ザ・グレート・展開予測ショー

灼熱の脱出[完]


投稿者名:NEWTYPE[改]
投稿日時:(00/11/10)

「横島君、聞いたか!?」
接触回線でピートが言った。
「ピートさん・・・・・!」
「スードラのブースターで宇宙に帰れと言った。ルシオラという女の声か?」
「は、はい・・・・・!」
格納庫のサイドハッチの脇の操作盤に駆け寄った犬飼は、舌打ちした。
操作盤は焼け焦げて使用不可能になっていた。
スードラの翼の下にはシャトルのブースターがあった。なぜ、ルシオラがこんなことをしたのか分からなかった。
前方からはMK-Uとディアスを乗せたドダイ改とノモ数機が接近してくるのが見えた。
犬飼は一瞥をくれて、ブリッジに向かった。
「横島君、ブースターに取りつけ!アーギャマはこの上にいるんだ!僕が援護する!」
「でも・・・・・」
「怖いのか?」
「違います!」
「ルシオラもそれを望んでいるからスードラのシャトルが出たんだ!なんでそれが分からないっ!」
ピートの言う通りなのである。
横島は、スードラの翼の下にさがっているシャトルがルシオラの意思によるものだと分かってはいた。
ディアスはドダイ改を離脱して、まだ開いているスードラの砲座にビーム攻撃を加えた。
「横島君!」
「は、はい!」
横島はMK-Uのドダイ改から離脱させてブースターの側面に取りついていった。
そして、アダプターを腹部にあるジョイント部分にセットしていった。
「発射角度は・・・・くそっ!コントロールしてやるぞ・・・・!」
横島は周囲を見、スードラのサイドハッチの奥にルシオラを探した。
「MK-Uがスードラのブースターに取りついた!?」
「あれはシャトル用ブースターです!」
「あれで宇宙に行こうというのか?横島!」
政樹は感嘆した。
「重量物用のブースターです。力には余裕がありますから大丈夫。コントロールさえできればアーギャマの高度まで上がれます!」
「よし、支援しろっ!」
ディスプレイにブースターの概算データが出る。横島はキーボードを叩いてみる。
なんとかなりそうだ。と、横島はその手をとめた。
「そうか・・・・・ルシオラ!?怪我をしているのか!?」
横島は先刻のルシオラの絶叫の意味が分かった。
リョウコを引きずるようにしてサイコのコックピットの下まできたルシオラは、血まみれだった。
ブースターにMK-Uが取りついたことが雰囲気で分かった。
「・・・・・ヨコシマ・・・・・」
ルシオラはサイコの操縦席に倒れ込んだ。
スードラのブリッジに駆け込んだ犬飼は、操縦席の兵を押し退けると、
「アウムドラにぶつけろと命令しただろっ!」
言いざま操縦桿を引いた。
「少佐!」
「今からでも逃げられる。貴様たちは脱出しろ!」


犬飼はアウムドラの後部に向けてスードラの出力を最大にしていった。
「分かっている!」
ピートは、そのスードラの挙動の変化に、コックピットを潰すしかないと判断した。
ディアスをスードラの背中に乗せ、コックピットにライフルを撃ちこんだ。
パッと、コックピットの上部に閃光が走り、犬飼たちは火の中に包まれた。
「ぬおおおおっ!!!バ、バカなああ――――っ!!!!!」
犬飼の断末魔の叫びが炎の中に消えていった。
スードラは機体を前に傾け、そして今度は反動で頭を上げた。
「横島君!発射だ!」
「はい!」
横島はキーボードを叩き、ブースターを発射にセットした。カウントダウンにまだ十秒ある。
その間にスードラが頭を下げでもしたら、シャトルはMK-Uを海に向かって打ち出すことになる。
ピートはディアスをスードラの垂直尾翼に向けた。
「十、九・・・・・」
ピートは勝手にカウントダウンをして、垂直尾翼に向かってビームを撃ちこんだ。
ドウッ!爆光が膨れ上がりスードラは、またも頭を上げていった。


「アーギャマ、こちら側に回り込みました!」
「よし、こちらの状況を光モールスで伝えろ!MK-Uはいつ飛び出すか分からんとなっ!」
政樹の命令にアウムドラはレーザー発振機の方位をアーギャマのいると思われる天空に向けた。
「五、四、三・・・・・」
横島はスードラが性格に仰角姿勢になったのに感謝した。
「ピートさんか・・・・・?」
サイコは、ピートの垂直尾翼の攻撃で機体がスードラから滑り落ちそうになっていた。
ルシオラはリョウコの体を引き上げるのがやっとだった。
機体の震動が激しくなった。
噴煙が格納庫を満たし始めた。
「ヨコシマ、サヨナラ・・・・・・」
ルシオラは微笑んでみた。気絶したリョウコの背中に向けて・・・・・・・」
「ニ、一、・・・・・」
ドウッ!スードラに格納されていたブースターに誘爆が起こった。同時にMK-Uが跨ったブースターにも火が入った。
スードラ後部の装甲が吹っ飛び、真っ黒な噴煙が噴き出すなか、MK-Uを乗せたブースターがスードラの翼の下から発進した。
同時にスードラも大爆発を起こした。
ピートは、ディアスを降下させながら天空に向かって尾を引くブースターの航跡を見上げた。
アウムドラの横を掠めたブースターは急角度で上昇を続けMK-Uを宇宙に帰していった。
爆発の炎に包まれたスードラは黒い塊となって太平洋に落ちていった。
「・・・・・横島、迷子になるなよ・・・・・」
それは、政樹とピートの感慨であり、ルシオラの心の言葉であったかもしれない。
強力なGに耐える横島の頬には涙があった。
「・・・・・これで良かったのか・・・・・ルシオラ・・・・・・・」
それが横島の精一杯の惜別の言葉だった。
「来ました!・・・・・ブースターです!」
「よし、降下開始!」
「了解!」
アーギャマは、船首を百八十度回頭すると降下し、軽い爆発とともに船尾からバリュートを展開させた。
薄い大気層との摩擦熱から船体をカバーするのである。
バリュートは次第に摩擦熱で真っ赤な火の玉になってゆくが、その船首ではMK-Uの回収作業の準備が行われていた。
「アーギャマ・・・・・!」
横島にとっては涙が乾く間もない時間であった。
赤い灼熱した航跡が視認されると、横島はバーニアを噴射させてブースターから飛び上がった。
ルシオラの命をかけて用意されたブースターが、急速に後方に流れていった。
MK-Uの眼前をアーギャマが通過する。
その瞬間、アーギャマからケーブルが射出され、アーギャマの火の玉の尾の部分に入ったMK-Uは飛んできたケーブルを掴んでいた。
「MK-U、キャッチしましたねー!」
「よし!大気圏離脱!」
美智恵は晴れやかに言った。
太平洋を飛ぶアウムドラからは、そのアーギャマの航跡は、ゆっくりとした流れ星のように目撃された。
そしてレーザー発振の光がアウムドラに向かって小さく点滅をした。
「回収作業完了です。」
政樹は黙って頷き入ってきたピートとエミを見やった。

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