちりを食った。何せ美神の四方八方から跳んでくる鞭と同時に倒れてくる木々を避けなければならないのである。
さすがは子供とはいえ二人とも実力者だけあり、難なく避けつづけてはいるが、このままでは逃げ道がなくなる。
「うわぁ!」
その時後方から男の子の悲鳴が聞こえた。
「きゃぁ真友君!!」
真友が逃げ切れず木と木の間にはさまれたのである。
「む、しっかりしろ!」
天竜童子がいち早く気付いて、木をどける。グラスファイバー製の軽いものだったから大した怪我はなかったが右腕からじっとり血がにじんでいる。
「ばか、人間のくせに私なんかかばうから!!」
「へへ、男が女の子に助けられたとあっちゃ、格好つかないだろ?」
「よかったでちゅ、大した怪我がなくて」
「魔族が人間の心配するなんて」
「いいじゃないでちゅか」
「誰が悪いなんていったのよ」
結構打ち解けてるタマモとパビリオである。口が悪くても顔は笑っている。
「こうなったら余が奴らを止める!」
「って早く逃げないと小竜姫がきちゃうでちゅ」
「む、しかし家臣の過ちを正すのもわしの勤めだ。分かってくれぬか、パビリオ」
「ちょうがないでちゅね」
「私も行くわ、真友君をこんな目に合わせた償いをしてもらわなくっちゃ!」
とタマモと天竜童子がが意気揚揚と美神たちを止めに向かおうとしたその時。
「お待ちください殿下!」
小竜姫が二人の前に立ちはだかった。
「む、小竜姫、ついに来たか」
「・・・・」
無言の緊張が三人の間に走りぬける。

『ええ、そこの化け物。これ以上パークを破壊するとGS美神に頼んで退治してもらうぞ』
「本人でござる・・・」
アナウンスを聞いて涙を流すシロの姿が、どことなく寂しげである。
「いいかげんおとなしくしなさいよ!」
「無茶言わんといて!!」

続く

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