ザ・グレート・展開予測ショー

バースデイ(10)


投稿者名:ツナさん
投稿日時:(00/12/23)

 螢はまどろみの中で、その意識を取り戻したと感じた。
 あたりは深く暗い闇に包まれている。
 まるで内臓を根こそぎ持っていかれるような感覚が全身を駆け巡る。
「ここはどこ?」
あまりにも使い古された陳腐な台詞に苦笑する螢。
 ふと、自分の姿を見る。
 それは生まれたときと同じあられもない姿であった。
 が、不思議と羞恥心は沸いてこない。まるで現実とは違う世界に途惑う心の方が勝っているからだろう。どちらかといえば夢に近い世界。
「ルーは・・・??」
体に駆け巡る嫌な感覚に耐えながら、それでもルーの事を探す。
「いないの・・・かな」
孤独感・・・。温かみのない世界。
 まるで全てを忘れさせようとするような、気配。
 考えがまとまらない。自分はどうすれば良いのかが分からない。
「怖いよ・・・パパ・・・」
涙すら流れない。言葉だけが、そこに霧散していく。
「死にたく・・・ないよ・・・まだ・・生きていたいの・・・」
生有る者の根幹たるその思いだけが螢の魂を支えていた。

 ヒノメは研究施設を見て、とりあえず感嘆の声を漏らした。
「これは・・・どこぞの国家研究所並の研究機材が揃ってるわね・・・」
背後から人の落ちてくる気配が二つ続けてした。
「螢さんは・・・?」
桐斗は研究資材には全く目もくれず、ひたすらに螢の姿を探しだす。
「ほほう、こりゃすごいわ。黙っていくつかぱくっていくかな」
「それどころじゃないでしょう?螢はどこにいるの?」
「分からんよ。とにかく探すしかないだろう?」
答えながら奥へと歩いていく鬼郎。歩きながら目ぼしいものに目をつけ、使えそうなものを片っ端からデスクの上に置いてあったアタッシュケースに詰め込んでいく。
「後にしなさいよ!!」
「いいんだよ。あんたも感じるだろ、この異常な霊気の流れを」
「異常な霊気??」
「何だ分からないのか?この先に人外のものの霊気が高ぶってるのを」
真剣な顔にヒノメがその言葉の意味を理解する。
「でも、こんな雑霊が多い所じゃ・・・」
「感じるんじゃなくて、読むんだよ、霊気の流れを。意識して」
「読む?」
「そうだ。ひとつひとつ・・・。どうだ?少しは分かったか?」
ヒノメは無意識の内に目を閉じて、霊気の流れを感じ、探る。
 するとわずかに頭の中に霊気の流れのような物が見えたような気がした。
 そしてその流れは一つの場所から流れてきているのが分かったような気がした。
あくまで気がするだけだが、確かにそこに何かがあるのは分かる。
「よくは分からない・・・でも何か強い霊気が蠢いてるわ」
「それが分かればまず及第点だな」
真剣みの中にわずかに笑みをこぼす鬼郎。
「・・・ペーパースイーパーにそんなこと言われたくないわ」
いいながらもその目は鬼郎のことを少し見直している。
「ヒノメさーん、鬼郎さーん」
その時研究施設の最奥の方から桐斗の呼び声が聞こえた。
「何か有ったらしいな」
鬼郎はそそくさと辺りにあるものアタッシュケースに詰められるだけつめるとヒノメを促す。
「螢がいたのかしら?」
「どうも違うみたいだぜ」
桐斗を見るとなにかを見つけたようだが、なぜかそわそわしている。
「何が有ったの?」
「ヒノメさん、これを見てください」
桐斗は一枚の写真をヒノメに手渡す。
「あれ、これは・・・」
「何だ、幼児の写真じゃねぇか、誕生日か?随分にぎやかだな・・・」
「何でこんな写真がここにあるのかしら」
「だれの写真だ・・・あれ、これってあんたじゃないのか?」
「そうよ。思い出したわ、これって螢の二歳のときの誕生日・・・」
「二歳?何でそんな写真がこんな所にあるんだ・・・おい、ヒノメさん?」
「ゾルベ・・・、あの時そう名乗った悪魔がいる・・・」
「・・・聞いたことがある。PCネットワーク上に存在する寄生プログラムらしいが」
「・・・そう、アイツはいったわ。螢が15のとき、その魂を貰い受けると」
「・・・地下研究施設には巨大なスーパーコンピューターがあると聞いたことがある。そのコンピュータに特殊な魂が住み着いてるかもしれないと言っていた。もっともその話をしたやつは2日後に心臓発作で死んじまったが・・・もしかしたら・・・」
「でもここにスーパーコンピュータなんて存在しないじゃないですか、鬼郎さん」
「・・・この奥・・・」
桐斗の声を遮るようにヒノメが呟く。
「・・・見てみろ桐斗君。この壁、なんか変だろ」
鬼郎が床を指し示す。
「え?」
「境目の所だ。床と繋がっていない。たぶんシャッターのように上からしまったんだろうな。それに確かにこの奥から霊気を感じるだろう?」
「・・・なんとなく」
半信半疑の桐斗。
「君はまだ修行が足りないな」
「すいません」
「まあ、まだ若いからそれほど気にすることはない。だが霊波を読む修行はしておいて損はないぞ。ま、犬族のように上手くはいかないだろうが」
「そういえばシロさんがそういうの上手だったな」
「シロさん?」
「狼族の方ですよ。螢さんの家の近所に住んでらっしゃいます」
「ほう、狼族なんてとうの昔に滅んだと思ってたけど、まさか人間と共生してるとは」
「機械があったら紹介しますよ」
「ああ、俺もあって見たい」
「そんなことよりこの壁、どうするの??」
雑談をする二人を睨みつけるヒノメ。
「おっとそうだった、さてどうしようか・・・・・・ま、俺に任せなさいって」
安請け合いをする鬼郎。おもむろに上着を脱ぐと、ぱぁん、と拳を打ち合わせる。
「ちょっと、あんたまさか」
「素手でこの壁を破壊しようって言うんじゃ」
「まさか」
言いながら壁に掌を当てて、真ん中辺をなでまわす。
「・・・ここだな亀裂が入ってるのは」
「そんなの見えないじゃない!」
「コンクリートの中に流れる気の流れを読むんだよ」
答えながらおもむろにポケットの中から虎柄の手袋を取り出し、右手にはめる。
「ただの手袋じゃないみたいね」
「我が家に伝わる特殊な技法を用いて精製をした霊糸で編んだ手袋だ。昔々はこれで着物を作ったらしいが・・・。それはともかくこの霊糸には霊力を吸収し、収束させ、人の意思に反応して爆発的な力を生み出すという、いわば神界や魔界の兵器のような特性がある。
唯一違うのは吸収するのが自らの霊気ではなく、自然界に漂う雑多な霊気を吸収すること。中国拳法で言う所の内功(体内の気を使う)と外功(自然界の気の力を借りる)の違いのような物だ」
「他力本願な力なのね」
「それは違うぞ。自然界の霊気は膨大なものだからな。力を抑制する為には自分の霊気を使わなくてはならない。もっとも俺はコツさえ掴めばだれでもできるって物じゃなく、我々新條のしいては鬼の末裔にしかできないことなのだが」
「それって自慢?」
「客観的事実だよ」
「そうは思えないけど」
「令子おばさんが聞いたら泣いて喜びそうですね。ただで除霊の仕事ができると」
「そうね、義兄さんもけっこうお金のかからない人だけどね」
「GSってそんなに金がかかる仕事なのか?」
「まぁ昔ほどじゃないけど、だいたい普通の人で年間5億ぐらい使うんじゃないの」
「げ、五億。牛丼何杯食えるだろうか」
「ははは、そうですね。でも家の母さんはネクロマンシーですからただですけど」
「そうか、おキヌさんもお金がかからないだったわね。道理でネェさん、馬鹿みたいに儲けてたと思ったわ」
「儲けてたって・・・?」
「たしか年間50億ぐらいかな、ねぇ桐斗君」
「そうですねぇ、そのぐらいかと思いますよ。あこぎな商売もしてたらしいですし昔は脱税で捕まりそうになったこともあるみたいですからね」
「俺もやってみようかな、GS」
「あんたはまず誰かの弟子にならなくっちゃね。師匠からお墨付きもらわないと一人立ちできないシステムになってるから」
「・・・師匠なんていねぇしな・・・ってそんなこといってる場合じゃないだろう?早速この壁をぶちこわすから、下がってな」
「あ、頑張って」
「おう・・・ふぅぅ」
鬼郎は拳を目の前に構えると呼吸を整える。
「天と地と水、たゆたう魂、森羅万象の力よ、我らが血の盟約に応ぜよ」
言霊を唱え始めるとわずかに手袋が輝き始めた気がした。
「空なる意思よ我願いに答えよ、我に汝が力を貸し与えたもう」
一層輝きの増す拳。
「ぶっ壊れろ!!」
気合とともに拳をたたきつける鬼郎。
拳とと壁がぶつかり合うと、一気に壁に拳がめり込みそこから壁が鉄筋ごと崩れ落ちた。
かなり理不尽な力である。
「いっちょ上がりだ」
ふりかえり、笑顔を浮かべる鬼郎。
「うーん確かにすごいけど、なんか変な格闘漫画みたいね」
鋭い突っ込みに顔を赤らめる。
「俺だってこんな言霊となえるの少し恥ずかしいんだぞ」
「・・・螢さん!!」
桐とは壁の向こうを見て、叫んだ。
「ほう、団体さんのお出ましか・・」
ディスプレイのひとつが、ゆがんだ。
目の前には、横たわる螢の姿があった。その手にはしっかりとルーが握られている。
「・・・ゾルベね」
ヒノメはぎっとディスプレイを睨んだ。
「そうだ。・・・おまえは確か美神ヒノメ・・・、確かあの場に居たな」
「いたわよ」
「ふん。今更思い出したところでもう遅いぞ。横島螢の、ルシオラの魂は掴んだ!」
「何のことか分からないけどさっさと螢を元も戻しなさい」
「ならば我を祓って見せよ!出来そこないの魂ども!!!!」

バースデイ(11)に続く。

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