ザ・グレート・展開予測ショー

GS横島!/元始女性は太陽であったか?(4)


投稿者名:AJ−MAX
投稿日時:(01/ 1/19)

 何もない空間に見目麗しい女性の首が浮いているというのは、数え切れないほどの魑魅魍魎を相手にして来た横島にとってもかなり衝撃的なものだった。

 しかもそれが知り合いであるからなおさらである。かたわらを見ると、シロも呆然と目を見開いていた。

「……呪いか?」

「多分な。詳しい話は……俺からした方がいいか?」

 気遣うような雪之丞の言葉に、弓は気丈にも首を振った。

「私が自分で話します。伊達さんにももう一度聞いていただきたいですし。ただ、少し長い話になりますがよろしいですか」

 その声は震えていたが、弓の意志の強さを感じさせる凛としたものを感じることが出来た。

 己の身に降りかかったただならぬ事態に、この少女はけして膝を屈してはいないのだ。

 横島はその様子にほんの少しだけ安堵した――心さえ挫けていなければ、どんな呪いや妖術だろうと打ち破るすべはあるはずだからだ。

「いいよ、話してくれ」

 横島はまっすぐな眼差しを逸らすことなく向けてくる弓に、出来るだけおだやかな口調でうながした。



 あれは一週間ほど前の雨の日でした。両親とともに除霊を済ませた帰り道のことです。

 滝のような豪雨の中、我が家の門の前に立つアイツを見つけたのは。

 それは長い髪をした長身の男の姿をしていました。身に付けていた黒いスーツは、濡れるに任せてさらにその黒さを増していました。

 青白い、猛禽類を思わせる尖った顔つきをしたそいつは、私たちが現れたのを認めると、耳元まで裂けようかという口を大きく開きました。口の中が不気味に赤かったのは今でも良く覚えています。

 そして、ヤツは何の前触れもなく私たちに襲い掛かってきたのです。

 父も母も弓式除霊術を極めた手練ですし、私だって腕に覚えはありましたから、一瞬不意をつかれましたがすぐに臨戦体勢に移行することができました。

 あちらは一人、こちらは三人ですから数的優位があります。目配せだけで作戦を伝え合い、敵を囲むように散開しました。

 ですが、それこそがヤツの狙いだったんです。

 ヤツの動きは目で追えないほど速く、分散してしまった私たちは各個撃破の格好の目標になってしまいました。

 まずやられたのは母でした。

 ヤツは母にピンク色のどろどろした液体を吐きかけました。

 母はかわしきれず右腕にそれを浴びてしまい、浴びた部分を虫食いのように消されてしまったのです。そして虫食い部分は見る間に母の体を侵食し、二秒も経たないうちに母の姿はかき消すようになくなってしまいました。

 父は激怒して「水晶観音」を発動させました。私のそれとは攻撃力・防御力ともに桁がちがう代物です。

 奇声を上げて父はヤツに挑みかかりました。私も隙あらば援護に飛び込もうと「水晶観音」を纏います。

 体術だけなら父の方に分があったでしょう。しかしヤツには例の液体という切り札がありました。父はそれを気にしたせいか動きに切れがなく、戦いがすすむごとに押され気味になってゆきました。

 私はなんとか戦況を父に有利にしようと戦いの中に割って入りました。今思えば目の前で母がやられて正確な状況判断能力が低下していたのでしょう。

 案の定、私はヤツの吐いた液体をかわすことが出来ず、モロにお腹に浴びてしまいました。

 父は私がやられたのを見て、咄嗟に奥義を使いました。「水晶観音」と並ぶ秘儀「翡翠天翔」――掛けられた者がそのとき潜在的に想っていた存在のところへ強制的に転位させるという、勝ち目のない戦闘から離脱するための呪法です。

 私は翠色の閃光に包まれながら、父がヤツの攻撃に倒れるのを見ました。術を使った隙を狙われたのでしょう、父は足元からその存在を消されようとしていました。



「――そして私がやってきたのはここ、伊達さんのところでした」

 そこまで話して、弓は区切りをつけるように一息ついて冷め切った茶をすすった。

 湯飲みを卓に戻す手が小刻みに揺れているのは、話しながら記憶がまざまざと蘇ったからだろう。しかしそれでも、弓の目から峻烈な光が失われることはなかった。

「伊達さんはすぐ精霊石の結界を庫裏に張ってくれました。そのおかげで私はまだ消えずにいられるんですが、ここから外に出ることも出来ません……父と母の仇を討ちに行くことも出来ないんです」

 道理で庫裏の片付き方に比べて本堂が汚かったわけだ、と横島は心中ひそかに納得した。そして雪之丞があわてて自分を呼んだわけも。

「……敵討ちをするなら、拙者も協力するでござるっ!」

 今まで黙っておとなしく弓の話を聞いていたシロが、たまりかねたように口をはさんだ。誰よりも親を失う悲しみをよく知っている彼女のことだ、内心おだやかでないものがあるのだろう。

「まあ待て。今の段階じゃ相手について何もわかっていないも同然だ。まずは情報を仕入れないかんのだが……雪之丞、なんかわかったことはないのか? 調べてみたんだろう?」

「ダメだ。相手の特徴がなさ過ぎるのと、資料の量が多すぎて確認しきれない書物がまだまだ残ってる。出来ればお前にも手伝って欲しいんだが――」

「何遠慮してんだ、最初からそのつもりで呼んだクセに」

 もちろん協力するのに横島に否やがあろうはずがなかった。心身ともに苛まれるうら若き美女を目の前にして、放っておける彼ではなかったから。

「そうか、恩に着るぜ」

 雪之丞はそう言って深々と頭を下げた。

「そんな、伊達さんが頭を下げるようなことじゃありませんわ! 元はといえば私のふがいなさがまいた種なんですもの……!」

「いや、進行を止めておくことしか出来ないのは俺の力不足だからな。横島と協力してなんとか解く手立てを見つけるから、安心して待ってろ」

 慌てて雪之丞の頭を起こそうとした弓に、雪之丞は静かな、しかし威厳を込めてそう言い切ったのだった。

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