ザ・グレート・展開予測ショー

月ニ吼エル(6)〜後半


投稿者名:四季
投稿日時:(01/ 1/19)

「いくぜっ!」

 加・速の二字を発動させ、横島が走った。

 天狗は無言。


 斬ッ!!


 裂帛の気合と共に繰り出した横島の上段からの斬撃は疾かった。

 しかし、天狗はその動きに劣らない。

 最小限の動作で左に受け流すと、返す刃で横島の腕の腱を狙う。

 横島は辛うじて刃を合わせると、バックステップで引いた。 

 両者、真っ向から睨み合う。

「まったく良い年した爺さんが、また強くなりやがって・・・」

 以前シロとやった時よりも尚動きに切れがある。文殊で加速しても、斬撃を捌くのがやっとだった。

「ふん、主こそ、ただの馬鹿かと思ったが・・・やるではないか」

 天狗の目は好敵手を得た喜びで爛々と光っていた。

 剣に狂って妖怪になっただけの事はある、険呑な光だ。

「はぁっ!」

 呼吸で間を測った後、再び横島が切り込んだ。

 動きは文殊の力を得た横島の方が速い。

 けれど、如何せん剣の腕前が違う。

 その後の横島の無数の斬撃を、天狗は無駄のない動きと技の切れ、動きの流れを見切る能力で平然と凌いで見せた。

「どうしたどうした、息が上がっているぞ?」

 確かに速度は増した。

 けれど、体力が同じ比率で強化されるわけではない。

 実践で鍛えられてきたとはいえ、横島の剣にはまだまだ無駄が多かった。

 自然、体力は消耗する。

「・・・うるせー、次で決めてやる」

 声には強い意思が込められていたが、呼吸の乱れは明らかだった。

 そろそろ決めなければ、待っているのはジリ貧だろう。

 超加速で挑めば良かったか。

 一瞬そんなことが頭を過ぎるが、瞬間で振り切った。

 決めていたことだ。



「師匠の方がそんな程度では、弟子のシロ嬢ちゃんが泣くぞ?」

 でかい世話だ。

 声に出さずに反駁する。

 意識が飛びそうだった。

 直前の斬り合いでは左肩に一撃貰っている。

 相手から初めて能動的に斬り込んできて、瞬時に四回切りつけてきた。

 三度までは捌いた。

 けれど、四撃目を捌き損ねた。

 斬撃の数だけなら犬飼は一振りで八度切って見せた。

 しかし、質が違った。計算され尽くした角度から死角を突いて襲ってくる四度の斬撃は、犬飼のそれを遥かに凌ぐ厄介さだ。

 今の傷は浅い。が、血が止まらない。

 血液と一緒に意識が流れ出しそうだった。

「どうした、だんまりかね?そんな腕で誰かを守れるつもりか?」

 挑発か?

 いや違う。

 天狗の考えが手に取るように解かった。

 多分、そう、ある程度認めた相手をもっと強くしたいのだ。

 この程度の挑発で自滅する相手なら詰まらない顔で切り捨てる、戦いの中でまだ変わるようなら自らが死んでも喜んで切り合うだろう、剣術キチガイめ。

 だが、そうだ。

 あいつが待っている。

 あいつが。

 誰だ?

 そうだ、待っているあいつがいる。

「・・・し・・・」

 守ってやれなかった。

 気付いてやれなかった。

 なにひとつ、してやれなかった。

 けれど。

「るし・・・おら・・・」

 守らなければならない。

 何があっても。

 この身に換えても。

「ルシオラ・・・」

 あいつが俺に命をくれた。

 あいつが俺に力をくれた。

 でも、そんなことよりも。

「ルシオラ」

 あいつが好きだった。

 もっと一緒に夕日を見たかった。

 喧嘩をして、仲直りして、馬鹿なことして遊んで、笑って、泣いて。

 もっと、もっと、あいつと、あいつと・・・。

「ルシオラ」

 助けるんだ。

 霊波刀にありったけの霊力を込める。

「今行く」

 今行く。

「ふむ、いい顔になったな」

 目の前の敵が、何か呟いた。

 知ったことではない。

 誰が相手でも、行かなければならないのだ。

 あいつが、待っている。



「だが、我が剣、敗れるかな?」

 天狗は尚も面白そうに呟いた。

 相手に聞かせたいといった口振りではない。

 寧ろ、自分に問い掛けている。

 ワクワクしているのだ。

 目の前で化けて見せた男に。

「二度も三度も斬りゃいいってもんじゃねーっての」

 横島は呟いた。

 霊波刀を青眼に構える。

 大切なものを守る為に、彼はまだ諦めていなかった。

「・・・良く言った、来いっ!!」

 天狗も同じく青眼に構える。  

 来いと言ったが、お互いすぐには動かなかった。

 互いの呼吸を測る。


 ひとつ。


 ふたつ。


 みっつ。


 ・・・・・・


 ・・・・・・


 ・・・・・・


 ふっと、空気が動いた。


 一瞬早く横島が動く。


 天狗が迎え撃つ。


「けええええええええええええええええ!!!」


「いぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇい!!!」


 刃の閃き。


 交錯。


 沈黙。


 そして。


 その場に倒れ臥していたのは、横島の方だった。

今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa