ザ・グレート・展開予測ショー

私はタマモ


投稿者名:ツナさん
投稿日時:(01/ 1/13)

 (注)この作品は笑いがありません。ヒューマンドラマ的要素を含んでいるような気がするお話です。

 新春1月某日。
 美神除霊事務所は恒例の正月行事も一通り済ませ、変わらぬ日常に戻りつつあった。
一つ二つ足りない事と言えば、シロとおキヌちゃんが実家に帰省していることぐらいだろうか。
 そして案の定、おキヌちゃんの部屋以外は汚れまくりの散らかりまくりとなっている。
 大掃除からまだほんの十数日しか経っていないのに、酷いものである。
 オフィス兼居間である事務所の一室では、今日も雑多な書類と汚れ物の中で令子がつかの間の睡眠を貪っている。
 
 いっぽうシロとタマモの部屋では。
 かまう相手の居なくなったタマモが一人うろうろと部屋の中をうろついていた。
 とにかく退屈なのだろう。
「あーあ、どうしよ」
ベットに寝そべってみたり片手間に雑誌を読んでみたりしながら、タマモは何かおもしろいことがないか、と思案していた。
「考えてみたらわたし、いつのまにか人間の中で生きる事が当たり前のようになってる」
始めは人間の生活に慣れるために共同生活を始めたのではなかったのか。
人間と、狼と馴れ合うつもりなんてなかったじゃないか。
「・・・私、どうしたいんだろ・・・」
ぼんやりと考えているうちに、ふとそんな考えが浮かんだ。
九尾の狐である自分は、何のために居るのだろう。
それは一瞬の心の隙に生まれた、自分の存在に対する疑問。
 いままで、いや殺生石に封ぜられる前の自分を前世とするならそれも含めて、生きることに精一杯でそんな疑問など考えることがなかった。
 ただ、必死で生き抜くという日常の繰り返しが続くだけ?
 手に取った雑誌をいつのまにかギュと握り締めている自分。
「そう、あたしは生きるためにあらゆる物に取り入って生きてきたけど、これからもそう生きるだけなのかな」
私は人間が嫌いといいながら、もしかしたら人間に寄生して生きるだけの存在なのかも知れない。
 今まで考えたことなど、いや、考えてはいたが、心の奥にひたかくしにしていた事実が、今ここにあるということ。  
 自分が、自分である理由・・・。なぜここに『生きているのか』という理由。存在意義。
 彼女は考えたことがなかった。もとは神に近い存在であった彼女。人間とともに歩んできた前世、そして今。
 いくつもの滅びを見、知り、恨まれ、逃れ、そして・・・。
 抜け落ちた記憶の中に眠る、幾人もの権力者達の姿。
 求められたのは心ではなく偽られた姿形。
『私は・・・誰?』
いつのまにか心の奥底にへばりついて離れなかった、疑問。
「・・・わかんないよ」
いつの間には膝を抱え、顔を両膝の間にうずめている自分。
『泣いて・・・るの、私』
はっと顔を上げ、頬を伝う涙を手の甲でぬぐう。
「・・・、何考えてるのかしら私、ばっかみたい」
その時。
「タマモ〜〜〜、あんたに電話よ、真友って男の子から」
下の階から令子の呼び声が聞こえた。
「え、真友君?」
タマモは先ほどまでの気持ちを振り払って、駆け足で部屋を飛び出していく。
「何よタマモ、いつの間に彼氏なんか作ったのよ」
令子が子機を渡しながらにやりとして尋ねた。
「ただのお友達よ!」
言った後、何むきになってるんだろう、とふと考える。
「ほら、ボーっとしてないで早く変わんなさいよ」
「あ、はいはい、えっと、もしもし、私だけど」
『あ、もしもしタマモちゃん、久しぶり』
「うん」
『あれから全然連絡取れなくってごめんね』  
あれとは両親の離婚調停の事である。遊園地で出会って以来、実は何度かはあっていたのだが、真友の両親の話し合いが大詰めに入り、遊びに行くどころではなかったのだ。
「うん、しょうがないよ」
『うん』
「で、結局どうなったの?」
『うん、ママに付いていくことになったよ』
「そうなの」
『やっぱりさ、離婚するのは嫌だけど、すっきりしたよ。もう夜中にパパとママの喧嘩話を聞くことがないと思うとさ』
「・・・こういう時なんていえばいいのかな」
『・・・ごめんね、変なこと言っちゃって、悪かったよ』
「うん、いいの、気にしないで」
『なんか元気ないね、今日のタマモちゃん』
「そうかな・・・」
『うん、いつもはもっと明るい声してるもん・・・そうだ、これから遊びにいこう、今から迎えに行くよ、いつもの公園で待ってってよ』
「え?」
『いや、かな』
「う、ううんそんなことないよ」
『じゃ、えっと30分後でいいかな。待っててね』
「あ、うん、わかった」
『じゃ、絶対待っててよ、バイバーイ』
「ばいばーい」
 
ぷつっ 

「どこか出かけるの?」
「うん、ちょと遊びに行ってくるから」
「あんまり遅くなんないうちに帰ってきなさいよ、一応心配なんだからね」
令子は意外と優しい笑みを浮かべている。
 どこかで彼女やシロの事を妹のように考えている節があるのかも知れない。
 金の亡者と思われがちな彼女だが意外とそういう面が強い。
 表に出すようなことはそれこそ滅多にないが。
「ねぇ、一つ聞いていいかな」
「なによ?」
「自分って、なんだろう」
「はぁ何言ってるのよタマモ」
「真面目に答えて」
「・・・自分よ。ありのままの自分、素直な自分、今を考えてる自分、これからの自分、昔の自分、全部ひっくるめた上で自分なんじゃないの。必ずしも自分がずっと同じってことはないと思うし、変わっていって当たり前でしょ。妖孤のあなただってそんなに変わりなないはずよ」
「ふぅん」
「何よ、その煮え切らない顔は」
「わかんないもの、そんなの」
「本気で人を好きになったら、少しはわかるわよ」
「美神さんはいるの、好きな人」
「え、・・・いないわよ、そんなの!」
急に振られて、一拍考え込んだ後顔を真っ赤にして否定する令子。
「あはははは」
「何よ?」
「人間っておもしろいわ、やっぱり」
「馬鹿にしてるの?」
「ううん、ちょっとだけ見直した」
「へんなとこ見直さないでよ」
「やっぱりいるのね、好きな人が」
「いないって」
「・・・まさかとは思うけど・・・」
「何で私が横島君なんか!」
「誰も横島なんて言ってないわよ」
「え?」
「悪くないと思うけどな、スケベで馬鹿だけどけっこう尽くすタイプだし、あれ」
「冗談じゃないわよなんで私があんな馬鹿と!」
「あはははは」
「いつまでも笑ってないで、さっさと用意していってきなさい!」
顔を真っ赤にして否定する令子を尻目に部屋を飛び出していくタマモ。
「お財布持って、バックを持ってっと、たまにはパンツ履いていくのもいいかなっと」
鏡の前に立ちながら、服を選ぶ。
「自分・・・私はタマモ、なんも考えることなんてないじゃない、私は私よ」
服を着替えて、その場でぼんっと子供形態に変身する。
「さぁってと」
階段を駆け下り、
「いってきまぁっす」
 先ほどより半オクターブ高い声をあげて事務所を飛び出していく。
 その後姿は、何の迷いも無く、まるで美しい金色の毛皮をなびかせ澄み切った冬空の下をかける子狐、そのものだった。

Fin



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