ザ・グレート・展開予測ショー

二人の想い(後)


投稿者名:NEWTYPE[改]
投稿日時:(00/12/18)

「・・・・・大丈夫か?」
横島は椅子に座り直すと心配そうにおキヌを見上げた。
「はい・・・・ちょっと頑張りすぎただけですから・・・・・・」
「そっか・・・・訓練も程ほどにしないとな。」
「・・・・そうですね。・・・・横島さんこそ、地球はどうでした・・・・・?」
「ん・・・・・まあ、いろいろあったけど・・・・いい思い出はないな・・・・・・」
横島は苦笑しながら膝に腕を乗せて俯いた。
「・・・・・戦争ですからね・・・・・・。私も、タマモちゃんにシロちゃんが死んだって聞かされた時は、正直、信じられませんでした・・・・・」
物悲しそうに天井を仰ぐおキヌ。
「・・・・・・・・・・」
「タマモちゃん・・・さっきはああやって元気に振舞ってましたけど・・・・・今でも、時々部屋で泣いているの見かけるんです・・・・・。私、もう堪らなくて・・・・・・」
おキヌの揺れる瞳から一筋の涙が頬を伝って枕を湿らせた。
「あいつら、本当の兄弟みたいに仲良かったからな・・・・・・・」
「・・・・・・・横島さん・・・・戦争って、どうして起こるんでしょうね・・・・?」
「・・・・・・大人達の勝手な考え方のせいだろ・・・・・」
その横島の沈んだ口調の中に、おキヌは彼の憤りを感じた。
「そうですね・・・・・・・・・・他に、地球で何かありましたか・・・・・・?」
「え?・・・・・・・・・別にないよ・・・・・・」
横島はルシオラの事は言わなかった。
いや、言えなかったといった方が正しいだろう。
その僅かな横島の挙動の変化をいつものおキヌなら簡単に見破るのだろうが、今は熱のせいで感覚が鈍っているようだ。
おキヌは然して気にも留めず「そうですか」と、納得した。
そして、暫しの沈黙・・・・・・・・・・
「そういえばさ、こうやって俺がおキヌちゃんの看病すんのって、あの時以来だな?」
顔を上げた横島が布団からはみ出た真っ白なシーツを見つめながら言った。
「・・・・あの時?・・・・・あ、私達が中学生だった時の・・・・・・」
「そうそう。おキヌちゃん学校の前でいきなり倒れたことあっただろ?」
「あ・・・・・そうです、そうです。突然意識が遠のいていって・・・・・」
「あん時は俺も焦ったよ。青ざめた顔で呼吸もしてなくてさ・・・・」
「私も・・・あれは不思議な体験でした・・・・・。横島さんが、倒れた私を背負って行くのが見えたんです。ふふ・・・・・でも、横島さんのその時の表情・・・・・私、嬉しかったな・・・・・・」
カアアア・・・
「そ、それさ、本当に見えてたのか?」
「くすくす・・・・さあ・・・・・どうだったんでしょうね・・・・・・」
悪戯っぽい笑みを浮かべるおキヌ。
ドキドキ
横島はそのおキヌの笑みに再び胸の高鳴りを覚えた。
「・・・・・・・(な、なんか変だな俺。おキヌちゃんが、こう・・・・)」
「?・・・・・・どうかしました?」
おキヌが不思議そうに横島の顔を覗き込んだ。
「べべ、別に!・・・・・中学かあ、おキヌちゃん野郎共にモテまくったよな。あの頃は、俺がおキヌちゃんと一緒に帰っただけでアイツらにタコ殴りにされたからなー。いや、参った参った。」
横島は話題を変えるために、ひとまず頭に浮かんだことを言った。
「・・・・・そうでもないですよ。・・・・・横島さんのこと、好きな女子も結構いたんですよ・・・・・・・」
「そ、そうなの!?」
信じられんといった表情の横島。
「そうですよ・・・・・・横島さん、自分では気付いてないだけで、本当は・・・・・コホコホ!!」
「おキヌちゃん!?すまん、ちょっと喋りすぎたな・・・・・・・」
横島はおキヌを仰向けに寝かせて枕元に落ちたタオルを洗い直して額に乗せてやった。
「・・・他に何かしてほしいことあるか?」
「・・・・・えへへ、横島さん優しいです・・・・・・」
「お、俺にできることってこれくらいしかないし・・・・・・」
おキヌの満面の笑みに照れてか、視線を逸らす横島。
「・・・・・じゃあ・・・・・私の手、握ってくれます・・・・・・・?」
「・・・そんなんでいいの?」
横島は言われた通り布団から出されたおキヌの小さな手を右手で握ってやった。
「・・・だいぶ熱いな。」
「・・・・・・・・・・・何だか、落ち着きます・・・・・・・・」
「そんなもんかな・・・・・・・」
風邪をひかぬ者にひいてしまう者の気持ちは分からない。おキヌの場合は少し違うが。
「・・・・・・横島さん・・・・・・」
「ん・・・・・?」
「もう一つ・・・頼みごと、していいですか・・・・・?」
「おう!」
横島はおキヌの役に立ってると思えることがとても嬉しかった。自然と声も弾む。
「・・・・・私に・・・・・キスしてくれませんか・・・・・・?」
「・・・・・へ!?」
横島の呼吸が止まった。目はまん丸く見開かれたままだ。
「・・・・・じょおだんですよ・・・・・」
「じょ、冗談!?な、なんだ、ビックリしたー!」
慌てて無意識の内に伸びた左手を引っ込める横島だったが、その目はとても残念そうだ。
「・・・・・ふふ、横島さんて単純ですよね・・・・・」
「ブスー。ああ、どうせ俺は単純だよ。せっかくできると思ったのに・・・・・」
「え・・・?」
おキヌは最後の言葉を聞き逃さなかった。
「な、何でもない!こっちの話だから・・・」
「・・・・・・横島さん・・・・・・」
おキヌは、視線を外して恥ずかしそうに頬をほんのり赤らめている。
ドキドキドキ
「(だーーヤバい!俺やっぱり変だ!)あ、あのさ、おキヌちゃん熱測ってみないか?俺持ってきてやるから。」
「そ、そうですね・・・・・お願いします・・・・・」
横島は握っていた手を離すとそそくさと立ち上がって戸棚に置いてある体温計を取りにいった。
「おキヌちゃんて確かアナログの方がいいって言ってたよな・・・」
横島は水銀の体温計を選んでベッドへ持っていった。もちろん表情を元に戻して。
「これでいいんだよな?」
「すみません、ありがとうございます。・・・・・・・あれ?横島さん、その胸の染みどうしたんですか?」
「え?」
言われて胸のあたりを見下ろす横島。
だが、何処にもそれらしい染みは見当たらない。
「おキヌちゃん何処に・・・・・・・!」
その時、横島の視界にスッとおキヌの顔が入ってきた。
「え!?」
そして瞳の中のおキヌは目を閉じながらその形の良い唇をそっと横島のそれに――重ねた。
「―――――――!?」
とっさの出来事に目をぱちくりさせている横島。
冗談のはずが、今現実に起こっている。
――――――――・・・・・・
「・・・・・・・・・横島さんて・・・・・本当に単純なんですね・・・・・・・」
おキヌはゆっくり唇を離すと火照った顔を更に赤くさせながら小さく言った。
「・・・・・・・・・・」
だが横島は何が起こったのか理解できず、キスした姿勢のまま彫像のように固まっている。
「・・・・あの・・・・・横島さん・・・・・・・?」
おキヌは恥ずかしさで視線を逸らしながらもちらっと上目遣いで横島の顔色を窺った。
「・・・・・・・」
「横島さん・・・・・・?」
「・・・・・・あ?え゛・・・・・・?」
「あの・・・・・今日は・・・・もう寝てください・・・・・・・」
「・・・・・え?で、でも・・・・・・!」
ようやく正気に戻った横島が慌てて口を開く。
「・・・・・・お願いします・・・・・・」
「あ・・・・・ああ。分かった・・・・・」
横島はゆっくり立ち上がると、覚束ない足取りでひょこひょことドアへ歩いていった。
そして出口のドアノブに手を掛けようとした時、
「横島さん・・・・・・」
「え・・・?」
ふいにおキヌの声が聞こえて横島はドアノブを握ったまま立ち止まった。振り返りはしなかった。
「私・・・・・・今日のこと、忘れませんから・・・・・・。横島さんが忘れても、私、絶対忘れませんから。・・・・・だって・・・・今日は、私が好きな人と初めて・・・した日ですから・・・・・・」
「――――――!・・・・・・俺だって・・・・忘れるわけ・・・・ないだろ・・・・・」
その一言一言かみ締めるような横島の言葉におキヌの胸は一杯になった。
「横島さん・・・・・私、嬉しいです・・・・・・」
「・・・・・風邪、早く良くなるといいな・・・・」
「はいっ!・・・・・・・・・・・あ、あの・・・・・・横島さん・・・・」
「・・・ん?」
「最後に・・・・・・もう一つだけ・・・・お願いあるんですけど・・・・・」
「ああ、いいけど・・・?」
おキヌの姿は見えなかったが、彼女が緊張しているのが横島には分かった。
「あの・・・・・その・・・・・・私の夢、叶えてくれませんか・・・・・・?」
声が上擦っている。
「おキヌちゃんの夢?木星に行ってみたいとか?」
「違いますよ・・・・・もっと普通の夢です・・・・・・」
「うーん・・・俺でできることだったらいいけど・・・」
「大丈夫です・・・・・・・横島さんにしかできないことですから・・・・・・・」
「俺にしか・・・?まあ・・・・分かった。約束する。・・・・・・じゃ、おやすみ。」
「おやすみなさい・・・・・」
バタン
ドアが閉まる音が聞こえ、足音が徐々に遠のいていった。
「・・・・・・・・・・私、大胆だったかな・・・・・」
先ほど自分がした行為を思い出して赤くなった頬にそっと手を当てるおキヌ。
「・・・・・横島さん、鈍いからきっと分かんないだろうな・・・・・私の夢・・・・」
おキヌはベッドから身を起こすと、窓の外の散らばった星々を複雑な思いで見つめた。
「・・・早く・・・・・戦争終わらないかな・・・・・・・」
一方こちらは横島――――――――
「し、信じられん・・・・・まさかおキヌちゃんが俺に・・・・・・・・・・・・なんか俺ってされてばっかだな・・・・・・」
自分がどうにも情けなく思えてくる男横島17歳だった。
「そういや、おキヌちゃんの夢って何なんだろうな・・・・・?」
ふと、横島は通りかかった艦長室の前で足を止めた。
中では美智恵が熱心に書類の照合をしていた。
「隊長・・・」
「あら?どうしたの、横島クン?」
横島に気付いた美智恵が眼鏡を外して歩み寄ってきた。
「つまんないこと聞いていいですか?」
「言ってごらんなさい?」
「・・・高校生くらいの女の子の、普通の夢って何なんスかね?」
「あはは、そんな事?決まってるじゃない。好きな人のお嫁さんになることよ。ま、私の場合はちょっと違ったけど。」
ガーーン!!
「い、今何とっ!?」
「だから好きな人のお嫁さんになる・・・・って、ちょっと!?なに鼻血出してぶっ倒れてんのよ!?誰かー、誰かいないのー!!」
こうして、横島にとって夢のような一日が終わりを告げた。


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