ザ・グレート・展開予測ショー

GS横島!/元始女性は太陽であったか?(2)


投稿者名:AJ−MAX
投稿日時:(01/ 1/13)

「ここ、か……?」

「そうみたいでござるな……」

 二人はそれ以上何も言うことが出来ず、ただ山門の前に立ち尽くした。

 その向こうには玉砂利の敷かれた境内が広がっており、本堂らしい建物の姿も見えた。

 山奥の古寺。

 それが二人の新しい職場、「D−G−S」の外見的特徴であった。

 D−G−Sとは「伊達ゴーストスイーピングオフィス」の略称である。

 すなわち、伊達雪之丞があらたに立ち上げた除霊事務所のことだ。横島たちは知らないことだが、かつては白竜GSという名のGS事務所があった場所である。

 山号や寺号があるはずの門柱には「D−G−S」と筆で黒々と書かれた看板がかかっていた。

「間違いないな。……ふう、やっと着いた……!」

 横島は夕闇の中看板の文字を確認し、ようやく一息ついた。気が抜けたせいか、荷物が重さを増したような気さえする。

 東京を出てからJRで五時間、バスで三時間、徒歩で二時間、そして最後に百五十段の石段。乗り継ぎや時間待ちの時間も加えると大体丸半日ほどもかかっているのだ。疲れないほうがおかしい。

「さて、中に入るか」

 あともう一息だと自分の体に活を入れ、横島は門をくぐった。

「拙者もおなかが空いたでござる。なにか食べるものは出るんでござろうか……」

 自分の足でならどれだけ歩いても疲れを見せないシロも、さすがに一日中電車やバスに閉じ込められるのはこたえたようだ。

「さあな。もしかしたら山菜ばっかりかもしれんぞ」

「えー、拙者は動物性たんぱくがいいでござるよー」

 他愛ない話をしながら、二人は本堂らしき建物へ向かった。

 近づくにつれて細部がわかってきたが、それは横島が想像していた以上に汚かった。

 柱や舞良戸のあたりには白いカビがびっしりと生え、沓巻や釘隠しには緑青が浮いている。

「うわ……こりゃひどいでござるな。あの擬宝珠なんか欠けてしまっているでござるよ」

「……ぎぼし?」

「欄干の先についてるねぎぼうずみたいな形の……コレでござる」

 シロが本堂の縁側についた欄干に近寄り、そのさきっぽを叩いた。確かにネギの頭のような金属がついており、それが大部分欠けていた。

「なるほど。しかしボロい寺だな……。雪之丞はマジでここに住んでるのか?」

「……悪かったな、ボロ寺で」

 横島が呟いた途端、舞良戸が開いて雪之丞が顔を出した。

 人相の悪さは相変わらずだが、伸びるに任せた不精髭がそれをさらに助長していた。ワイシャツはよれ、愛用の黒いスラックスにもアイロンをかけている様子はない。

「何だ、ずいぶんな格好じゃないか。忙しいのか?」

「いや、不精なだけだ。まあ上がってくれ、何もないが山菜だけはたっぷりあるからメシでも出そう……あれ? そっちのはお前の女か?」

「拙者は横島先生の弟子で、犬塚シロと申します。以後見知りおいてくだされ」

 ”そっちの”呼ばわりされたシロだが特に気にした様子もなく、礼儀正しく深々と雪之丞に頭を下げた。

「ああ、俺は伊達雪之丞。よろしくな……っと、挨拶はこれくらいにして入ってくれ。外は寒いからな」

「おう、じゃあ遠慮なく」

「失礼するでござる」

 二人は上がりかまちで靴を脱いで中に入った。

 室内は十二畳くらいの畳敷きの広間になっていた。元は本堂だったのだろう。

 本来仏像があるべきところにスチール机が置かれており、他にも本棚などが運び込まれ、かなり妙ではあったが一応オフィスとしての体裁は整えられているようだった。

「こっちだ。ここは事務所でな、住んでいるのは奥の庫裏なんだ。あ、靴は持ったまま来てくれよ」

 雪之丞は室内を見回していた二人に声をかけ、先立って歩いていった。横島たちは本堂の電灯を消灯してから後を追った。

 裸電球の赤い光で照らされた廊下は肌が切れそうに寒く、足の裏にも古くなった板張りの冷たい感触が伝わってきた。

 しばらく行くと、突き当たりに本堂にあったような舞良戸があった。

「この向こうが庫裏になってるんだ。向こうはストーブを焚いてるはずだから、もうちょっと我慢してくれ」

 雪之丞はそう言って戸を開けた。外は石畳になっていて、別棟へと続いている。

 三人はまた靴を履き、寒い外を小走りに駆けて庫裏へ辿り着いた。引き戸を開けて中に入る。

「おおっ、ここはあったけー!」

「ホント、別世界のようでござるなー。それに何だかおいしそうな匂いがするでござる」

 庫裏の中は普通の民家のようだった。玄関には何足か靴が脱ぎ散らされており、いやがうえにも生活感を感じさせる。

「さ、入ってくれ。おーい、横島が来たぞー」

 雪之丞は靴を脱ぎながら奥に向かって怒鳴った。

「はーい」

 返ってきた返事は女性のものであった。

「あの声は……弓ちゃん?」

 弓かおり。おキヌの同級生であり、去年六道女学院に入学したばかりのシロにとっては先輩に当たる。弓式除霊術の継承者でもある少女だ。

 その霊力は今すぐにもプロのGSとして通用するほどであり、一部ではその知性溢れる端正な容姿も手伝い「新世紀の美神令子」とも呼ばれているらしい。

「うん、確かに弓先輩の声でござるな」

「なんだよ、お前ら同棲してたのか!?」

「いや、正確には少し違うんだが……。まあその話も後でするから、とりあえず上がってくれ」

 横島は冷やかして言ったのだが、雪之丞の反応は思った以上に冷静だった。

 格闘バカで女に免疫のない雪之丞なら、もう少しあたふたするとかなんとかしても良さそうなものだと思ったのだが。

「……訳ありか?」

「まあな」

 雪之丞は短く答えると、それ以上は何も言わずに奥の部屋に入っていった。

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