ザ・グレート・展開予測ショー

マリオネット・ルシオラ(3)


投稿者名:NEWTYPE[改]
投稿日時:(00/11/ 6)

朝日が水平線上に昇ってきた。
その光の中をアウムドラが巡航速度で飛行していた。
「本当に行ってしまうんですね。」
政樹は公彦親子の姿をつくづくと見やった。
「キャラットさんも援助してくれるっていうし、インドにでも行くよ。美智恵の邪魔だけはしたくないからね・・・・・」
「そうですか・・・・・」
公彦親子の背後には、ルオ商会のヘリコプターが発進の準備に忙しかった。
「ちょっと・・・・・」
エミが公彦の脇に寄りそって、
「ひとつ聞きたいことがあるワケ・・・・」
「どうぞ?」
「美智恵さんが宇宙に行くのを許したのはなぜ?」
「彼女は七年間ずっと鬱屈していたんだ。それを今晴らしているのさ、宇宙でね。」
「でも、当人はいいとしても、地球に残ったおたくはたいへんじゃなくて?」
「僕は構わないよ。僕は彼女が考えていることが手にとるように分かる。彼女が今何を考え、何を僕に訴えかけようとしているのか。だから不安はないよ。」
「おたく、ニュータイプなの?」
「違うさ・・・・・愛し合ってるからだろうね。妻のそういうことぐらい分かるよ。」
「大人の都合で子供を巻き込むことにならない?そういうの・・・・」
「そうかな・・・・?」
「子供は両親がいてこそ育つのではなくて?」
「そうだよ。僕は妻の影を子供に投影しているつもりなんだ。お母さんがいるから大きくなれるんだよと教えている。そうすれば子供は母親を感じてくれるんだ。」
「親の身勝手な解釈ね。」
「夫婦ってね、信頼があるとちゃんと妻の影が映っているものなんだ。それを子供は分かってくれる。」
「・・・・そんなに便利なものなの?」
「人間にはそういう能力があるんだ・・・・」
「便利すぎるワケ・・・・・」
エミは納得をしかねるという風で視線を遊ばせた。
「横島君は・・・・?」
公彦は近づくピートに聞いた。ピートは首を横に振るだけだった。
「そう・・・・最後に話がしたかったんだけど。・・・・・横島君・・・・・・あの子は良いニュータイプになる。」
「ええ・・・・・宇宙に送ると約束しました。必ず果たしますよ。」
「無茶は駄目だよ、ピート。」
「無駄死にはしません。」
ヘリのステップからキャラットが覗いた。
「キミヒコさん、そろそろ。」
「あ、お願いします。」
公彦は、ひのめの手をひいてエミに顔を向けて、
「人と人の関係なんて時間をかけてゆっくりと分かってゆくものさ。」
「・・・・・・・」
「年をかければ分かる・・・・じゃあ・・・・・エミさん。」
公彦はヘリに乗り込んでいった。


スードラの広いブリッジの一角で、犬飼は、いつまでも続きそうな部下の報告を聞いていた。
その目は窓の外の茫洋とした空と海の光景を眺めていた。
「・・・・・で、残存するMSはザック五機。整備はほぼ完了しております。」
「ご苦労、アウムドラはどうなっているか!?」
「ハッ!まもなく捕捉できます。」
「まもなくと!?」
「申し訳ありません!」
「急げっ!手柄をニューギニアのカオス教の基地の連中に取られては面白くなかろう?」
「ハッ!」
話が分かると思えない若い士官は、緊張をして敬礼し、そして、踵を音をたてて合わせて犬飼の前で回れ右をした。
こういう若い男がいるということが犬飼には分からない。若さというものは、もう少し自由で機知に富んでいるものだと思っていたからだ。
少なくとも自分があの歳の時はそうだったように思える。
「・・・・・!気分はどうか?ルシオラ少尉。」
犬飼は、ルシオラとリョウコがハッチを入ってくるのを見とめて声をかけた。
犬飼の目にはルシオラは元気そうに見えた。
「・・・・・出撃ですか?」
「あわてるな・・・・・まだアウムドラは捕捉していない。」
と、突然ルシオラが踵を返した。
「どこへ行く?」
「戻ります。」
ルシオラの私服がフワッと風を受けて大きく脹らんだ。挙動もしっかりしている。
「・・・・・ルシオラ、記憶が欲しいそうだな?」
犬飼は余分なことを言いたくなかったからルシオラの弱点を突いた。
「・・・・・・少佐?」
ルシオラの足が止まった。
「落とせとは言わん。足止めするだけでいい。このままではアウムドラをみすみすニューギニアのカオス教に渡すことになる。そうなれば二度も強化人間を送り込んできたニュータイプ研究所としても困るのではないかな。」
リョウコは、ハッとして犬飼を見た。
「・・・・少佐、カオス教はニュータイプ研究所をよく思っていないのでしょうか?」
「今後のルシオラの働きいかんだな?これ以上、ニュータイプ研究所の信用を失墜させれば、最悪、研究所の閉鎖もある・・・・・」
「・・・・それでは・・・・私は・・・・・」
リョウコがオロオロとした声をあげた時に、ルシオラはリョウコの胸を突いて、犬飼の前にその上体を投げ出すようにした。
「おまえには頭の中を蛇がのたうつような感覚が分かるのっ!!」
犬飼はルシオラの吊り上った瞳の底が、ひどく冷えているのが分かった。
「分からんな・・・・・」
「自分の意思とは違うものが入り込んで脅迫するのよ。体の芯の神経まで揺すられて、逆撫でされる感じが分かれば、人を戦わせる時はもっと真剣に頼むものよ!大人ぶって遠回しにグダグダものを言うのは許せないわっ!!」
「ルシオラ少尉・・・・我々は軍人だ。軍人は個人の恐怖や悲しみを乗り越えても命令を聞かねばならない立場なのだ。回りくどかろうがくどくなかろうが命令は命令である。いいか?少尉、我々はなんとしても少尉の能力を最大限に発揮させたいと考えている。そのためには少尉の記憶のことも持ちださざるを得ないのだ。分かるか?」
犬飼はじぶんのくちょうが芝居がかっているのを承知であった。
効果は覿面だった。
「・・・・私の記憶・・・・・!?それは手に入れなければならないわ・・・・・」
「そうだろう?戦果を上げれば、少尉は記憶を手に入れることができるのだよ。」
「・・・・・少佐・・・・・・」
ルシオラは、言って上体をそらせて天井を仰いだ。リョウコは、そのルシオラの体を支えるようにした。
「すべては実績次第だよ、ルシオラ少尉。機会はそう多くないがな・・・・・?」
犬飼は自分の計算した通りにルシオラが反応したことが嬉しかった。これでルシオラは間違いなく自分の意思の通りに動くだろう。
「カオス教なんかに邪魔はさせないわ・・・・・!」
「ほう、勇ましいことだ。」
「邪魔する人間は・・・・・誰だって・・・・・・」
ギュッと握り締めた拳を、ルシオラは自分の胸の下に抱くようにした。
「アウムドラ、補足しました!接触まで・・・・約15分!」
ナビゲーターの報告の途中で、ルシオラはすでに飛び出していた。
「自分の感情を殺す術も知らんか・・・・・これが作られたニュータイプの限界か・・・だが、それが意外な結果を生むかもしれん・・・・・」


スードラよりも上空を飛ぶアウムドラは、まるで空に貼り付いた点のように見える。
巨大さも、速度も感じさせるような相対的なものがいっさいない高空だからだ。
その兵員居住ブロックの薄暗い廊下に立つ人影が、ドアを軽くノックし、そして、諦めたようにそのドアの前を離れた。
革のジャンパーをきっちりと着たピートだ。
「・・・・・・?」
ピートは立ち止まった。
通路の曲がり角にエミが立っていた。舷側の窓のコントラストの強い光の中で、エミは笑っていた。
「私の部屋に来ない?温かいコーヒーがあるワケ。」
「悪いけど・・・・・エミさん。」
ピートはエミを擦り抜けようとした。
「ピート・・・・!」
「エミさん、今は休む時間だ。」
「横島とは話をするつもりで来て、私には寝ろと言うワケ?」
ピートはエレベーターの方に向かった。
「・・・・・ピート・・・・・!おたく、宇宙に上がるつもりなんでしょ?」
「え?」
ピートには、その言葉が突拍子もないものに聞こえた。
「どうしたの、エミさん?」
ヘルメットの小柄な体が滑るようにピートの視界の中でひろがった。
「おたくは西条大尉とは違うワケ。戦いにのめり込む人じゃないはずよ。」
「・・・・・分かるよ。僕は横島君を空に打ち上げようとしているだけだ。自分が宇宙に行くことはないよ・・・・・」
「私、時々おたくの中に西条大尉がダブって見えるワケ・・・・・怖いのよ。」
「・・・・エミさん・・・・・僕は、まだ宇宙に上がれるほどの勇気はない・・・・・」
「・・・・でも、その勇気が出たら宇宙に行くんでしょ?」
「もし、そういう時があったら、君も一緒に来てほしい・・・・・」
ピートのその言葉は湿っていた。
エミは答えられなかった。
「人間として何をなすべきか判断を強要された時、西条大尉はためらわなかったけど、僕は臆病すぎたって自覚がある・・・・・」
「それが普通よ。私だってGメンに入る時は考えぬいたワケ・・・・・サービス業の中に身を埋めていた方が楽だったもの・・・・・」
「なのに君をGメンに協力させた理由はなんなんだい?」
「・・・・・このままでは、私がかわいそうだったから・・・・かな・・・・・」
ピートはエミの肩を軽く叩いた。
「・・・・僕もそうだ・・・・・だから、今の僕はなんとしても横島君を宇宙に戻すだけだ。あとはそれが終わってから考えたい・・・・君と一緒に・・・・・」
「・・・・ピート・・・・信じたいけど?」
「信じられるようにしよう・・・・・エミさん。」
ピートはエミの頬に軽くキスをすると、
「ブリッジに上がる。君はもう少し休んだ方がいい。君は自分で思っているほど体は丈夫ではないんだから・・・・・」
ピートはエミの体をドアの外に押しやってエレベーターのドアを閉じた。

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