ザ・グレート・展開予測ショー

月ニ吼エル(6)〜前半


投稿者名:四季
投稿日時:(01/ 1/19)


「久しぶりだなオッサン。相変わらず修行三昧か?」

「何故ワシがここにいると思ってるんじゃ?」

 微笑交じりの問い掛けは、苦笑交じりの問い掛けで返された。

「言わずもがな、か」

「左様」

 悠長なやり取りに、数歩後ろから醒めた視線を送っていたタマモが首を捻る。

 もう少し鬼気迫る会話でも見れると思っていたのだが、どうにも久方ぶりに会った茶飲み友達の挨拶にしか見えない。

 鬼気も殺気も彼女の鋭敏な感覚を翳めもしなかった。

「人狼の嬢ちゃんは元気かね?」

「シロだ。名前くらい覚えとけよ、ボケるぞ?」

「フン、でかい世話じゃ。で、どうなんじゃ?」

 父に続いて娘も余程気に入ったのだろう、ぎょろりとした瞳が興味深げに輝く。

 もう何百年もこの森にいるが、こんな表情を見せることは稀だろう。

「ん、ぶっ倒れてるよ。高熱が出て意識も混濁、ヒーリングもきかねー。だから、人狼用の霊薬を貰いに来た」

 無造作な物言いに、天狗は一瞬沈黙した。

 意外だったのか、それともかつて自分を熱くした戦いを反芻しているのか。

「って訳だから、出来れば今すぐ何も言わずに渡してくれると有難いんだけど・・・」

 横島は天狗の表情を見て、苦笑した。

「どうやら、無理みたいだな」

「ふむ、残念ながらワシの誓いじゃからの」

「めーわくなこった。・・・ま、いーや、異存は無い」

 全然残念そうに見えない天狗の表情に苦笑いして、横島は背負っていた荷物を降ろす。

「その前に、そっちの嬢やは?」

「ああ、そいつは・・・」

「妖孤のタマモよ。外見だけでガキ扱いして欲しくないわね」

 実際タマモは実年齢なら天狗にも勝るだろう。

 もっとも記憶が追いついていないから、現実的には天狗の言う通り子供と大して変わらない。

「ほっ、ではこの子がシロ嬢ちゃんが助けたかった嬢やか。なるほど、威勢が良い子狐じゃの」

「・・・・・・」

 タマモは沈黙で答えた。

 挑発なら乗ってやる義理はないし、人の意見を聞く頭が無いならそもそも相手にしたくもない。

 置いていかれた形の横島は密かに苦笑した。もう少し砕けた場面なら、腹を抱えて笑い転げただろう。

 天狗はムキになる相手のをからかうのが好きなだけで、挑発する気も敵意も無いと言う事が表情を見ていれば分かる。実に楽しそうだった。

 要するに大人気ないのだ。

 子供っぽいと言っても良い。人付き合いが無いから世間にすれないままの若い感性を保っているのかもしれなかった。

 性格もあるだろう。良いか悪いかは知らないが。

「んじゃ、やるか?」

 微かな笑みを残したままで、横島は問い掛けた。

「私は?」

「ふむ、一対一などというけち臭い事を言うつもりは無いが?」

 そんな限定条件下に拘っては実戦の訓練にならない。

 どこまでも修行命の男だった。

「ま、取り敢えずは見とけ。このおっさん見かけによらず早いからな」

 策もあるしな。

 言葉にはせずに唇の端を上げる。

 それは悪戯小僧の表情だった。

「あっそ。強がるのは良いけど怪我しても知らないわよ?」

 私は楽で良いけど。

 タマモは付け足してにっと笑った。

 掌の中では託された三つの文殊を転がしている。

 それぞれに、超・加・速という文字が浮かんでいた。

 万が一横島が失敗した時はそれを使って天狗を出し抜く予定だ。

 失敗する前に戦いに参加する手もあったが、横島がどう化けるのか、それを見てみたいという興味がどこかにある。

 だから静観する事にした。

「ふむ、ではお主か」

 天狗は横島の正面に立った。

 まじまじとその顔を見詰める。

 以前相対したときは、奇策に見事にしてやられた。身体能力ではまるで自分及ばないが、隙を作らされた。

 卑怯とは思わなかった。彼は頑固だが偏屈ではない。

 面白い、そう思った。

 その面白いだけだった男が暫く見ぬ内にどう変わったのか、正直楽しみでもある。

「ああ、やったる」

 横島は腕まくりしながら答えた。

 表情のどこかに自信が感じられる。

 間合いを広く取った。

 腰を落とし、意識を集中する。

 天狗は自信の表れだろうか、微動だにしない。

 一陣の風が抜ける。

 と。


「だりゃあああああああああああ!!!!!!」


 一瞬だった。

 気合の声と共に、横島は脱いだ。

 もろ肌だった。

 ブリーフだった。

 ポーズまで取った。

 タマモがこけた。

 そして・・・。



「ふ、ふっふっふ、ふははははっはははははっ!!!」

 天狗は哄笑した。

「そうか、その程度か、所詮は単なる奇策の男か」

 気力の充実に伴ってその鼻が伸びる。

「甘いわっ!!」

 その大喝にタマモは背が竦み上がる思いだった。

 いけない。

 あの馬鹿、ほんとに馬鹿だった、このままじゃ殺される。

 それは困る、いくら馬鹿でもいなくなったらあのバカ犬をからかえなくなるではないか。

 半裸で霊波刀を構えるというアレな姿勢の横島をどう援護しようかと思った時、恐るべき天狗の声が続いた。

「今やワシは男でも女でもおーるオッケーじゃっ!!!!」

 立ち上がろうとしていたタマモが更に派手にこける。

 叩き付けられた頭が地面にめり込んだ。

「ああっ、それって色んな意味でサイテーーーーーー!!!!」

 横島が脱いだ時の倍の速度で衣服を身につける。

 顔面は蒼白、身の危険というか貞操の危機に奥歯が震えていた。

 というか、そんな事で高笑いするなよ。

 タマモはなんとか立ち上がったが、なんだかどうでも良いような気持ちになってしまった。

「なにやってんだか・・・」

 眉間を指で揉む。

 と、横島が数歩引いた。

「わりぃ、やっぱ、文殊使わねーと駄目っぽいわ」

 苦笑いでタマモを見やる。

 どうやらそれでも自分で戦う気は満々らしい。

「はいはい・・・」

 言われた方は呆れた表情で掌を広げた。

 当然だろう、策が失敗したらこれで何とかしろと自分で言っておいて、今度は持っていくのだ。

「おう、んじゃ行って来るわ」

 思いっきり外した割には涼しい顔で笑って、横島は色んな意味で無気味な笑いを浮かべる天狗との間合いを戻した。 

「・・・なによ」

 開いたままのタマモの掌の上には、文殊がひとつ残っていた。

 超の一字が浮かんでいた。

「一個だけ置いてってどうするのよ・・・あの馬鹿」

 慌てていたのか。

 それにしては意味を成す二字だけを持っていっている。

 彼女は最終的に霊薬が手に入ればそれで良い、のだが。

 良く解からない男だ。

 ここに来て、益々解らなくなった。

「いくぜっ!!」

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