ザ・グレート・展開予測ショー

月ニ吼エル(4)


投稿者名:四季
投稿日時:(01/ 1/16)

「そういえば、シロちゃん降りてきませんねぇ」

 見た目再起不能ちっくな横島にヒーリングを施しながら、おキヌは天井を見上げて心配そうに呟いた。

 テーブルの上にはシロの分の朝食だけがぽつりと取り残されている。

 ・・・ちなみに焼肉であった。

 見てるだけで込上げて来るものが有りそうだが、誰が何と言おうとこれがシロの朝食なのだから仕方がない。

「大方ベッドの中ででも拗ねてるんじゃないの?」

 腹ぺこになってそのうち降りてくるわよ。

 最近喧嘩で負けが込んでいたのか、タマモはしてやったりの表情だ。

「・・・ま、仲が良いのはいいけどさ、程々にしときなさいよ?」

 ため息まじりの美神。

 この二人の所業、半分諦めているとは言え、そのじゃれ合いで事務所が火の海に成り掛けたり崩壊の危機に瀕しかねないのが頭痛の種だ。

「何だ、おまえ等またやったのかー?」

 おお、横島生きてた。

 流石、人間は慣れる生き物なのか、一見ぼろぞーきんのようだが口調は意外と元気そうである。

「フン、大きなお世話よ。横島こそ、毎度毎度よくそれで生きてるわねー」

「だーかーら、今回は俺の所為じゃねーっつーの」

 思いっきりべーっと舌を出して憎まれ口を叩くタマモに横島が力説するが、はっきり言って効果は薄い。

「あははー、ま、気にしない気にしない、何時もの事じゃない♪」

「アンタがそれをゆーかっ!?」

 さもありなん。

 美神は都合の悪いことは右から左へ抜けていくという実にハイスペックな耳の持ち主なのだ。

 世間ではそれを身勝手と呼ぶこともあるらしいが、美神は世間の尺度に自分を合わせるという気苦労の多い趣味を持ち合わせていないので全く問題ない。

 ・・・・・・本当に問題ないのか?

「えっと、その・・・ゴメンナサイ」

「あ、いや、おキヌちゃんはいいんだ、OK、全く問題なしっ!」

 一方深刻そうな表情で頭を下げる美神除霊事務所良心担当のおキヌには横島も強く言えない。

 というか「さっきおキヌちゃんも殴ってなかったか?」という突っ込みを入れさせない所がおキヌのおキヌたる所以である。

 何の悪意も計算も無く、素でそういう事が言える娘なのだ。ある意味究極の天然である。

 そして。

「大体おキヌちゃんはどっかの暴力女と違って生身の人間を神通坤使ってシバキ倒すよーなことせんしっ・・・・・・って、はうっ!?」

「あら、暴力女って誰の事かしら・・・ねえ、横島君?」

「ぃぃいやあああああああああっ、ぼーりょくはんたああああああいっ!!!」

 こうなることが解っていても、フォローを入れずには置けない横島も又、ある意味天然であった。

『・・・天然馬鹿?』

 タマモが心の中で入れた突っ込みには、残念ながら何処からも返事は帰ってこなかった。

「え、えーっと、私、シロちゃん呼びに行ってきますね」

 放送不可能な阿鼻叫喚の地獄絵図に居たたまれなくなったのか、おキヌがそそくさと席を立つ。

「せっかく治療したのに・・・」

 とは言わない。

 というか、言っても聞かない。

 話せば解かる、という良くも悪くも人間的な法則は、残念ながらここに至って破棄されていた。

「タマモちゃんも、一緒に行く?」

「・・・ん、そうね。落ち込んでるなら、からかいにいってやるか」

 面倒くさそうに髪を掻きあげて椅子から立ち上がったタマモに、おキヌはふふっと小さく笑った。

「・・・なによ、それ」

「ううん、いいのいいの。さ、行きましょ、せっかくの朝ご飯が冷めちゃうわ」

「そうね、今ひとつ納得いかないけど・・・」

 穏やかな表情の黒髪の少女と照れ隠しのむっとした表情を崩せないナインテールの少女が仲の良い姉妹のように去った後には。


「ああ、おキヌちゃんかんばーーーっく!!!」

「ホホホホホ、友軍は撤退したわよ?さあ、言ってご覧なさい、誰が暴力女なのかしらー?」

「ぃいーーーやああああぁぁぁぁっっっ!!!」

 此方もまたある意味楽しそうに見えなくもない奇妙な二人組みが取り残されたのだった。


「いやああああっっ!!!!!!」

 そして、事務所に悲痛な叫び声が響く。

「何よ、女の子みたいな悲鳴あげて・・・」

 ぐりぐりと横島に神通坤をえぐり込んでいた美神の動きが、一瞬止まる。

「違います、今の悲鳴俺のじゃないですよっ!!!」

 足元、というか足の下では横島が真剣な面差しで美神を見上げていた。

「美神さん、横島さん、大変ですっ・・・シロちゃんがっ!!!」

 そして、階段の上から聞こえてきたのは、そんな言葉だった。



 テーブルの上には一組の皿が残されている。

 朝食らしからぬ今朝の献立は焼肉だった。

 その食器の主の大好物。

 けれど。

 ほんの数分前までは美味しそうに立ち上っていた湯気が、今は、弱々しかった。

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