ザ・グレート・展開予測ショー

コロニーの落ちる日(3)


投稿者名:NEWTYPE[改]
投稿日時:(00/12/21)

アーギャマの兵員用食堂のカウンターで、メドーサがストレッチャーに食事をのせていた。
「ガン・ルームの分だよ。艦長用さ。」
当番兵もコロニー落としの作戦準備でいない。食事をするメドーサが美智恵の分も運ぶ仕事をまかされていた。
そして、自分の分をカウンターから取り並べながら食堂の中を見回した。
中央あたりのジークとおキヌの座るテーブルに横島がつくところだった。
横島はジークの前にトレイを置いて座った。
「あれ?横島さん顔、赤いですよ?何かあったんですか?」
赤面して俯いたままの横島にジークが声をかけた。
「べ、別になんでもねえよ・・・・」
そう言いながらも横島の目は辺りをキョロキョロしているばかりでちっとも落ち着きがない。
「・・・・変な横島さんだな。・・・・・・え?」
ジークが振り返ると、今度はおキヌが横島と同じように頬染めていた。
「な、何なんですか二人とも!?僕にも教えてくださいよ!!」
ジークはなんだか取り残されたような気がして必死で横島の服を揺すった。
「う、うるせえなっ!お前はガキだから知らなくていいんだよ!」
「僕と横島さんは一つか二つしか歳違いませんよ?」
「この歳での一つはでかいんだよ!お前もあと一年経てば分かる・・・・・と思う。」
「本当ですか〜!」
ジークが疑い深そうに横島を見上げる。
「本当だ!いいか、とりあえず今は俺の話を聞け!」
「はあ・・・・・・(強引だなー)」
「あのな、お前はベスパに近づかない方がいい。」
「え?横島さんがよくって、なんで僕はいけないんです?」
「ジークは若すぎるんだよな。」
そん言葉にジークの表情が変わった。
「あの娘は純粋に降伏するつもりだったのに、横島さんたちがスパイ扱いしてるんじゃないですか!」
「ジーク、横島さんは忠告をしてくれてるのよ?」
おキヌも横島の言うことが分からないではない。言葉を添えてくれた。
「でも、横島さんは僕の上官でもないし・・・・・」
「そんな言い方、ピートさんが聞いたらどう思うだろうな?」
「関係ないじゃないですか!」
ジークはトレイを持って立ち上がった。
横島は、そのジークを見送りながらパンを千切って口に入れた。
おキヌは最後のスクランブル・エッグを食べて顔を上げ、
「横島さんってベスパさんのことになるとムキになるんですって?」
横島にとって青天の霹靂ともいえる言葉が降ってきた。
「え・・・・・?」
横島はソーセージを口にいれきったところだった。
「一人でベスパさんの部屋に入ったって本当ですか?」
ジークの差し金だ。おキヌの普通でない笑いに脂汗が流れる横島。
「(あ・・・あんの野郎!)いや・・・・・・あの・・・・・・」
横島は言葉に詰まった。別に悪いことをしたわけでもないのだが。
「横島さんは情報局のスタッフですか?違いますよね?投降者の尋問なんかやるの変ですよ。」
「や、やっぱりそうかな・・・・・?」
「そうです!」
畳み掛けるようにおキヌ。
「うぐ・・・・・・」
「それから、部屋に入ってドアまで締めるのはおかしくないですか?」
「(ジークゥゥゥッ!!(怒))ご、ごもっともであります・・・・・」
「もしかしてベスパさんとなにかあったんじゃないですか?」
「それはないってば!」
「だって横島さんの性格だと・・・・・」
「あのねえ・・・・・(汗)」
そんな二人のやり取りを見て、メドーサはひとり苦笑しながらカウンターの前を離れた。
「とにかく!横島さんにはもっとパイロットとしての自覚を持ってもらわないと困ります。ジークに対しての姿勢もそうですよ。曖昧です。」
「・・・・・分かった。」
「あ・・・・それから前に隠してたこと、後でいいですから教えてくださいね?」
「へ?(んなことあったかな・・・?)」
何のことか思い出せず小首をかしげる横島。
「ほら、私が風邪ひいた時、地球のこと聞いたら横島さん何か思いつめてたじゃないですか?」
「(げっ・・・)だ、だからさ、あれはシロのことを・・・・・」
「いーえ!騙そうったってそうはいきませんよ。お姉さんは全部お見通しなんですから!」
「・・・・・おキヌちゃん、キャラ変わってるって(汗)」
「え?あ・・・ご、ごめんなさい!じゃあ、また後で!」
おキヌは、顔を赤くしながらそそくさと行ってしまった。
そのおキヌを見送りながら、横島はコーヒーを口に運んだ。
「・・・・・ルシオラの話なんかできねえよな・・・・・」
その横島の思いは重かった。


「フフ・・・・・はたで見てるとおかしくてね、あいつら。」
「誰が?」
「横島とおキヌだよ・・・・・まるで子供だ。」
メドーサが唐突に思い出し笑いをしたので、美智恵は口を拭うナプキンの手を止めた。
仕官用の食堂である。ほかにも五人ほどの仕官が相伴していた。
「・・・・・おキヌちゃんには笑ってばかりもいられないものね。これからはもっと厳しく実戦トレーニングを積んでいってもらわないと。小竜姫中尉をラーデッシュに回してしまったことだし・・・・・」
「キャプテンは心配性だからね?」
苦笑する美智恵に合わせて、メドーサも笑ってみせたが、ふっと寂しげな表情を見せて、
「・・・・・・・でもうらやましい気もするよ。」
「おキヌちゃんのこと?」
「そう・・・・・作戦を前にしてあんな風にしていられるなんて今の私にはできないよ。とても貴重なことだと思うわ。」
「・・・・・?地球にいる西条大尉のことでも思い出したの?」
「まさか・・・・・。私はジャスティス・・・・いや、西条とは別に・・・」
「・・・彼は忙しすぎるけど、冷たい男じゃないわ。」
「分かってるよ・・・・・でも、あいつには地球に大切な人がいるだろ?」
「・・・・え!?」
美智恵は、一瞬、新しい恋人がいるのかと思った。その美智恵の驚く顔を見て、メドーサはいたずらっぽく笑いかけた。
「・・・・たった一人の妹、地球にいるんだろ?」
「あ、ああ・・・・・愛子ちゃんのこと・・・・・・?」
美智恵は、もと木馬のクルーの顔を思い浮かべて複雑な心境になった。
愛子は西条の実妹でありながら敵味方に別れて兄である西条と戦っていたのである。
「そろそろ作戦の準備にかかる時間だね。敵が見える前に整えておかないと・・・」
「頼むわ・・・・」
食堂の仕官たちの動きもそれに合わせて忙しくなってきた。
ラーデッシュとアーギャマの航行する前方の空域には、流れるコロニーがあった。
サイド4で廃棄されていたコロニーを、カオス教のアレキサンドリャーのMS隊が月に向かって移動させたのである。
もともと人が社会を構成するために作られた容器である。巨大であった。
それが今、真っ直ぐ月に向かって流れているのだった。
コロニーの一方からは、核パルスの噴射の光がチラチラと見えて、軌道修正をしているというのが分かった。
その脇に随伴するアレキサンドリャーはゴミのようにしか見えない。
「コロニーが月の引力圏に入るまであと三時間です。今のところ敵の動きは見えません。」
その報告に、厄珍は黙って頷いた。
正面の窓越しに見えるコロニーは、壁にしか見えないが、明らかに降下しているのが分かった。
「・・・・核も使わず、大型のレーザーも使わず、有り物のエンジンでムーンサイドが落とせるというのは安いものですな。」
「これでICPOの拠点は潰れるね。他のサイドにいるICPOの軍などは、正規軍の固まりある。鎮圧するのは簡単あるね。アシュタロスは力を信じすぎる男あるからな・・・こんな作戦があるなんて想像してないに決まってるね。」
厄珍は自分の発案が確実に進行している快感に酔っていた。
コロニー周辺には、数機のMSが移動する航跡が目撃できた。
そのMS隊は、ふたつの部隊に分けられていた。
ひとつは核パルス・エンジンの取り付けと、作動を受け持つ部隊で、もう一隊はアレキサンドリャー直掩部隊であった。
各エンジンを受け持つ部隊は、旧式のザックが主体の部隊で、宇宙戦闘は考慮されていないに等しかった。
工兵部隊といってもいい。
一方、直掩部隊は通常の部隊であったが今回の作戦ではエンジン部隊の手伝いという任務だ。
「工兵の手伝いですって!」
勘九郎大尉である。
こんな作戦ではMS隊など出る幕もないというのが不満なのだ。
「ICPOが、この作戦に気がついてくれると思ってるの!そんなに気が利いてる連中だったら、とっくの昔にカオス教を叩いてくれてるわ!それができないから厄珍みたいなバカの作戦が上手くいっちゃうのよ!」
勘九郎は可変MSギャップランをいたずらに飛行させて、時にはコロニーの中にも突入した。
コロニーは闇である。かつては市街地であった部分も今は真空に晒されて凍りついて見えた。
ギャップランのヘッドライトは、その冷たい光景を浮き上がらせていた。
コロニーの空間に浮かぶ物体がバラバラとギャップランの装甲に当たるが、それは粉のようになって闇の中に消失していった。
「・・・・・?」
別に機体に影響があるような物ではなかったが、その数は多い。
勘九郎は、さすがにその物の多さにギャップランを静止させてモニターを拡大して浮いているものを見た。
「・・・・・!?」
人のミイラであった。
勘九郎は、このコロニーが廃棄された理由が分かった。
「妙だと思ったわ・・・・・都合よく廃棄されたコロニーがあるなんて信じられなかったけど、ガスでやられた奴ね・・・・・・」
ジャオン軍が一年戦争を勃発させた時、ガス攻撃を行い、その幾つかを地球に落とす作戦が実施された。
そのターゲットとなったコロニーのひとつなのであろう。
いわばこのコロニーは墓場なのである。
「・・・・・あこぎなことを・・・・・・」
勘九郎は浮遊するミイラが余りに多いので思わずそう呟いたにすぎない。
その目はギョロリと見開かれて、流れるミイラがぶつかり合って腕が崩れてるのを見て、クククッと喉を鳴らしたのである。
こんな光景が面白いのだろう。
「・・・たいしたものね・・・・・これを月に落としてしまったら勿体無い気もするけど・・・・・」
勘九郎はギャップランの出力を上げてコロニーのガラスの割れている部分を捜すために移動した。
幾つかの人工の山と河の跡が闇の中で流れた。
そして、星が見える壁を見つけると、勘九郎はギャップランを脱出させた。
月が巨大な光の壁となってモニターに入ってきた。
勘九郎はコロニーの壁に沿って移動した。ギャップランをMS型に変形させて、自分の部隊が終結しているコロニーのミラーのつけ根に着床した。

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