ザ・グレート・展開予測ショー

おキヌちゃんの一日 ―横島のある風景―


投稿者名:AJ−MAX
投稿日時:(01/ 1/18)

(横島さん、喜んでくれるかな……)

 私はいつまで経っても美神さんのみたいになってくれない胸をその思いで一杯にして、

アパートへの通いなれた道を小走りに走っていました。昨夜遅くまでかかって丁寧にラッ

ピングした紙包みを、落としたりしないようにしっかりと抱えて、です。

 心臓がばくばくとうるさいくらいに鼓動していました。走っていたせいだけではなかっ

た、と今では思います。きっと緊張していたんでしょうね。

 普段あんまり走ったりしないもんですから、息もずいぶん上がっていました。でも、そ

れも私が命を持っている証。幽霊だったころには感じることの出来なかった感覚です。た

とえそれが苦しいものであっても、私はそれを味わえることがうれしいです。生きてい

る、って感じがするから。

 この角を曲がれば横島さんのアパートというところまで来て、一旦立ち止まって大きく

深呼吸をすることにしました。ぜいぜい言いながらなんて、恥ずかしくて顔を合わせられ

ません。

 なんとか息も落ち着いてきたので、もう一度自分の格好を見直してみました。

 お気に入りの薄いブルーのスーツに、白のフレアスカート。ちょっとだけ青みかかった

ストッキング。その上に大きな白のダッフルコートを羽織っています。大丈夫、おかしな

ところはありません。

 まだ幽霊だったころに横島さんがわざわざ雪山に登って手に入れてきてくれた、生まれ

てはじめて着た洋服です。生き返ってからは六道女学院の制服やなんやといろんな服を着

られるようになりましたけど、やっぱり一番思い入れがあるのはこの格好です――多分、

これからもずっと。

「……さ、行こう」

 口に出して勢いをつけ、私はアパートへ向かいました。

 おさまっていたはずの心臓が、建物に一歩一歩近づくごとにまるで自分の物じゃないみ

たいに騒ぎ出します。

 さびが浮いた階段を上ると、そのすぐ隣に横島さんの部屋のドアがあります。薄い木製

のドア。立て付けが悪くって、少し上に持ち上げながらじゃないとうまく開かないんで

す。

 インターホンはついていませんから、私は来意を告げるために軽く二、三度ノックをし

ました。そんなに力を込めたつもりはないのに、なんだかやけにその音が大きく響いたよ

うに感じました。

「はーい。誰ー?」

 横島さんの眠そうな声が返ってきました。今日はお休みの日だからお寝坊していたんで

しょう。ちょっと来るのが早かったかしら?

「おキヌですー。起きてますか?」

「あ! もうそんな時間!? ごめん、ちょっと待って」

 部屋の中で横島さんがあわただしく動き回っている気配がしました。やっぱり寝起きだ

ったみたい。もう、私は昨日からドキドキしてあんまり寝られなかったのに。横島さんだ

けぐっすり寝てたなんて、ずるい。

 そのまま二分くらい待ったでしょうか、ドアが勢いよく開いて横島さんがやっと出てき

てくれました。

「ごめんな、忘れてたわけじゃないんだけど、最近なんやかやで肉体労働が多かったから

疲れてて……。ホント、悪かった」

 いつもと変わらないデニムの上下姿の横島さんは、私を見るなり申しわけなさそうな顔

で謝ってくれました。よっぽど急いでくれたんでしょう、髪の毛があっちこっちに散らか

ったままです。

 そんな横島さんを見ていたら、すねていた心はどこかへ飛んでいってしまいました。そ

れに、無理を言ってお買い物――これってデートっていうのかしら――に付き合ってもら

うのは私のほうなんですから、ささいなことで怒ってちゃ駄目ですね。

「ううん、いいんです。それより横島さん、寝ぐせがすごいですよ」

「あ、やっぱり気になる?」

 横島さんはそう言って頭に手ぐしを入れましたが、そんなことくらいではこのひどい寝

癖はどうにも直しきれません。

「ちょっと直して行きましょうか。まだお昼前ですから、時間も大丈夫ですし」

 ホントは早めにデパートに行ってお昼ご飯を食べようと思ってたんですけど、この寝ぐ

せをそのままにしておくのには抵抗がありました。せっかくお出かけするんだから、やっ

ぱり身奇麗にしてほしいですもの。それに、この紙袋のこともあるし……。

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