ザ・グレート・展開予測ショー

おキヌちゃんの一日 ―横島のある風景― 後編


投稿者名:AJ−MAX
投稿日時:(01/ 1/18)

「……うん、そうしようか。じゃあ上がって」

 私は横島さんの後に続いて部屋の中に入りました。

 中は相変わらず足の踏み場にも困ってしまうような状態でした。一週間ほど前に掃除し

に来たばっかりなのに、どうしてこんなに散らかせるのかしらと不思議になります。二畳

分くらいの台所にはゴミの入った袋があちこちに置かれているし、奥の六畳間も万年床を

中心にしていろんなものが積み上げられていました。

「そこらへんに座って待ってて。直してくるから」

 そう言って横島さんは洗面所のほうに行きました。私は言われた通り空いているスペー

スに腰を下ろしましたが、何もしていないのが手持ち無沙汰だったので、とりあえず手の

届く範囲だけでもと軽く整理を始めました。

 散らばっている雑誌――バイクや車の情報誌はもちろん、えっちな本もいっぱいありま

した――を一まとめにして、カップラーメンの空きカップなんかのゴミをそこらにあった

コンビニのビニール袋に詰めていきました。掃除機をかけなくても、これだけでずいぶん

部屋は広く綺麗になるんです。脱ぎ捨ててある洗濯物は一箇所に集めておきました。また

今度来たときにお洗濯しなくちゃ、と思いながら。

 しばらくそうやってかたしていると、

「こんなもんでどうかな?」

 横島さんが洗面所から顔だけ出して言いました。髪の毛が水で濡れていましたが、私の

見たところ寝ぐせは多少マシになった程度で、はっきり言ってあまり変わっていません。

「それじゃダメですよ、乾いたらまたくしゃくしゃになっちゃいます。ちょっと待ってく

ださい」

 手に持っていた紙袋を床に置いて、私は洗面所に行きました。

「なに?」

「いいからしゃがんで、頭をこっちに向けてください」

 横島さんは少しためらいながらも言う通りにしてくれました。顔がちょっと赤みがかっ

ています――恥ずかしがっているんでしょうか。ふふ、かわいい♪

 なんだかうれしくなった私は、気分良く横島さんの髪に手を伸ばしました。固くて太

い、男の人らしい髪質です。

 私は洗面台からブラシを取り、ぼさぼさの髪を丁寧にくしけずりました。意外とこうい

う髪の方が寝ぐせは直しやすいんです。ふわふわと細い髪はブラシに絡まって思うように

いじれなかったりしますから。

「ん! こんなもんでいいかな」

「どれどれ……うん、直った直った。ありがと、おキヌちゃん」

 いつもどおりに整った頭を鏡で確認すると、そう言って横島さんは笑いかけてくれまし

た。その笑顔をものすごく間近で見て、今度は私の方がほほを熱くしてしまいましたが、

どうやら気付かれていなかったみたい。横島さんは私を置いてさっさと六畳間の方へ戻っ

てしまいました。

(ひどいなあ、もう。一人で行っちゃうんだから)

 そんなぼやきを思わず漏らしそうになったとき、六畳間から横島さんの声が聞こえてき

て私を正気に戻しました。

「あれ? この紙袋、なんだ?」

「あ、それは……!」

 あわてて六畳間に駆け込むと、横島さんが不思議そうに紙袋をためつすがめつしている

ところでした。よかった、開ける前で!

「これ、おキヌちゃんが持って来てくれたの?」

 横島さんは呑気にそんなことを言いました。さっき私が抱えていたのを見てなかったの

かしら? ほんっとに女心がわかんないんだからなぁ……。でも、もう慣れたし。鈍いの

を帳消しにするくらいいいところもあるから……好き、なんですけどね。

「そうです。開けても……いいですよ」

 この際ですから、私はもう思い切ることにしました。

 おしゃれなお店でご飯を食べて、ショッピングして、夕暮れのベイエリアかなんかでド

ラマチックに――なんて昨夜ベッドの中でいろいろ考えたシミュレーションとは全然違っ

ていましたけど、きっとこれが私と横島さんにとっての自然なんでしょう。

「そう? じゃ、開けるよ」

 横島さんは一瞬私の顔色をうかがってから、リボンに手をかけました。早鐘のように拍

動する心臓を感じながら、ゆっくりと包装をほどいてゆく彼の指先を見つめます。

 何重にも施したラッピングを全て解いた時、そこに現れたのは……。

「セーターじゃん!」

 冬が始まる前から編み始めていたアイボリーのセーターでした。シャツの上からでも着

やすいように、首周りはV字にしてあります。

「はい。編むのが遅くてこんな時期になっちゃいましたけど、目を粗いめに編んだから春

になっても着られると思います。色とか気に入ってもらえるといいんですけど……」

 私の話を聞いているのかいないのか、横島さんはやおらデニムのジャンバーを脱いでさ

っそくセーターに袖を通してくれました。そしてサイズを確かめるように手を曲げたり伸

ばしたりして、

「うん、ぴったりだ! ありがとーな、おキヌちゃん」

 そう言って微笑んでくれました。

「気に入ってもらえました?」

「もちろん! 気に入らないわけないじゃない」

「よかった。ほっとしました」

 にこにこしながらセーターを着てくれている横島さんを見て、わたしの心はなんだかあ

ったかいもので一杯になっていました。

 これって、幸せっていうんでしょうかね♪


 あ、書くのを忘れるところでした。追記、です。

 その後私たちは予定より少し遅れましたが、デパートに買い物に行きました。

 喫茶店でお茶したり、ジュエリーショップを回ったりといろいろ楽しいことはあったん

ですが、中でも一番嬉しかったことが一つ。

 横島さんが「さっきのセーターのお礼」って言って、かわいい桜色のニットのカーディ

ガンを買ってくれたんです!

 そしてこのニットも、私のお気に入りの仲間になったのでした♪

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