ザ・グレート・展開予測ショー

マリオネット・ルシオラ(終)


投稿者名:NEWTYPE[改]
投稿日時:(00/11/ 8)

モニターに映る地図はニューギニアの全景である。
その一部が拡大されて数本の滑走路や巨大であろう建築物が見えるが、それら全てが整然と色分けされているわけではなかった。
「これが、ルオ商会が手に入れたカオス教のニューギニア基地の地図か?」
ピートは、さすがに背後に座るMSのパイロットたちを振り向いて苦笑してみせた。
「ルオ商会、戦争商人やないんか?敵と味方の双方に武器を売って企業の利益だけを手に入れる・・・・・でなければ、これほどの情報は手に入らんな。」
政樹は皮肉をこめて言った。
「そう、国家みたいなものだよ。企業は。」
Gメンの若いクルーたちが言い合った。
「そんなことを言うのならば、宇宙紀元前は国家が企業のために武器を売った時代だってあったんだ。企業とはっきり割り切れるだけ罪は軽いな。」
「そのために戦争をやらされているのか?」
「まあ、そう言うな。そういう企業があるからICPOはカオス教に対抗できるとも言えるんだぜ?」
「その真偽、正義のあり方は戦争が終わってから決めるのさ。」
「いやだ、いやだ・・・・!」
その言葉に、なぜか一同はドッと笑った。
自嘲的な笑いではあるのだが、そんなことでもなければ気持ちは弾んでくれない。
「この配置図によると、基地自体はまだ建設途上や。我々の勢力だけで十分に叩ける。」
「長期戦は避けてな?」
「そういうことや。」
「政樹館長、ニューホンコンから入電です!」
「ルオ商会か?」
「そうです。・・・・解読します。本日十一時より二十四時間、戦艦アーギャマは衛星軌道上にコースを固定。以上!」
「アーギャマがくる・・・・?」
「早すぎるな。ニューギニアに着くのは早くても明日の朝だ。」
「間に合わせるぞ。そう何回もチャンスは巡ってこない。」
アウムドラのブリッジ付近で、エミは起き抜けの横島を見つけていた。
「ちょっと、おたく!」
「なんスか?」
横島は不愉快そうな顔をエミに向けた。
「怒らないで。お願いがあるワケ。」
横島は口を利きたくなかった。
「・・・・おたく、ピートのこと好きよね?」
「回りくどいっスね。なんスか?」
「・・・・・ピートを私に返して。」
「エミさん、あんたまだそんなこと・・・・!」
「おたくのためにピートは無茶をするわ。そしたら、ピートは死ぬわ。」
「エミさん、前にも言っただろ。ピートさんを殺すのはあんたのそういった心だって!」
「でも、ピートはますます好戦的になっていくワケ。あれじゃ・・・・・!」
横島が足を速めた時だった。警報が鳴り響いた。
「急いでるんで!」
「待って!約束して、ピートを返すって。」
エミは横島の腕を抱くようにしたのだ。
「・・・・・了解っス、エミさん。でもな、そんな女の我儘が男を殺すんだ。それだけは分かってください!」
「頼むワケ!」
横島は、以前のエミと違って、その瞳の中に本当の哀願があるのだと分かった。
ピートはクレーンを使ってディアスのコックピットに滑り込むと、計器に灯を入れた。
「敵は例の黒いMSだ!ザックも五機ほどいるぞ。」
「了解した。後続頼む。」
「ピート、ニューギニアも控えてるんだ。無茶するなよ。」
「分かってるさ・・・・・ディアス、出る!」
ディアスはドダイ改に乗ると、そのテールノズルの出力を上げていった。
横島もまたやや遅れてMK-Uのコックピットに座った。同時にディアスを乗せたドダイ改が発進していった。
ピートはモニターを拡大して索敵した。
前方の光点を拡大した。サイコだった。
ピートは追尾する横島を気にした。
「横島君!敵は強い!迷うと殺されるぞ!」
「・・・・分かってます。」
横島は小さく応答した。
ディアスはライフルを構えた。
サイコのコックピットのルシオラは、ゲッソリと頬がそげて見えた。緊張がルシオラの顔を豹変させるのだ。
「・・・・・記憶と引き換えなんて!!・・・・犬飼!リョウコ!」
ルシオラは、そんな言葉を何度も繰り返し、スクリーンに映るディアスとその背後のアウムドラを重ねていった。
ディアスの放ったビームがスクリーン眼前で弾けた。
ルシオラは避けたのである。
「邪魔よっ!」
最速でアウムドラの空域に突っ込むサイコを、ディアスはかろうじて避け、攻撃を仕掛けようとするが、後続のザック隊からビームの雨が降った。
ディアスは降下してサイコの真下に入った。
「・・・・・・!」
ピートは、横島と接触させる前に撃破しようとした。だがライフルでは、そのビームを歪められてしまう。
「落ちないか?」
ピートは焦った。
が、第二撃にサイコが揺れた。一瞬、失速をみせた。
ルシオラがコックピットでヘルメットを押さえたのだ。頭に激痛が走った。
「・・・・邪魔する人間は・・・・!」
サイコは急回転してディアスを追った。が、ルシオラに激痛があった時、横島のMK-Uが間近に迫っていた。
ディアスに追尾したサイコは、バラッと変形するとMSになり降下した。
「なに!?」
ピートは、頭上のサイコが突っ込む格好を見た時は、すでにディアスの両肩を掴まれていた。
「くっ・・・・・」
「私の記憶のために死んで貰うわっ!」
サイコが両手に力をこめた。ディアスの肩の関節が悲鳴をあげた。
ディアスの頭部に仕込まれたバルカンが火を噴いた。
が、砲弾の爆発はディアスに危険だ。サイコにはバリアーが働いた。
「邪魔するからいけないのよっ!・・・・・・!?」
ルシオラの顔が突然歪み、ルシオラはまたも激痛に襲われた。
「うっ!?・・・・うあぁぁ!!」
あまりの苦痛に身をよじるルシオラの体が座席からずり落ちそうになる。
「・・・・・あ、頭が・・・・割れるっ・・・・・!」
サイコはディアスを掴んだまま失速したように背中から急降下する。
海面が迫った。
「・・・・・・!?」
サイコの腕の力が緩んだので、ピートはディアスを離脱させた。
「あっ・・・く・・・・・・・!」
ルシオラは苦痛に脂汗を流しながらレバーに手を伸ばした。
海面直前でサイコは飛行体に変形して海面を掠め滑走した。水しぶきが上がった。
ルシオラはヘルメットを脱ぎパネルに突っ伏した。
「ピートさん!」
「黒いMSは下だ!迷っているとやられるぞ!あれは危険だ!」
「分かってるっス!」
横島はピートの心配が分かった。


その頃、かなりの高度の衛星軌道上をアーギャマがまわっていた。
「Gメンから回答はあったの!?」
「はい!レーザーで回答を得ています。作戦行動には連動させられると言ってます!」
美智恵の質問にヒャクメが応じていた。
「・・・・・地球上のカオス教基地からの長距離ミサイルには気をつけなさいっ!」
美智恵が溌剌と声をあげた。
「了解ですねー!」


スードラのブリッジで交戦中の光が視認できる距離になった。
「もっと接近しろ!スードラは対空戦だっ!」
犬飼の命令にブリッジの空気がザワッと揺れた。
「ヌル大尉!各員に近くの対空砲火を開かせろ!Gメンを殲滅する!」
ガルーダタイプの輸送機には対空砲座はあまりない。もともとシャトル運搬用のものだからだ。それが戦闘をするというのでは、クルーが動揺するのは当たり前だった。
「将来、カオス教の一員として有利な地位につきたければ、この程度の戦闘に動揺するなっ!アウムドラに仕掛けるっ!」
リョウコは犬飼がインターカムを使っている間にブリッジのハッチの方に後ずさりしてゆき、ダッと飛び出していった。
犬飼はホンコンを攻撃したにも拘らず、何の成果も上げられなかったことに不安がったのである。
なんとしても戦果を上げなければ、自分が責任を問われるだろう。MK-Uを落とせず、アウムドラを捕獲できなかったことについてはホンコン市長の問題ではない。
犬飼は、内心、特攻をかけてでもアウムドラを落とす覚悟で不要なクルーの脱出を許可した。
「・・・・・サイコなど当てにはできん。」
スードラの格納庫に駆け込んできたリョウコは、そこが、怒声と悲鳴に満たされているを見て唖然とした。
犬飼の放送を聞いて、危機感を持ったクルー達がスードラを脱出すようとベースジャバーに殺到していたのだ。
「こ、これが犬飼の部隊!?なにが軍人よ!」
リョウコは唾棄しながらも、乗り込めるベースジャバーがないものかと探した。
一機のベースジャバーがコックピットに数倍のクルーを乗せて移動してきた。リョウコは壁際に逃げたが、ベースジャバーのテールノズルの噴射が直撃して、リョウコは壁沿いに吹き飛ばされて転がった。


政樹は通信員の後ろからパネルを覗き込んで聞いた。
「アーギャマからの入電、まだか?」
「まもなくの予定ですが、・・・・雑音がひどくて・・・・・」
「レーザー発振しています。上空では捕捉ができるはずです。」
「しかし、打ち上げるものがなければ、アーギャマが来ても意味がない・・・・」
「なんとかなりませんか?ピート大尉は、横島とMK-Uを宇宙に戻してやりたいって必死でしたが?」
「必死だけでは宇宙には上がれん。」
政樹は形の良い顔を撫でながら、いくつも浮かぶ雲の間を擦り抜けて、敵の目を回避しようとしたが、何度目かのミサイルがアウムドラの機体を揺すった。

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