ザ・グレート・展開予測ショー

バースデイ(3)


投稿者名:ツナさん
投稿日時:(00/11/ 6)

 結界に突進を繰り返しているのは、ちょうどティンカーベルを思い起こさせるようなかわいらしい妖精の姿だった。ただし背中には鳥のはねのような物がついているが。
 妖精は何度か結界を抜けようとしてだろう、体当たりを繰り返すと、力尽きてヘロヘロと下へ落ちていった。
「今のなにかしら?」
「妖精のたぐいでしょうか、初めて見ました」
「行ってみましょう」
二人は取るものもとりあえず部屋を飛び出していく。
「どこ行くのよ?」
令子の声が背中の方から聞こえたが、あえて無視して階段を駆け下りる。
「妖精か、もしほんとに妖精だとしたら久しぶりに見るわ」
「え、見たことあるんですか?」
「幼稚園の頃一度だけね。ママの知り合いみたいだったけど」
「あれと同じ感じですか?」
「そうね。でもちっちゃい頃の事だからあまり覚えてないのよ」
話しながらハンガーからジャケットを取って引っ掛ける。
「パジャマのままじゃ、やっぱね」
玄関から飛び出すと歩道の隅にぼんやりとした光があるのに桐斗が気付いた。
「螢さん、あれです」
「わかってる」
そこにはまるで光に守られるように横たわる『妖精』の姿。
「思ったより小さいわね」
「そうですね」
それは掌にちょうど収まるほどの大きさであった。螢が無造作に手を伸ばすと静電気が走った時のように手に衝撃が走る。
「いたッ!!」
「大丈夫ですか??」
「うん、大したことはないけど」
今度は慎重にそれを覗き込む。
「どうも弱いながらも結界で守られてるみたいね。それなら」
螢は呼吸を整えると、両手に意識を集中する。すると螢の手もぼんやりと輝きだした。
「何をしたんですか?」
「手に霊気を集中させたのよ。これならこの程度の結界効かないから」
もう一度結界に手を伸ばす。すると今度はなにも起きない。そのまま慎重に『妖精』を手に取ると、妖精が僅かにうめいた。
「大丈夫かしら?」
「そのまま持っていてください。少し試したいことがあります」
桐斗は『妖精』に手を掲げる。
「ヒーリングをしてみます」
「できるの?」
「ええ。お母さんに多少手解きを受けましたから、何とか」
力をセーブしてヒーリングをかける。ヒーリングは生命の回復能力を活性化させる術である。その生命に見合った力でないと、副作用が出てしまうらしい。
何秒かして妖精がピクリと動く。
「効いてる効いてる」
「ふう、もう大丈夫でしょう」
桐とはいつのまにか額に浮かんだ汗を拭いながら言う。まだ未熟なのだろう、力を押さえるのには慣れてない。
『うぁ、ううん』
「目を覚ますよ」
「はい」
二人は期待を胸に『妖精』が目覚めるのをじっと見守る。
『…あうぅ、酷い目にあったですぅ。…あれ、私捕まったですぅ?』
「よかった目を覚ましたのね!!」
『あぅ、あなたが助けてくれたですか?』
「まぁほぼ私がね」
「螢さんは捕まえただけじゃないですか」
「何か文句あるの?桐斗君?」
「いえ、そんな滅相もない」
螢が少しすごむと、桐斗はたじろいでしまう。生来、気の弱さが目立つ子なのだ。もっとも螢の気の強さは誰かさんから受け継いだかなりヘビィな物だから、桐斗の態度も分からないでもないが。
『感謝するですぅ』
『妖精』は少々二人の姿に顔を引きつらせつつも、可愛らしい声で礼を言う。
「どういたしまして。私、可愛い子には優しいのよ」
「ところであなたはなぜここへ参られたのですか?」
『うんとですねぇ、あれぇ……』
『妖精』は何かを言おうとして、思い出せずに考えこむ。
『あうぅ、何も思い出せないですぅ!!忘れちゃったですぅ!!』
頭を抱えて困惑する『妖精』。
「ほんと?まさか桐斗君、何かしたんじゃぁ??」
「まさか?僕はヒーリングをかけただけですよ!!」
「じゃあなに、私が悪いの??」
「そういうわけでは…。そうだ、おそらく結界に体当たりしつづけた影響で霊的ダメージを負ったのが原因ではないでしょうか。いわゆる記憶喪失ってやつですよ。きっとそうです」
無理矢理納得する桐斗。螢にも異論はない。
『あぅ、名前もわかんない、お家も分かんないよぉ、なあんもわかんないよぉ』
完全に混乱する『妖精』。
「何か、何かわかるようなものはないの??」
『あうぅ。…そうだバックの中に何か有るかも知れないですぅ!!』
ショルダーバックを開き中身をぶちまける『妖精』
「どれがなにだか分からないわ。小さすぎて全然」
「まあ、このサイズの妖精が使う物ですからね」
『えっとこれは歯ブラシ、これはタオル、これはコンパクト…あった、地図!!』
「なにが書いてあるの?」
『えっとねぇ、おうちからここまでの地図…だと思うですぅ』
「どれどれ?」
「これは虫眼鏡が要りますね。ちょうど持ってますよ」
ジーンズのポケットから財布を取り出すと、中から小さな虫眼鏡を取り出す。
「…なにに使うの、そんなの」
「この間貰ったんですよ、昆虫採集が好きな友人に」
「私、そいつ嫌い。なんとなく」
「…さいですか、とにかくこれで見れますよ」
虫眼鏡で拡大すると、地図の示した場所はここから然程遠くない、どこぞの会社の研究室らしき場所だった。
『…どう行けばいいのかよく分からないですぅ』
「僕は大体分かりましたが、ここから5キロぐらいはありますよ?」
「遠いわね。彼女一人で行かせるには…」
『おうちに帰れば何かわかるかもしれないですぅ。そんな気がするですぅ』
『妖精』が懇願するような面持ちで言った。
「うーん、連れて行ってあげたいのは山々なんだけど…」
「夜も遅いですし、今日は…」
『…何も分からないままなんてやだぁ〜ですぅ…。うぇあああ』
不安からか、ついに泣き出す『妖精』。
その時。
「如何したの二人とも?」
ちょうど車で出かけようとしていたヒノメが歩道で座り込んでる二人を見つけて声をかける。
二人は顔を見合わせてにやっと笑うと、ヒノメに駆け寄る。
「ヒノメおば…おねぇさま!」
「ヒノメさん!」
「なに?どうしたって言うの?」
二人は詳しい経緯をかいつまんで話した。
「なに、それで私にそこまで送っていけといいたいのね。…明日じゃだめ?」
「でもこのこの記憶がかかってるわけだし」
「そうですよ、可哀想ですよこのままでは!」
「…なんか後ろめたいことでもあるの?」
「いやぁ、別に…」
とぼける二人。もしかしたら、ということはあるわけだから、やはり後ろめたいことには変わりないが。
「分かった。行きましょう。なんか楽しそうだしね」
『ありがとうですぅ、キレイなおねいさまぁ』
ヒノメの目の前をパタパタ飛びながら礼を言う『妖精』
「分かてるじゃない、この子も。いい子ねぇ」
「早くしないとパパが五月蝿いから、早く行きましょう」
「そうね、義兄さん、五月蝿いからね、螢のことに関しては特に」
「僕なんか一度殺されかけました」
「パパならやりかねないわね。あたし確かにパパ大好きだけど、そう言う所だけは勘弁して欲しいわ」
言ってるうちに中ではばたばた始まっている。ヒノメは急いでガレージに行くと愛車を出してくる。
「乗って、二人とも」
「ごめんねパパ!!」
螢がそれだけ言うとヒノメは車のアクセルを踏んだ。
「あぁケーイ、どこいったんだぁぁぁ!!」
螢たちの姿なきあとには、忠夫の悲しき叫びがビルの谷間に木霊するばかりだった。            
   続く

 




 

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