ザ・グレート・展開予測ショー

ルシオラの決意


投稿者名:NEWTYPE[改]
投稿日時:(00/11/ 9)

ルシオラは頭痛が薄らいだものの、まだ背筋にゾクッとする不快感が残っていた。
それでもルシオラは、マルチスクリーンにMK-Uの機影をとらえて離さなかった。
そのMK-Uにピートのディアスが接近する。
「横島君、下がれ!」
「俺がやります!」
「やれるのか!?」
「やれますよ!」
そこへ向けてサイコは拡散ビームを連射した。が、MK-Uとディアスは見事に回避をした。
ルシオラは苛立ってきた。拡散ビームは広がるのである。それを回避するというパイロットは事前にビームの発射を予測しなければできない。
二機のパイロットは、それができる。
ルシオラは横島という存在を忘れなければ記憶を取り戻せないと分かった。
サイコはMK-Uに追いすがりMSに変形した。その巨大な腕がMK-Uの乗るドダイ改のテールノズルを粉砕した。
「うわっ!?」
横島はMK-Uのバーニアをかけて離脱し、サイコに向かって身構えようとしたが、その巨体はMK-Uを抱きかかえた。
避けさせないためには、掴み、潰すしかないとルシオラは判断したのだ。
「ルシオラ・・・・・!」
サイコはMK-Uを抱きかかえたまま上昇をした。
「スードラが突っ込んできます!」
「なんやと!?」
政樹は、その報告に正面のモニターを見た。スードラの実映画像があった。それは視覚と同じ映像を映し出す。
「来るのか?」
政樹は航空機が船と同じように対空戦闘をやるなどということを想像したくなかった。
スードラのサイドハッチからベースジャバーが一機飛び出すのが見えた。
アウムドラから発したノモ隊はスードラに攻撃を掛けるが、スードラの砲座の集中攻撃を受けことごとく火ダルマになった。
ピートはスードラとアウムドラが接近し始めたのを見て、ディアスを戻した。
そこにスードラのビーム攻撃が向いた。
「実戦訓練が行き届いているな・・・・!」
ピートはそう実感した。リョウコに聞かせたい言葉である。


ルシオラのサイコは、MK-Uを抱きかかえたまま上昇を続けていた。
雲海は遥か下方にあった。しかし、MK-Uの腕は左右に開かれてサイコの巨大な腕の圧力に抵抗をしていた。
しかし、似たような顔を持つ二機のMSは、知らない者が見れば親子が抱き合ってるとしか見えないだろう。
「・・・・・ルシオラ、駄目だっ!なんでお前と戦わなくちゃいけねえんだっ!」
「・・・・・放っておいて!」
「ルシオラ!装甲越しに話すのは嫌だ。今からそっちに行く!」
ルシオラは想像もしなかった横島の言葉に息をのみ、受け入れてはいけないことだと思った。
「そんなこと・・・・・!」
が、ルシオラの狼狽を無視して、MK-Uのハッチが開いた。
強風が横島を襲い、ほとんど身動きができない。
「な、何やってるのよっ!!」
ルシオラは、その横島の姿をモニターに見た。それはとても小さい体だ。
それが敵対する自分に愛にこようというのである。
ルシオラはサイコの上昇をやめさせた。対地相対速度が緩慢になり、横島の体が動きやすくなったはずだ。
しかし、ボヤボヤしていると、横島の体は浮き上がってしまうだろう。
横島はサイコのハッチに飛びついた。ルシオラはやむなくハッチを開いた。
ルシオラはもう、横島の体を空に放り飛ばすだけの勇気はなかった。
ハッチの向こうには横風を受けながらも、ハッチに必死にしがみつく横島の姿があった。
それは、実際の横島の姿なのだ。
「・・・・ルシオラ・・・・・!」
「・・・・・無茶しすぎよ・・・・・」
ルシオラはヘルメットのバイザーをあげた。
本能的に自分の視界を遮る全てのものを取り払いたくなったのだ。
「・・・・・一緒に行こう・・・・ルシオラ!」
横島はルシオラのシートににじり寄りながら言った。
「駄目よ!」
「・・・・・・・・・・。・・・・・・俺は・・・・・・・本当の俺はこんなんじゃないんだ・・・・・」
「え・・・・・・?」
「前にも言ったろ?・・・・本当の俺はバカで、スケベで、ホントどうしようもない人間だって。・・・・・そんな俺がどうしてMSなんかに乗ってると思う?俺がセクハラすると逮捕しようとするカオス教のヤツらを追い出したいって思ったからなんだぜ?ハハ・・・笑っちゃうだろ・・・・・?」
「何を言ってるの、ヨコシマ・・・・・?」
ルシオラは、必死に自分に何かを訴えかけようとする少年を見つめた。
「そうなんだよ・・・・・そんな軽い気持ちで俺はICPOに参加しちまったんだ・・・・。そのせいで、俺の住んでたコロニーがカオス教に占拠されちまった。もちろん、住人は全員強制労働送りだ・・・・・。俺は軽率すぎた・・・・・・・あっ!」
風が背後から横島の体を押しやった。ルシオラは、横島の体を膝で受けた。
右手で横島の腕を掴み、横島の体をしゃがませた。
「・・・・・くそっ・・・・・・!」
横島は、ルシオラの膝の間に体を埋めていた。ルシオラには横島の顔は見えなくなっていた。大きなヘルメットがルシオラの前でかすかに揺れているだけだった。
「だから、早く・・・・・・できるだけ早く戦争を終わらせねえと駄目なんだ。そのために俺はMK-Uに乗ったんだ・・・・・」
横島の肩がルシオラの大腿部の上で揺れて、横島の腕の重さが大腿部にかかっていた。
「・・・・・それから、ずっと戦ってる・・・・・いろんな人と出会ったよ。西条大尉、唐巣のおっさん、メドーサさん、小竜姫様、シロ、タマモ、公彦さんなんて人もいる。エミさんにピートさん・・・・・敵も味方も大勢死んでいったのを見たよ。宇宙で戦い、月に行き、そして、もうこれ以上人が死ぬのなんて見たくねえんだ・・・・・」
横島のヘルメットがガクガクと揺れた。
ルシオラは、横島が泣いているのが分かった。
「・・・・・なに言ってんだ俺は・・・・・」
横島はルシオラの大腿部から腕を滑らせて、そして、座り込んでしまった。横島の手が、ルシオラの膝に掴まっていた。
自由落下するサイコに抱きしめられて見えるMK-Uは、まるで赤ん坊だ。
「・・・・・私を本気で助けたいんだ?」
「・・・・・・・ああ。」
「ふふ・・・・・おまえ・・・・・優しいね・・・・・・」
ルシオラは、ちょっと微笑んだ。そして、脚のホルスターから拳銃を抜き、その拳銃を横島のヘルメットに向けた。
「お互いの場所に戻りましょう。ここはヨコシマにはふさわしくないわ。」
横島のあげた顔は、涙でベトベトになっていた。
「・・・・・ルシオラ・・・・・・」
ルシオラは横島のヘルメットの脇で拳銃を撃った。
「!?ルシオラ!」
「MK-Uに戻って!・・・・・ヨコシマ。今度は、おまえの胸を狙うわよ!」
横島は腰を上げて後退をした。
「どうして・・・・・!」
ルシオラは唇を歪めてまたも拳銃を撃った。弾丸が横島の腕を掠めた。
横島は足を滑らせてMK-Uのハッチまで後退をした。ルシオラは、横島の体がコックピットに転げ落ちるのを確認しながら、サイコの出力をあげた。
「ルシオラ!」
横島は、サイコのハッチが締まるのを見たが、その奥のルシオラは、硬い表情をしたままなのが分かった。
「ヨコシマ・・・・・もう忘れないよ、二度と・・・・・・」
寂しげ微笑みを浮かべたルシオラは、すぐに表情を引きしめて、サイコの腕をMK-Uから離すと、機体を揺すって上昇を掛けた。
そして飛行体に変形するとスードラに向かって急降下していった。
「ルシオラ!?」
MK-Uはサイコを追おうとしたがサイコは速かった。
スードラの砲座を狙撃するしかない攻撃に、ピートは苛立っていた。
アウムドラとの距離が近すぎるのだ。もし爆発でもしたら誘爆する危険があった。
降下したサイコは周囲のMS隊を無視してスードラの後方に回り込み、そのまま後部ハッチから突進した。
ハッチの大きさを無視して突っ込んだのである。
スードラの巨体が前のめりになり、激震した。
「なに!?」
スードラのブリッジの犬飼は、体を放り出された。
「今の衝撃はなんだっ!?」
「ルシオラ少尉がサイコで格納庫に飛び込みました!」
「なんだとっ!」
「少佐!ルシオラが格納庫のシャトル用のブースターを移動させています!」
艦内監視要員の報告だ。
「なに!?」
犬飼はモニターを確認してブリッジから飛び出した。
サイコを追ったMK-Uはピートのディアスの乗るドダイ改に拾われた。
「横島君!黒いMSはどうしたんだ!」
「分かりません!ともかく後退したみたいっス!」
スードラは、やや速度を落とした。アウムドラとの距離が大きくなっていった。
ルシオラは格納庫のクレーンを操作して、シャトル用のブースターを翼の下のハンガーに移動しているところだった。
サイドハッチの脇にある操作盤を操作しているルシオラの姿を、ヌルが見つけた。
被弾したザックを、ようようスードラに戻したところだった。
「少尉、なにをしている!?」
「邪魔するな!」
ヌルが拳銃を抜こうとしたが、それより早くルシオラの拳銃が火を吹いた。強化された肉体のリアクションは通常の人間の比ではなかった。
「グウッ!」
ヌルは肩を打ち抜かれて床に転がった。
ルシオラはブースターが翼の下の定位置におさまったのを見届けると、拳銃で操作盤を破壊した。
そして、ヌルの拳銃を拾いあげてサイコに走った。
「ルシオラ!どこに行くのですっ!」
壁際に埋まったリョウコだった。
「!?」
ルシオラの本能的な防衛反応がリョウコを抱き上げさせた。そして、リョウコをサイコに運び込もうとした。
「あぐっ!」
ルシオラの体がリョウコを抱きかかえたまま、前に倒れた。
エレベーターから出た犬飼が撃ったのだ。
「・・・・・説明してもらおう!ルシオラッ!」
犬飼は鬼のような形相でルシオラを睨みつけた。
「最初に言ったはずよ。好きにやらせてもらうと!」
「小娘がっ!」
犬飼はまた発砲した。
ルシオラの左肩が撃ち抜かれ、ルシオラの上体が揺れた。
『ヨコシマ・・・・・!!』
そのルシオラの心の中の言葉は横島を直撃した。
「ルシオラ・・・・!?」
横島は浮上してゆくスードラを見上げた。

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