ザ・グレート・展開予測ショー

GS横島!/元始女性は太陽であったか?(3)


投稿者名:AJ−MAX
投稿日時:(01/ 1/16)

「訳ありねぇ……。なんか、厄介なことに巻き込まれそうな気がひしひしとしてきたぞ」

「しょうがないでござるよ。それだけあの御仁は先生のことを信頼してるってことでござる」

「そうかな?」

「そうに決まってるでござる。うん、なかなか見る目のあるお人でござるな♪」

「……何を嬉しそうに言ってんだか。さ、俺たちも行こう」

「はーい」

 庫裏の廊下は割とこぎれいに磨かれていた。

 誰かが念入りに掃除をしているのだろう――そしてその誰かとは弓に他あるまい。

 雪之丞が入っていったのは台所のようだった。紺地に白く「飯場」と染め抜かれたのれんをくぐり、二人も中に入る。

 そこは廊下より一段下がった土間になっており、真ん中に無骨な作りの飯台が置かれていた。同じように飾り気のない棚には素焼きの壺や甕が雑然と並び、外壁の方には大きなかまどが据え付けられていた。

「横島さん、いらっしゃい……あれ、犬塚さん?」

 かまどの前でおひつにご飯をよそっていた弓がこちらを振り向いた。

「よっ、久しぶりー」

 横島は片手を上げて挨拶した。

 長い黒髪を頭の後ろでひっつめて、給食当番がよくするような白い布をかぶったその姿は、横島が前に会った時よりもずいぶん所帯じみて見えた。着ているものもざっくりとした萌黄色のハイネックセーターにベージュのチノパンという地味なものだ。

「先輩、こんばんわでござる」

「犬塚さん、どうしてあなたがここにいるの?」

 頭を下げたシロに、弓が不思議そうに尋ねた。

「今は横島先生のアシスタントをしているのでござる。専属でござるよ♪」

「へえ、そうなの……」

「先輩こそこんなところで何をしてるんでござる? あ、先輩も伊達殿の助手をしてるんでござるか?」

「……ええ、そんなようなもの、かしらね」

 弓はおひつのご飯をほぐしながら歯切れの悪い返事を返した。

 その様子に二人が顔を見合わせていると、奥の座敷から雪之丞がとりなし顔で口を出した。

「まあ、話はメシを食ってからにしよう。こっちの部屋でもう山菜鍋が煮えてるからな」

「わーい。拙者、お鍋大好きでござるー!」

 シロは尻尾をぴこぴこと振って無邪気に喜んだ。

「そうか、そりゃ良かった」

「さっきは『拙者は動物性たんぱくがいいでござるよー』とか言ってたけどな」

「先生の意地悪っ。余計なことは言わなくていいでござる」

 軽口を叩く横島を、シロが口をとがらせて上目遣いに睨んだ。

「大丈夫よ、ちゃんとお肉も入っているから安心して」

「弓先輩までー!」

 両手を振り上げて抗議したシロのおなかがくう、と可愛らしい音を立てて鳴った。





 飢えていた横島とシロが常人離れした健啖家ぶりを示したが、山菜鍋は全員に充分行き渡る量があった。弓苦心の味付けも良好で、普段からろくなものを食べていない横島にはまさに至上の美味に思えるほどであった。

 食事の後片付けも全員で済ませ、座卓を囲んで茶をすすっている時、横島が手にしていた湯飲みを置いて言った。

「さて、それじゃ話を聞かせてもらおうか」

 その言葉に雪之丞と弓は一瞬視線をからませ、どちらからともなくうなずいて居ずまいを正した。

「ああ。……まずはこいつを見てくれ」

 そう言って雪之丞は弓にあごをしゃくった。弓は決意に満ちた眼差しでそれを受け、一息にセーターを脱ぎ捨てた。

「弓先輩!?」

「おおッ!? なんて大胆なことをッ!?」

「バカ、よく見ろ」

 驚きの叫びを座敷に響かせた二人に、雪之丞はことさらに平板な声で言った。

「なに……!? なんだこりゃ!?」

「せ、先輩……」

 その事態を認識するのには数瞬の間が必要であった。

 感覚器官を通ったその刺激が脳の中で正確に判断されるのには、さらに数秒が要求された。

 脱いだセーターを握り締め、固く唇を噛む弓の方を見やり、横島はやっとのことでしぼり出すように言った。

「体が……ない……!?」


 肘から先、首から上は確かにそこに存在していた。

 だが、本来均整の取れた美しいラインを誇るはずの胴体部分がない。

 腕や首が見えない体にくっついて宙に浮かんでいるようであった。後ろの床の間が素通しで見えていた。

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