ザ・グレート・展開予測ショー

月ニ吼エル(3)


投稿者名:四季
投稿日時:(01/ 1/15)


 明るい旭日が差し込むリビングでは長閑な朝の光景が繰り広げられていた。

「それで、シロってば真顔でそんなこと言うのよ?」

 話しながらの朝食は食が進むのか、二杯目のキツネうどんを啜りながらタマモは楽しそうに事の顛末を報告している。

「あのシロが“乙女”ねぇ・・・ここのところの異常気象の所為かしら?」

 普段のやんちゃ振りを知っているだけに美神も失笑を禁じえない。

 食後のコーヒーを噴出さなかっただけまだ良心的と言えよう。

「もう、タマモちゃん、美神さんもちょっと笑いすぎですよ・・・」

「何よ、おキヌちゃんだって笑ってるじゃない」

 事務所ほぼ唯一の良心であるおキヌの言葉も、戦力比二対一ではあまり効果がないようだ。

 それに何と言ってもおキヌも年頃の少女である。

 色恋沙汰に興味が無い訳ではないから自然と二人を宥める口調も弱くなるのだった。

「ま、その調子だったら大した事無いんじゃないの?人狼の回復力は尋常じゃないんだから、アンタもそんなに心配することないわよ」

 にんまりとチェシャ猫の笑いでタマモを見遣る美神。

「なっ、だ、誰がシロの心配なんかしてるのよっ!」

 顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまった妖孤の少女に美神とおキヌは顔を見合わせて苦笑した。

「誰がって・・・ねぇ?」

「ふふふ・・・タマモちゃんも素直じゃないですから」

 年長者二人は苦笑交じりの目配せでそんなやり取りを交わす。

 シロとタマモはこう見えて決して仲が悪いわけではない。

 だが、何分同じ犬神族とはいえ狼と狐では習性が異なる為、お互いそれをからかいの種にしてじゃれているような素振りがあった。

 しばしばそれで美神にお小言を貰うのだが、結局何と言っても遊び盛りの二人のこと、余り効果はないし、どちらかを本気で傷つけようという喧嘩ではないから美神達も余程の事がない限りは笑って見守ることにしているのだ。


「でも、シロちゃん、好きな人でも出来たんでしょうかねえ・・・?」

 お気に入りの煎茶を啜りながら、おキヌがふと疑問を口にした。

「確かに・・・でも、あのシロがねえ・・・」

 美神にしても余りピンと来ないというのが正直な感想である。

 何しろ仕事の助手をしている時はかなり有能だが、一歩仕事を離れると散歩と遊び好きなただの犬・・・もとい狼娘なのだ。

「フンっ、どうせ横島あたりでしょ」

 理解し難いけど。からかわれた所為か、不機嫌そうにタマモが言い捨てる。

「うっ・・・!」

「・・・そ、そうなんでしょうか?」

 タマモの一言は、見事に二人の心臓に突き刺さったようだ。二人とも飲み物を喉に詰まらせて苦しそうに呻く。

 確かにシロは横島を先生と慕っていた。 

 そもそもシロと散歩に行くのは横島だし、遊びに付き合ってやっているのも大抵が遊びに詳しい横島だ。

 というか、自分たちが知っている限りでは、シロと頻繁に接している人間は消去法で言っても横島しかいないではないか。

「でも、まさか幾ら横島君でも・・・ねえ?」

「そうですよ、横島さんはあれで筋は通す人ですし、シロちゃんとの関係は先生と生徒ですし・・・ねえ?」

 二人ともなにやら必死で自分の頭の中に浮かんだ想像を打ち消そうとしているようだった。

 意味もなくお互いに何度も同意を求める。

「そ、そうよっ、アイツ何時ぞや犬飼ポチにロリコンとかサイテーとか言ってじゃないっ!」

「ですよねっ、横島さん子供には興味ない筈ですもの!」

 何やら色んな意味で錯乱している二人をタマモは不思議そうな表情で眺めていた。

『人間って変なの』

 言葉にすればそんな感想である。

 そもそもタマモにしてみれば、何故そこまで拘りを持つような相手なら(その相手が横島だと言うのがそもそも今の彼女の理解の範疇には無いのだが)自分からモーションを掛けないのか理解し難いのである。

 横島に至っては欲望のままに暴走することはあってもそれ以外のアプローチで誰かに迫っているところを見た事がない。

 兎に角この三人の関係ほど彼女の理解から遠い所にあるものはないのだった。

『ま、結局美神さんもおキヌちゃんも、横島も子供ってことよね』

 彼女のその感想は前世玉藻の前からの記憶故か、それともある種の無邪気さを持って物事をストレートに見る彼女自身の年若さ故か。

 いずれにせよ、目の前でワイワイとやっている二人を見て、彼女の機嫌は非常に良くなった。

「そういえば、シロってば三日前に横島の家で夜通し遊んでたわよね」


ぴしっ!!!!!!


 空気が割れる音がした。

 古いドアが軋むような音を立てて、美神とおキヌが振り返る。

 意図の有無はさておき、致命的な一言である。

「な、なんですって・・・?」

「そんな、そんなことって・・・」 

 たがが外れた想像力は今まで必死で否定しようとしてきた「嫌」な妄想を掻き立てる。

 あんなこととか。

 そんなこととか。

 あまつさえ、ああ、まさかっそんなことまでっ!?

 二人して自分の妄想にどんどん腹を立てていく。

 額には青筋が浮かび、周囲には鬼気迫る霊的圧力が発生していく。

「・・・横島・・・許さん・・・」

「横島さん・・・信じてたのに、信じてたのにぃーーー」

 ちなみに事実確認は全く無しである。

 実に暴走しやすいお年頃であった。

 そして何事につけても間が悪い人間がいるもので。


がちゃっ


「おはよーっす」

 横島忠夫、生憎と彼はその中でも最悪の部類に入るのであった。

 合掌。


「よ・こ・し・まぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!!」

「横島さんの・・・・・・馬鹿ああああああああああああああっ!!!!!!」



〜〜〜〜〜〜〜〜〜しばらくおまちください〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「・・・・・・な、なんでや・・・・・・ガクッ」

 誤解が解ける頃には、美神とおキヌは食後の腹ごなしを終えて非常にすっきりとした顔をしていた。

 横島がどんな状態だったかは・・・とても書けない。

「・・・・・・わ、私は悪くないわよ?」

 ただ、流石のタマモも蒼褪めていたとだけ追記しておこう。


「あー、すっきりした♪」

「これに懲りたら誤解を招くような行動は慎んでくださいね♪」

 ある意味どこまでも平和な朝の光景だった。
 

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