ザ・グレート・展開予測ショー

バースデイ(8)


投稿者名:ツナさん
投稿日時:(00/12/19)

 「いたたぁ」
螢は強かに尻を床に打ち付けたが数メートル落ちたわりに特に怪我らしい怪我もなく、お尻をさすりながらゆらりと立ち上がった。
 眩しい。蛍光灯の明りがある。どうやら地下室まで落とされたようだった。
 ぼやけた目であたりを見回す。
 そこは上とは違ってかなり高度な研究施設のようだった。所狭しと研究機材が置かれ、奥のほうには無数のディスプレイが確認できる。かなり大規模なPC機器があるのだろう。
「お目覚めですかな?」
前方からしゃがれた声が聞こえてくる。先ほどの機械的な声であった。
「・・・」
螢は物言わず声のする方へ歩いていく。
「だれもいない?」
「いや、ここに居る」
呟きに対しすぐに答えが返ってくる。
「どこよ」
「ここだと言っている」
そこにはディスプレイしかない。しかしそのディスプレイのひとつに顔のような物が映し出されている。
「ふざけないでよ。姿をあらわしなさいって!!」
「ふ。確かに信じがたい事実だろうな。目の前にあるものがこの私、ゾルベ自身だと言うことは」
「・・・人工知能…」
「たしかに、人間どもはそういうな。しかし私は魂を持つ、いや持ってしまったと言うべきだろな」
自嘲気味な口調。ディスプレイの顔がわずかにゆがんだような気がした。
「改めて自己紹介しよう。我が名はゾルベ。30年前、ある魔族と人間によってプログラミングされた人工魔族だ」
「人工魔族ですって?」
「そうだ。その当時はPCUの容量が小さすぎてごく矮小な存在にすぎなったが、偶然にもネットワークの海にその存在を広げたことによって成長し、少しずつ意志をもち、そして、魂をもった。そしてこの研究所のスーパーコンピューターに進入し私として進化し続けている」
「・・・本当だとしたらその研究者、ノーベル賞ものね」
「ふん、私の生みの親は一人は自ら作りだした魔族に殺され、もう一人はおそらく監獄の中で死んだはずだ」
怒り交じりの言葉に螢は恐怖を覚える。機械にはない圧迫感がそこにある。
「おまえの求めるものは分かっている」
螢の考えを見透かしたようにゾルベが言う。
「確かルーと、名づけられたようだったな、私が作り出した使い魔は」
天井の一部が開いて、鳥かごのような物が降りてくる。
「ルー!!」
「そんなに心配か?横島螢よ。・・・たかが使い魔にそう思い入るとは思わなかったぞ」
機械的な笑いに螢は露骨に不快感を露にしている。
「こいつはよく働いてくれたよ。しっかりと自分の仕事を果たした。ここの横島螢、おまえを呼び出してくれた」
「…」
「本当にお笑い種だよ。まんまとだまされてくれたんだからな!!!」
「…」
無言の内に睨む螢。ゾルベは言葉を続ける。
「しかしこの使い魔が意思を持つとは意外なことだったよ。たった数日の命だというのにな…」
「ルーの命があと数日…」
「正確に言えばあと6時間ほどだろうな。ここで3日間ほど調教したからな。…ふん、たかが使い魔だろうが。何を気にする事がある」
「たかが機械に何がわかるのよ!!!!ルーは生きてるのよ!!!」
「生きている?分からんな。そんな不完全な事など。私は永遠だ。この人間の作り出した機械の中にいるうちはな。そして横島螢。おまえの中にある魔族ルシオラの魂があれば私はより完全な姿、より完全な魂を手にする事ができる…」
「…何のことよ」
「知らぬのか、自分の存在の意味が…。知らぬが仏とはよく言ったものだな…」
ゾルベが淡々と語りだした。その戦いと、真実の全てを…。
 螢の顔が瞬く間に青ざめていくのが分かった。

「…思い出しちゃったじゃないの…。ヨコシマのことまで全部…」
「魔族ルシオラの魂よ。我とひとつになれ…。さすれば」
「……でもね。思い出したとしても私は横島螢。ママが自分の前世の話をしてくれた意味が初めてよく分かったわ…分かってたのね。私が思い出すのを」
穏やかな笑みを浮かべる螢。さも意外そうにゾルベが言う。
「おまえは、自らが自らでないことを恐れないというのか?そんな馬鹿な。人間の心ごときがそれほど強いとは思えん・・・」
「何度も言わせないで。私は横島螢よ。例え前世が魔族だとしても、私は私」
言いながらルーの入った籠に手をかける。
「馬鹿め、それは貴様如きの力では開けられん」
「そしてルーも自分としてここにいるの…」
螢の両手がぼんやりと輝くと、籠がみしみしと壊れていく。
「…うかつ。その力ごと目覚めたか、ルシオラよ」
「私は普通の女の子として生きるのが夢なの…。でも私にはこんな力がずっとあった…」
籠を完全に破壊し、ぐったりと横たわるルーをそっと手に取る。
「ルー…」
目に涙を浮かべる螢。ゾルベはしばし傍観していたが、突如高らかに笑う。
「はぁぁぁぁはっはっはっはっはっは!!」
「何がおかしいの?」
「こうも簡単にかかるとは思わなかったぞ!!!」
その瞬間螢の体から急激に力が抜けた。
「な…」
「そいつは偽者だよ、その人形はおまえの霊力を吸い取る力がある!!本物はここだ!!」
再び天井が開いて、今度はそのままルーが落ちてくる。
「ルーーー!!!」
わずかに残った力で落ちてくるルーをキャッチする。
『…螢…ごめんねですぅ…』
「聞いて・・たの?」
『うん』
「大丈夫、ルーは何も心配しないでいいの。カオスのおじさんやパビリオちゃんに頼めば何とかなるからね…」
『でもルーは、ルーは…』
「なかないで、ね?」
「面白い茶番劇だよ横島螢。だが、この辺で終わりにしようではないか」
その瞬間、エネルギーフィールドが螢達を包んだ。

(9)へ続く。


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