ザ・グレート・展開予測ショー

コロニーの落ちる日(2)


投稿者名:NEWTYPE[改]
投稿日時:(00/12/20)

横島は医務室のドアを開いた。
安西と美智恵が話し込んでいた。
「いいっスか?」
「横島君は・・・どう思う?」
美智恵の言葉に横島は、ベスパは信じられないと言った。
「強化人間スか?そういったタイプと地球で交戦したけど・・・・・ベスパがそうかは分からないです。」
「レントゲン所見では、あの体には何の手も加えられていない。」
汚れた白衣を着た安西が言った。
「・・・・・ブルーノアで進水したドボルザークという戦艦の配備状況は分かっているの。その部隊とアレキサンドリャーは今は別行動をとっているのも分かっているわ。」
美智恵はポケット・コンピューターを見て横島に示した。横島は、そのデータがかなり敵状を詰め込んでいるのを知って唖然とした。
「若すぎるんだ。ニュータイプと思った方がいい。」
安西は言った。
「横島君と同じくらいの年齢よ。自習室で尋問してみなさい。」
「はい・・・・・!」
横島は医務室を出ると真っ直ぐにベスパを監禁した自習室に向かった。
アレキサンドリャーがコロニー落とし作戦を実施するのは本当のことだろうが、なぜベスパがわざわざアーギャマに知らせにきたかというのが問題なのである。
横島はドボルザークの新任の艦長がアシュタロスであると美智恵の情報で知った。
木星帰りの男というのは、いつも特別の人々という見方をしているのがこの時代である。
原因はそんなところにしかないと思えた。
自習室の前ではジークがまだウロウロしていた。
「何してんだ?」
「みんな冷たいんですよ。ベスパ軍曹は投降してICPOに入ってもいいって言っているのに捕虜扱いです。抗議していたんです。」
横島は見張りの兵からキイを貰うと、
「当たり前だろ。味方にするには時間がかかるもんだ。お前だって好きになった子にいきなりと飛び掛らんだろ?俺みたいな男前なら別だが。いいか?物事には順序がある。それだけ時間もかかる。分かったな?それが嫌なら早く俺みたいな漢になれ!(・・・決まった!)」
「あの・・・主旨が変わってるような・・・・・」
「・・・・うるせえな。もういい!デッキにでも行ってろ!」
横島はジークの頭を小突いてドアを開いた。
中のベッドに座っていたベスパがビクッと体を立てた。
「脅すつもりなんてないからさ。もう少し聞きたいことがあんだ。」
横島は言いながらもジークが覗こうとしたのでドアを閉じた。
「お前、誰に頼まれてアーギャマにやってきたんだ?」
横島は敵がニュータイプのようなタイプならば、こちらの気分を察知するだろうと思ったから単刀直入に聞いた。
「・・・・・・・」
「答えなくないか・・・・・じゃあ簡単なの聞くぞ。・・・・・血液型は?」
「・・・・・・・Oだ。」
「家族は?」
「・・・・・・・私は戦災孤児だ。分からないね。」
「スリーサイズは?」
「・・・・・・・上から88・・・・・・・・えっ!?」
「ほうほう・・・・ガキの割にはでかいと思ってたんだよな。なるほど・・・」
「き、貴様ァァッ!!」
バコーン!!
ベスパの鉄拳が横島の頬をクリーンヒットした。
「・・・・・か、軽いジョークなのに、あだだだ・・・!!」
「ふん、自業自得だよ。・・・・・・それにしても、さっきの話だけど、アンタは私の話を信じてくれたんじゃなかったのか?」
横島は頬に手を当てながらイスに座り直すと、
「コロニー落とし作戦はあり得ることだから信じた。でも、それが全てじゃねえんだろ?」
「私、アンタだけは信じていいと思ってたのに・・・・・・・」
ベスパの大きく鋭い光を湛えた瞳が横島を凝視した。
真実を語る瞳に見えないでもなかった。
が、横島は言葉を続けた。
「お前がICPOに投降したいっていう話が信じらんねえんだよ。」
「・・・・・・私は厄珍のやり方が嫌いだ。もちろんカオス教も。戦争は人の憎しみを育てるだけだ。だから私はカオス教を早く潰すためにはコロニー落としのような大きな作戦をICPOに教えてカオス教の作戦を潰させて早く戦争を終結させられないかと思って!」
「そう言えばICPOは騙せると教わってきたな?」
「違う・・・・・!」
ベスパは激しく首を振った。
「アシュタロスなら教えてくれるんじゃねえか!」
横島はかぶせるように言った。
「違うっ!」
ベスパは間をおかずに答えたので横島は質問をやめた。
白状したようなものだ。
アシュタロスを知らない娘ならば、こう簡単に反応はしない。
横島は、このベスパという少女がアシュタロスにひどく近い存在であるのではないかと想像した。
「・・・・・どうしてお前みたいな若い女の子がMSを操る。ニュータイプか強化人間だと証明してるようなもんだ。」
「私はザックを盗んできたと言った。」
「それにしちゃお前の操縦は上手すぎだ。」
「・・・・・・・」
ベスパは絶句した。
横島はドアを背にして、
「お前がコロニー落としを教えてくれなければ俺達はコロニーのコースを変えることもできなかった。それには感謝してる。でもな、厄珍の作戦を密告したのには理由があるはずだ。なぜだ?」
ベスパはベッドに腰を下ろした。
「俺が答えようか。アシュタロスはカオス教でも別物だ。カオス教とうまくいくわけがねえ。だからカオス教の内部分裂を起こすためにアシュタロスは厄珍の作戦を俺達に売り、厄珍を失脚させるチャンスとする。間違ってるか?」
ベスパは、もう首も振らなかった。
迂闊な意思表示は横島に答えを与えることになるからだ。
「教えて欲しいんだ。ベスパ、お前なんでこんなことできんだ?」
やはりベスパは体を動かさなかった。
「仕方ないな・・・・・・」
横島は、もう一度ベスパのつま先から頭まで観察してドアを開いた。
まだジークがいた。
横島はキイを兵に返して、ジークの肩を掴んで押しやった。
「あのベスパってのはジークには危険だな。」
「なぜです?」
「・・・・・・何て言えばいいんだろうな。・・・・・そりゃ、彼女が味方になってくれればいいとは思ってるんだけどな・・・・・」
「小竜姫中尉だってカオス教だったんでしょ?知ってますよ。」
「でもな、実際、小竜姫様みたいな人は少ないんだよ。」
横島はジークに近づくなと言って別れた。


アーギャマとラーデッシュはサイド4を発したコロニーを追って移動を開始していた。
そのラーデッシュの解析室では、端末をいじっているクルーの脇で唐巣が唸っていた。
「住民がいない無人のコロニーといっても質量は物凄いだろう?」
「ええ、核は使ってますね。それで移動をさせて、月の引力圏内で何度かコース変更を行い、最後はここです。ここで最終的にムーンサイドに落ちるコースに乗せます。」
巨大なウインドゥでは、移動を始めたコロニーの想定コースの算出が行われていた。
「現在、アレキサンドリャーの部隊がこのコロニーの周辺を固めているのでしょう。コロニーに取り付けられた核パルス推進機の数や配置が不明なので、本当のところ、どこでコース変更をするか分かりませんがね・・・・」
「間に合うかね?」
「大丈夫でしょ?現在の本艦とアーギャマの位置はここで、コロニーとの合流地点はここです。追いついたらすぐに方向転換させないとコロニーは月の引力圏に入ってしまいます。そうなったら終わりです。問題はアレキサンドリャーがどの程度のMS隊を配備しているかです。」
「うむ、余裕がないな。」
ドアが開いて小竜姫が入ってきた。
唐巣は嬉しそうに振り向いた。
「遅くなりました。まだこちらのデッキに慣れることができなくて・・・・・」
「いや、構わないよ・・・・・・深刻なんだ。」
「実は、美智恵クンとも話し合って、やはり君が適任だろうということになってね、大変危険な作業なんだ。」
「コロニー落とし作戦ですよね?もちろんやらせていただきます。」
「いや、核パルス・エンジンが設置されたとみているんだ。そのエンジンの破壊工作は君しかいないと・・・・・・」
「月の人々の命が危険にさらされている時です。私個人の命のことなど、ご配慮いただく必要はありません。」
唐巣は建て前をさらっと言う小竜姫が好きじゃなかった。
「しかし、放射能汚染が気になる。」
「MK-Uのコックピットは安全です。」
「いや、だが、赤ちゃんが生めなくなったら・・・・・・・」
「私、結婚しませんから。」
小竜姫はチラッと唐巣を見た。
「・・・・・・・・・・」
「で、核パルス・エンジンは何基あるのですか?」
「すまない。ちょっと分からないんだ・・・・・・・」
「そう・・・・・分かったら教えて下さい。」
小竜姫は、言うや力落ちした唐巣を残して解析室を出た。
「参ったな・・・・・・」
小竜姫は仕官食堂で食事をとりながら天井を仰いだ。
唐巣の好意が分かるというのはパイロットとしては余分なことのような気がする小竜姫なのだ。
食事がとまってしまった。
「・・・・・・?」
そのテーブルには、おみくじ器が置いてあった。
軍の備品ではないが誰かが買って置いておくのである。小竜姫はつい手が出ておみくじ器を回した。派手な行進曲が鳴り丸い紙が飛び出した。
小竜姫はイスに寄り掛かってその紙を開いて絶望的になった。
「・・・・・近々縁談あり・・・・・?」
小竜姫は両手で紙をクチャクチャに丸めたものだった。

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