ザ・グレート・展開予測ショー

コロニーの落ちる日(1)


投稿者名:NEWTYPE[改]
投稿日時:(00/12/20)

アーギャマとラーデッシュが併進をしていた。
月の面が視界を覆い、宇宙に飽きた目を和ませてくれた。
慣れた目には月も大地も見える。
コロニーに住むスペースノイドにとっては月もまた大地の象徴と見てしまう。
ムーンサイドから発したドック艦ラビアンローズがアーギャマに接舷し、補修と新しいMSの搬入作業が行われ、ICPOの新造戦艦ラーデッシュがアーギャマと艦隊を組むために上がってきた。
ドボルザークほどではないがICPOでも戦力の増強が精力的に行われて、ラーデッシュタイプの戦艦数隻の建造が月の地下深くで続けられていた。
ラーデッシュには以前アーギャマの艦長だった唐巣が座り、先に宇宙に上がった西条以下のパイロットの母艦になっていた。
が、当の西条は今ここにはいない。
風邪が完治したおキヌは、ラビアンローズから新たに搬入されたMS『メノス』に慣れるための特訓に入り、横島はGZの慣熟飛行を続けた。
しかも、おキヌと同じくパイロットに転向したメドーサもメノス要員として乗り組み、さらに西条と共に宇宙に上がったジークまで戦闘訓練に参加するに及んで、アーギャマとラーデッシュはパイロット養成所の観を呈していた。
ジークはケネディの戦争博物館で過去の種々雑多なMSを扱っていたお陰で練度を急速に上げていった。
若者が少なくなった地球圏では、実戦配備の艦での訓練は当たり前のことになっていたし、新たに艦隊を組むとなれば、そのためのMS隊の編成替えやら装備の整備などでクルーもパイロットも半徹夜の作業を強要された。
二艦は補給と整備を終えると月の地球側に面する最大の都市、ムーンライト市一帯の警戒に入るための整備をしていたのである。
「こんなものですよ。木馬時代も素人の集団を任されてきました。人徳があるからこうなると思って割り切っているんです。」
美智恵はラーデッシュの艦長の唐巣に笑ってみせた。
「地球連邦政府総会は難航しているみたいだ。カオス派が例の地球連邦政府軍法の改正案を提出して、強行に可決するまでに持っていくと言っているようだ。」
唐巣は外した眼鏡を拭きながら傍らのウインドゥを見やった。
「艦長、中尉に気があるんだったら眼鏡くらい新調したらどうです?大分傷ついてますよ?」
「これかい?いいんだよ・・・・。この眼鏡には一年戦争時の仲間との思い出がたくさん詰まっているんだ。それに・・・小竜姫中尉は私の事なんか気にしてはいないよ。」
「でも少佐は気になっているんでしょ?」
美智恵はワインを置いて呼び鈴を押した。
「ご用でありますか?」
「少佐にワインをお願い。」
「・・・・・・・!」
当番兵がムッとしたのを美智恵は見逃さなかった。
「当番兵!規則に厳格なのはいいけど、今は少佐は恋に悩んでいるのよ。許してやりなさい。」
「ハッ!」
当番兵は美智恵の言っている言葉の意味が分かっていなかった。ただ怒られたと思い、上官の横暴に従うのが兵隊なのだという覚悟だけをつけて出ていった。
「美智恵クン、今のは言い過ぎだろう?」
「そう思うのでしたら少しは小竜姫中尉に好かれるようにしたら良いでしょ?」
「そんなバカなことできないよ。」
「どうしてバカなんです?」
「女性の気に合わせるなんてことしてみなさい。この歳でだ。兵に見破られたら物笑いの種になる。いや、笑い者になるだけならばいい。そんなことで私の指揮権を軽く見られて無視でもされた日には、死なないでいいところで死ぬよ。」
「じゃあ小竜姫中尉は諦めるんですか?」
「いや・・・・・あの娘は、私の理想だ・・・・・」
「入りますっ!」
当番兵がニタッと表情を崩して入ってきた。
「ワインでありますっ!」
「開けなさい」
「ハッ!」
美智恵の命令に当番兵は慣れた手つきでコルクの栓を抜いてみせた。
「ブリュタール・バンチの特上です。少佐殿の口に合うはずであります。」
「そんなのどこにあったの?」
「ラビアンローズから調達してきました。」
「見込みがあるじゃないか?」
「ハッ!少佐殿も健闘を祈ります!」
当番兵は美智恵の言った言葉の意味が分かったらしい。唐巣の眼鏡がキラリと光った。
「君・・・・・ちょっとそこへ立ちたまえ。」
「は?・・・・・はい・・・・・?」
言われた通り気をつけをする当番兵。
「君・・・・・今聞いたことは忘れなさい。・・・・・・さもないと・・・・・」
唐巣は懐から分厚い聖書を取り出し何やら呪文を唱え始めた。
「え?あ、あのそれって小竜姫中尉の・・・・・?」
「ブツブツブツ・・・・・カッ!!汝に神の鉄槌をっ!!」
ピカーゴロゴロガシャーン!!!
「ギャーースッ!!」
突然発生した雷が当番兵を襲い、彼は黒焦げになりながら通路へ吹っ飛んでいった。
「ふふ・・・・分かったかい?」
聖書を懐に仕舞った唐巣の表情はいつもの温厚なそれに戻っていた。
「あらあら・・・・・」
美智恵は苦笑をしながら立ってワインの瓶を拾い残りのワインがこぼれないようにした。


サイド4の空域といえば月に極度に近い。
そのコロニーの残骸の漂う一角に、アシュタロスのドボルザークがあった。
「・・・・・・・・・・全く・・・・・・」
ベスパを呼んだもののしばらくは口も利かずようやく言ったのが今の言葉であった。
ベスパは呼ばれた時からアシュタロスの苛立ちが分かった。だからベスパは何も言わなかった。
「・・・・・私が何を命令したいのか分かっているのだろ?」
ベスパは目をしばたいただけだった。
「遠慮はするな。私はおまえの能力を承知しているつもりだ。言って良い。」
「はい・・・・・無礼はお許しください。」
言いながらもアシュタロスに言い過ぎたと思い、ベスパは急いで言葉を継いだ。
「アシュ様の予定が崩れたと申せます。予定以外のことが起こって、私にそのための仕事をしろと命令なさるためにお呼びになりました。」
「そうだ。」
ベスパは言葉を続けられないプレッシャーを感じたが、アシュタロスに怒られるのが怖くて口に浮かんだ言葉を言った。
「・・・・・良くは分かりませんが、アレキサンドリャーがサイド4の空域に入っていることと関係があるのでしょうか?」
「すごいな。ベスパ、おまえの言う通りだ。」
「・・・・・ありがとうございます。」
「それだけか?」
「はい・・・・それ以上は分かりかねます。アシュ様。」
「フフ・・・・・凄いな!本当に凄い」
アシュタロスはベスパの前に近づくと、
「頼みたいことがある。」
と言った。


ドッグ艦、ラビアンローズと別れたラーデッシュとアーギャマはムーンライト市の周辺を警護するコースへと降下していった。
カオス教の攻撃があると考えられる最大都市ムーンライト市は、かつて人類が初めて月に着陸した地点に建設された都市である。
その二隻の戦艦の背後には、丁度『地球の出』であった。
その地球を背にして、カオス教カラーのザックが一機ジャンプしてきた。
その手には巨大な白い旗が、はためいていた。ポールからガスを噴射させて、はためかせているのだ。
アーギャマとラーデッシュのMSデッキに警報が鳴り、いつものようにアーギャマにはヒャクメの甲高い声が響いた。
「追尾する機体は一機です!総員、対空用意っ!」
慣熟飛行訓練中の横島はGZをカタパルトデッキに出すところだった。
「え!?MS隊の出動待ってください!」
ヒャクメの声だ。
「どうしたんスか?」
「追尾中のMSが白旗を持っているのを確認しました!」
横島はその声にGZのコックピット前のハッチを開いたままGZをカタパルトデッキの方に移動させていった。
「・・・・白旗!?」
モニターにはジークやメドーサのノーマルスーツが流れてゆくのが見えた。
カタパルトデッキに出るとGZのカメラを後続するザックに合わせた。
アーギャマのブリッジはザックから発する少女の声を受信していた。
「着艦許可願いたい!私はベスパ軍曹、ICPOに有益な情報を持ってやってきた。着艦許可願いたい!」
「どうしたのかしら?」
「投稿者は少なくありません。その片割れじゃないですか?カオス教のやり方に嫌気がさしている正規軍軍人は多いんですよ。」
「艦長だってそうでしょ?」
ブリッジは沸いた。
接近するザックはライフルをアーギャマの方に流して投降の意志を示した。
「よし、速度合わせ!投降者を収容しなさい!」
「後部砲塔、MSが着艦するまでは照準を合わせておいてください!」
横島はカタパルトデッキの前の入口の処に立って、侵入するザックの進入角度が深いのを気にしたが移住ブロックを掠めて降下したザックはクッションカタパルトに見事に脚を合わせて着艦した。
いつの間にか後方の地球が月の稜線に見えなくなっていた。


ヒャクメの担当しているモニターのノイズの多い画面には加具夜姫が映っていた。
「厄珍がサイド4のコロニーのひとつをムーンサイドに落とそうとしているという情報を、どうして私達に知らせるのです?失礼ですが私達をはめようとして送り込まれてきた工作員ではないのですか?」
加具夜姫は用心深くベスパを見据えた。
周囲をアーギャマのクルーに囲まれたベスパは、硬い表情を崩さないでいた。
「信用できないなら私をどのように扱ってもらっても構わないよ。覚悟の上でこうして情報を持ってきたんだからね・・・・」
美智恵が間に入った。
「加具夜姫、コロニーが落ちてくるということは、ムーンサイドの破滅を意味するのです。コロニーが動き出していることは事実です。確認しました。ムーンサイドから観測ができないのでそうおっしゃるのは分かりますが・・・・・。ですからこうしてムーンサイドの・・・いえ月全体を取り仕切るあなたに避難体制を整えて欲しいとお願いしているのです。」
「・・・・・・・・分かりました。こちらはまかせてください。・・・・二艦はコロニー落としを阻止してください。ただ・・・・・私はコロニー落としは陽動だと考えています。サイド2方面の警備を薄くさせるためのカオス教の陽動作戦だと・・・・・・。無事を祈ります。」
加具夜姫は言うと通信を切った。
「加具夜姫の言う通り陽動作戦だとも思えるんだけど、軍曹?」
「私には作戦のことなんて分からないよ。ただの下士官だからね。」
横島は、そう言い切るベスパという少女の頬が緊張しているのを見とめて、傍らの兵にあとで行くと言った。
その兵は頷くとベスパを立たせた。
自習室に監禁しておくのである。
その大人たちの行動を見て、ジークはベスパが連行されるのについていった。

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