ザ・グレート・展開予測ショー

作戦前


投稿者名:NEWTYPE[改]
投稿日時:(00/11/20)

流れる宇宙の光景に、地球が重い塊となって横切った。
MK-Uのコックピットは久しぶりに宇宙空間を映し出して生き生きとしてみえた。
MSは、本来、宇宙で使う道具である。
横島も宇宙の茫漠とした空間の『無』を感じて、その中に意思を放散させる快感に浸っていた。
突然、横島のヘッドホンにヒャクメの声が響いた。
すでにアーギャマとの距離はそれほど遠くないのだ。
「なにやってるんですか!」
横島はハッとしてMK-Uの機体の回転を止めた。
「まっすぐ帰ってきてください!そんなんじゃ迷子になりますよ!」
横島はムッとして、
「了解っ!すぐ帰還します。」
「報告は直接ブリッジで口頭で行うこと!」
「了解!・・・・ったく、ヒャクメさんは口数多すぎんだよな・・・・・」
「聞こえましたよっ!」
「げっ・・・・・!」
慌ててヘッドホンのスイッチに手をやっても遅かった。
横島は点のようなアーギャマを確認すると出力を上げた。
見慣れたアーギャマの、その形がしっかりとしたものになってくる。
MK-Uは着艦態勢に入って、ゆったりと速度を合わせていった。


アーギャマのブリッジのウインドゥには、地球と月のポイントが図示されて、いくつもの艦隊行動の予測コースが示されていた。
アーギャマは月に近い軌道上を航行しているのが図示されていた。
そして、そのアーギャマから発した索敵中のラインが、のび消えしていった。
美智恵は、そのウインドゥのひとつを操作して、月に向かうコースの地球よりの部分を拡大していた。
「カオス教の艦隊が幾つかに分かれて行動しているという・・・・・でも、このコース上には何もないというの?」
「地球の周回コース上には艦影が少なかったですよね?」
「ええ・・・・でも、我がアーギャマは少しは知られた艦よ。アーギャマの動きを止めようとするカオス教がいないというのが不思議なのよ・・・・・自惚れかしら?」
美智恵はヒャクメの言葉に自嘲的に答えた。
アーギャマが地球周回コースで睨みを利かせていたのは、地球上のカオス教の動きをチェックする目的があったからだ。その一環として横島を回収した。
そして、新たな作戦のため月に向かっていた。
そのコースが、あまりに平穏であることに美智恵は不安であったのだ。
この間に、カオス教の艦隊がどこかで巨大な作戦を行っているのではないかという不安があるのだ。
「艦長・・・・・」
小竜姫がハッチを開いて入ってきた。
「索敵、ご苦労様!」
「・・・・・敵の動きがチェックできず、申し訳ありません。」
「ん・・・・・」
曖昧な返事をする美智恵に、小竜姫は言葉を被せてきた。
「近く地球連邦政府年次総会が開催されます。西条大尉は総会に出席する斉天准将と地球に降りられたのですよね?」
「ええ・・・・・」
「・・・・カオス教に有利な法案を地球連邦政府年次総会で可決させるためには、カオス教は月を狙いますよね?」
「・・・・だから私たちはムーンライト市に向かっているのよ。あそこを制圧されたら地球も月もカオス教の好きなようになるわ・・・・・・」
「・・・・・・なのに、なぜこのコースに敵の艦の動きがないの!」
小竜姫は、苛立たしそうに傍らの艦艇の予測コースを表示してあるウインドゥを覗き込んだ。
「横島忠夫、帰艦しました。」
「・・・・接触した輸送艦は?」
「コロニー公社のものでした。偽装していません。荷物も見せて貰いましたから・・・」
「ご苦労様。」
横島は軽く敬礼すると近くの壁に凭れ掛かった。
「ブルーノアから発した艦隊か、それに合流すると思える艦を掴まえないと、ICPOの艦艇をどこに配備したらいいのか分からなくなるわ。」
「月の正面ではないでしょうか?」
小竜姫は確信に満ちた表情を美智恵に向けた。
「どうして?」
「この戦争は短期決戦でしょうから・・・・・」
「それが。元カオス教にいたあなたの考え?」
「・・・・はい・・・・・」

「横島さん!」
「ん?・・・・何スか?」
横島は窓際の席から手招きしてるヒャクメを見てゆっくりと歩み寄った。
「横島さん、ボヤッとしてたらMSのパイロットはできませんよ!」
「宇宙は好きなんです。喜んだっていいじゃないスか・・・・」
「けど、任務中はダメです!」
「ヘーヘー。」
横島は、そう言ってヒャクメの脇を離れた。それを見て小竜姫も美智恵の脇を離れる。
「調子いいみたいね?」
「はい、宇宙好きみたいっス・・・・俺・・・・」
「でもね、ヒャクメの注意は重要よ。忘れないで。」
「忘れてません。」
「そうかな?」
「説教ですか?」
「地球では活躍して自身をつけたようね。宇宙は違うのよ。」
「・・・そんな・・・・そんな風に見えるんスか?」
小竜姫は笑って頷いて、
「寂しがっているわよ、あなた・・・・・」
「・・・・・・?」
横島は立ち止まった。
「地球の体験を通して、もっと大人になっていたのかって期待していたんだけどね?」
「すんませんね・・・・・」
「恋をしてきたんでしょ?」
「・・・・・え?・・・・・え?」
「・・・・・・それで宇宙に帰ってきたら、おキヌちゃんを思い出して・・・・・アーギャマにおキヌちゃんはいなかったものね。」
「・・・・・・!?」
小竜姫はすいっと横島の前を行き、エレベーターのドアを開けた。横島はそれを追って、
「違うっスよ!」
「・・・・・またムキになる。」
小竜姫は苦笑して、横島がエレベーターに乗るのを待ってドアを閉めた。
「分かるのよ。だから若いの!」
「・・・・・そんなんじゃ・・・・・・」
横島は、苦笑をこらえてドアを見つめている小竜姫の背中を見つめた。


遥かな地球と太陽と月の間・・・・・。
ドボルザークの特異な艦影が太陽光線を受けて鈍く光っていた。
ドボルザークは、過去の地球連邦軍の艦艇に比べたら数倍する宇宙空母である。
左右にMS発進用のカタパルトデッキだけでも十二基あり、そのデッキからは、十数戦隊のMS隊の発進と回収が続けられていた。
MSは同じタイプのものを使用するわけではない。個々の能力差があり、発進も回収手順も機種ごとに少しずつ違う。
それをデッキのクルーにのみ込ませるためには訓練以外に練度を高める方法は無かった。
カオス教の組織は雑多な職能の集団と考えてよい。
それを一つの艦のクルーとして慣れさせ、シャバっ気を抜かせるためには、ヘトヘトになるまでの訓練の繰り返しがもっとも有効なのである。
兵が、なんのために戦うのかと迷うようでは戦場では使えない。
条件反射で任務を敏速に消化することが、生き延びるための最善の策であることを教えるためには古今東西この方法以外にない。
納得すればできるという発想こそシャバっ気の最たるものであって、軍はそんなふざけたことは認めなかった。
「考えるのは後でいい。考えるための時間を手に入れるためには、勝つしかないのだ。勝ったうえで、平和のありよう、人の生きようを考えて示せばよい。それまでは命を預けてくれ。」
ベスパは、そのアシュタロスの言葉に感動したのである。
ベスパがブルーノアに呼ばれたのは一年も前のことであった。
孤児院から出て、ファミレスの店長になったベスパの特異な才能は、ブルーノアのニュータイプ研究所のスタッフの目にとまった。
そして、週一回の研究所に通う生活は、ベスパにとっては、どうということのない生活であった。
そのうえで、パイロット要員として訓練に入らないかと誘われて、ファミレスを止めたのは半年前のことであった。
そして、ブルーノアの改築が始まった頃には、ベスパはMS訓練を受けていた。
ベスパは研究所で体をいじられたという記憶は無い。
ただ、ひどく若いMSパイロット要員として珍しがられただけであった。
カオス教のパイロットが地球から上がってきてからは、ベスパたちは忘れられた要員として与えられた訓練を繰り返していただけであった。
それが、雪之丞隊の編成と同時期に、ベスパはドボルザークに呼ばれたのである。ドボルザークき下(く、漢字が(泣))のMS隊への配属であった。
ベスパは、シュタロスの前で飛行終了の報告を口頭で行った。
アシュタロスは、そのベスパに細い目を向けて笑い返してくれた。
明らかにアシュタロスはベスパの能力に興味を持っていた。
「私を気にしてくれている人がいる・・・・・それが、たとえ”高い人”であっても私をこんな風に見てくれる人がいるということは素敵だ・・・・・」
ベスパは、そんな思いを抱いていた。
だから訓練が苦しいとは思わなかった。ベスパは幸福な気持ちでノーマルスーツ・ルームへ向かった。
「弓少尉!ガスプレーはどうだ?」
「ありがとうございます!良いMSですわ!」
ベスパは、その湿った弓の声に振り向いた。
アシュタロスの席の前に、いかにも女だという感じの弓が立っていた。
雪之丞と良い仲だと噂がある女性だった。
「・・・・・この作戦の中核は、少尉と雪之丞中尉のガスプレーが握っている。期待している。」
「はい!」
「いや・・・・むしろ私は重力に魂を引かれた人々を解放する仕事は女性の仕事ではないかと思っている。」
立ち聞きする形となったベスパは、アシュタロスは面白いことを言うと思った。
「でも、ICPOが標榜する目的も、重力から人を解放することだと言ってますけど?」
「ICPOだって地球圏にしばられている点では連邦の人間共と変わらん。」
遅れた雪之丞が、アシュタロスに報告しようとして立ち止まった。アシュタロスの話が終わるのを待つ形となった。

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