NERVOUS BREAKDOWN!!(2)
投稿者名:ブタクリア
投稿日時:(00/12/13)
正午の街は喧騒に包まれている。
それはいつもと変わらぬことであり、特に気に留める者もいない。
麻生が、食べたかどうか解らないくらいの昼飯を取った後、今日の依頼人の大まかな資料をまとめていると、隣の部屋から男が頭をガシガシと掻きながら出てきた。
寝覚めの悪そうな男に勘九郎が言う。
『あら、やっと起きたの?』
男は「よう…」と手で返事をすると、麻生にファイルを差し出した。
『おはよう、雪之丞』
『これ、素行調査の報告書と経費な』
『ずいぶん早いですね〜』
麻生は少し驚いた顔をした。
『どういう風の吹きまわしよ?』
『今月これ以上給料減らされたら生活してけねぇんだよ』
『まあ、いい心がけですね』
麻生がニッコリ笑って言うと、雪之丞は「へっ」という顔をした。
『そういや、あんたに日本から何か届いてたわよ?』
『おっ、やっと届いたか』
テーブルの上の荷物を取り、頭を掻きながら言う。
『さて、風呂入って寝直すとするか……』
『あんた、まだ寝るの!?』
『8時すぎまでこれ書いてたから寝てねぇんだよ!』
ビッーーーー
訪問者を知らせるブザーが鳴る。
麻生は無闇にでかくて古くさいドアフォンを取った。
『あ……はい、お待ちしてました。 はい、どうぞ』
『お茶かコーヒー、どっちでもいいわね?』
勘九郎は依頼人にそう言い、キッチンに向かおうとする。
『あ、できればコーヒーを、最近…』
ガシャン
キッチンで何かが割れる音がした。
勘九郎はやれやれといったジェスチャーをする。
『残念、コーヒーメーカーが割れたみたい』
『え?』
依頼人は不思議そうな顔で勘九郎を見た。
『いいわ、私がやります、勘九郎』
勘九郎は、また、やれやれといったジェスチャーをし、依頼人の正面のソファに腰を掛け資料に目を通す。
『徐 胡紅、23歳。大企業の社長婦人ねぇ。ふ〜〜ん』
お茶を持ってきた麻生は「どうぞ」と笑顔で勧め、勘九郎の隣に座った。
『で、今日はどういったご要件で?』
『はい……最近、私達夫婦に、その、危害を加えようとしている方がいるようなのです』
胡紅は伏し目がちに言うと、バッグから写真を取り出した。
『これが夫の写真です』
勘九郎は写真を手に取りまじまじと見る。
『あらぁ、いい男じゃない。タイプだわ』
『……また浮気調査か?』
いつのまにかシャワーを済ませた雪之丞が、タオルで頭を拭きながら、勘九郎の後ろでのぞき込むように写真を見ていた。
胡紅はそれをまの当たりにし、慌てて顔を逸らした、その拍子にお茶をこぼした。
『熱っ』
麻生も目を逸らし、顔を真っ赤にしながら叫ぶ。
『雪之丞っ! 服くらい着てください!!』
勘九郎は「まっ!」とか言いながら喜んでいる。
『仕方ねぇだろう、着替え、隣の部屋にあるんだからよ』
そう言うと、そそくさと隣の部屋へ服を着に行った。
『すみません、徐さん!あ、服にお茶が……』
『あ、いえ、少しだけですし……』
こぼしたお茶の処理が済んだ頃、雪之丞が服を着て戻ってきた。
『で、だんなの身辺調査か?』
麻生のデスクの椅子を引っ張り出してきてドッカと座った。
『いえ、実は、事前に、他の探偵の方に調べていただいたのですが、手に負えないということでこちらを紹介していただきまして……』
『はい、伺っています、なんでも、軽い霊障が起きたとか』
『それで、主人の、その、なんと言いますか、非常に親しい間柄におりました女性達の写真と報告書がこれなんですけれど……』
口ごもった様子で話す胡紅。
『フン、「親しい女性達」か……心の広いことだな』
『雪之丞!』
悪態をつく雪之丞を麻生がたしなめた。
キリッとした顔で睨んだ麻生だが、胃痛が起きたのか、すぐに腹を抑え、苦痛に顔を少し歪めた。
『つ、つまり、霊障の原因究明とあなたと御主人の身辺のガード、という依頼ですね?』
『はい、そうです』
『わかりました、お受けします……ただ、霊障が発生となると、通常の料金の数十倍はかかりますが、よろしいですか?』
『大社長婦人ですもの、たかが500や600、楽勝よねぇ?』
『勘九…』
勘九郎をたしなめようとした麻生だが、胃痛が限界に達したのか、うずくまって泣きそうな顔をした。
『では、明日から始めさせていただきますので』
麻生はドアを開けながら言う。
帰り際、胡紅はソファに座り直して資料を見ている雪之丞に言い放った。
あくまでも柔らかく、静かに、寂しげに。
『雪之丞さん……愛する人以外との結婚が、もたらしてくれる幸せや、安息というものも、あるんです……』
『フンッ……』
胡紅は軽い会釈をすると事務所を後にした。
この街に似合わぬ黒塗りの高級車に乗り込む胡紅を、ブラインドの隙間から覗く雪之丞を見て、どうしたのかと勘九郎が声をかけた。
『雪之丞?』
『……………ママに似ている』
今までの
コメント:
- さて、続いてはみたものの、実質始めての続きもので、こんなんで良いものかと心配であります、隊長。
前書いたときにも書いたんですが、これは脇役キャラカンバックシリーズ用に作った話しを膨らましたというか、そういうモノです。
元の話しのほうには麻生も雪之丞も出てなかったんですよ、勘九郎の一人舞台。
しかし、雪之丞って書くの難しいですね〜(勘九郎はちゃんと書けてるなどとは思いませんが)
>hazukiさん
え!?「あの方」!?
………どの方?
雪之丞だよねっ?ねっ?………勘九郎!?(他のキャラだったら期待に添えなくなるんで困る〜!) (ブタクリア)
- >Iholiさん
デミタス・麻生って名前は、ちょっとした言葉遊びと、ある有名な刑事さんの「日本の名探偵と称される人は、苗字は洒落ていますが、名前がダサイ」という言葉から付けました。
第2候補は「デミグラス・麻生」第3候補は「デメテル・麻生」でした・・・。
>NEW改さん
麻生は正確にはGSキャラとは関係ないんですが、彼女の立場というか、なんというか、言葉遊びをほどこしてあったりします。
さて、デミタス・麻生の言葉遊びとは、どんな言葉遊びでしょう?(正解者にはアレをプレゼント!……フフフ、アレをね……)
みなさん、コメントありがとうございました!
おかげでなんとか続きました!
できればまた続けたいと思う所存であります。教官殿。 (ブタクリア)
- あ・雪の丞っす雪の丞!!
嬉しいなあ・・・どきどき。
もうもうっ・・・
・・・・でも・・ちょっとまって・・・ままに似ているって・・・
徐さん美神さんに似ている?
・・・・・・・・・・・・どーなるんでせうか? (hazuki)
- 読んでて面白いです
特に最後の「・・・・・・ママに似ている」が面白かったです
続き書くの頑張ってください (トシ)
- 麻生さんが何者なのかは良く分からないんですけど話おもしろいです。 (NEWTYPE[改])
- いいですね、勘九郎のお茶汲み(笑)。オチも決まっているし。
事務所全体を包み込んでいる、気だるそうな空気が何とも好いです。
麻生のファーストネイムの件ですけど、エスプレッソのほろ苦い香りを感じさせる「デミタス」は、このお話の雰囲気に程よくマッチしていると思います。「デミグラス」だと語呂がお笑い芸人みたいですし、「デメテル」は女神様みたいで奇麗過ぎますし。 (Iholi)
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