ザ・グレート・展開予測ショー

月ニ吼エル(2)


投稿者名:四季
投稿日時:(01/ 1/13)


 三日後、最初に異変に接したのは寝室を共にするタマモだった。

 シロが寝坊したのである。

 しかも二日連続で。

「アンタ、何か変なモノでも拾い食いしたんじゃないの?」

 心底心配そうな表情でタマモが言った。

 掌を自分とシロの額に当てて熱を測る仕草をしているが、よくよく考えると失礼な話である。

「失礼なこと言うなでござるっ!!」

 シロも噛み付かんばかりの勢いで抗議したが、タマモの目に赤く上気したシロの顔は熱でも出しているように見えた。

「だって、アンタが朝の散歩二日連続で寝過ごすなんて、今まで無かったじゃない」

 前日は、タマモも単に「ああ今日は静かでいいわ」位の感慨しか持っていなかったのだが、二日連続となると話は別である。

 たったそれだけの事で奇異の視線を受ける程、シロの散歩好きは周囲の意識に浸透していた。

 まあ、事実偶に風邪を引いても翌日にはケロッとしているのが普段のシロなのだ。散歩好きもここに極まれりといった感がある。

「そんな、人を化け物みたいに云うものでは無いでござるよ」

「化け物も何も人狼じゃん」

 口を尖らせたシロにタマモは軽口を返した。

 自分と軽口の応酬ができるなら気にする程でもないか。そんな苦笑にも似た表情が伺える。

 一方のシロは腕組みして難しい顔だ。

「うぬぬ、確かにそうではあるが、同時に拙者年頃の乙女でござるからして・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

 タマモ、絶句。

「・・・な、なんなんでござるっ、その沈黙はっ」

「・・・・・・ぷっ」

「わ、笑うなああああああっっ!!」

 シロ、絶叫。

 霊波刀を振り回してタマモを追い掛け回すが、タマモはヒラリヒラリとそれをかわしながら腹を抱えて笑い続けた。

「あ、アンタ何色気づいてるのよ、あは、あははっ、発情期には早過ぎるんじゃないの〜っ?」

 シロを指差し、床を転がり回らんばかりの爆笑っぷりである。目には涙まで浮かんでいた。

「お、おのれー、そ、そこまで笑うことは無いでござろうっ」

 シロも熱の所為だか羞恥の所為だか解からない程顔を真っ赤にしている。頭から湯気が立ち上っていた。

「うくくっ、そんな事言われてもねー、アンタもうちょっと自分のキャラ考えないと、恥かくわよ?」

 ガキなんだから。そう付け加えて、タマモは階段をパタパタと駆け下りていった。

 図らずも朝の食卓に絶好の話題を供した形になったシロは、「自分だってガキでござらんか」と不機嫌そうに唸りながら後に続く。


 事が出来なかった。


 二、三歩ふらついたかと思うと床にパタッと倒れる。

 調子が悪いのに気分を昂ぶらせたからだろうか、目がぐるぐると渦を巻いていた。

 階下から微かに聞こえてくる爆笑の声にどう抗議しようかとぼんやりする意識の中で考えながら、シロの意識は深い闇に沈んでいった。


 まだ、誰も気付いていない。


 けれど、それは終わりの始まりだったのだ。


 天窓から差し込む弱い旭日が、ピクリとも動かないシロの体をぼんやりと浮き上がらせていた。

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