ザ・グレート・展開予測ショー

マリオネット・ルシオラ(1)


投稿者名:NEWTYPE[改]
投稿日時:(00/11/ 3)

横島はピートの操縦するディアスに乗って移動を始めたアウムドラに向かった。
アウムドラは海上を滑走するだけで離水することはしない。
敵の動きが分からなかったからだ。
「ディアスが戻ってきます!」
「ピートの奴、放送の件で迷っとるのか?」
政樹は自分が迂闊だったことを悔いた。
「横島を収容したようです。MK-Uを用意しろと言ってきてます!」
「ピートがかっ!?よしっ!」
政樹は走り出していた。それをキャラットが追った。
「ヨコシマはアウムドラにイなかったのですか?」
「捜しましたけど、外に出ていたとはっ!」
エミもまた追った。
「パパはっ!」
ひのめがキャプテンルームから飛び出してきた。
「エミさんでしたね!この子を船のチュウオウの安全なトコロへ!」
「私は子守りじゃないワケ!」
「アナタッ!」
キャラットはエミの胸を押すようにして走るのをやめさせた。
「アナタはこの船のなんなのです1」
その時、政樹と入れ違いになるように公彦が上がってきた。
「すみません!ひのめ!」
公彦の姿にひのめは走り出していた。
「じゃ、船のチュウオウの安全なバショに・・・・!」
キャラットはエミを無視して政樹の待つエレベーターに飛び込んだ。公彦はひのめを抱いて続いた。エミはキャラットに背中を向けて立った。
「・・・・パパ・・・・!」
「大丈夫さ。パパがついてる・・・・」
公彦はしゃがんでひのめを抱くようにした。
「サスガですね。もとモクバの操舵手だった?」
「昔のことです。」
公彦はキャラットが何を言おうとしているのか分からず、顔を上げもしなかった。
「・・・・・エミサン・・・・・」
キャラットの刺のある言葉に、エミは首を動かすことさえしない。
「君は何のためにアウムドラにいるんだい?」
「・・・・今は、どこの銃座についたらいいのかしか考えてないワケ。」
「立派だね・・・・・でも、その気の強さだけでは潰れてしまうよ。」
「つぶれない男だっていると思ってるワケ。」
公彦はエミの後ろ姿を見上げた。
ピートが連れていた気の強そうな少女かと、あらためてその背中を見上げた。
「・・・・・・・」
公彦は子供のやわらかい感触を大事にしたいと思う。エミは少女でありながら固い塊になっている子なのだ。
『・・・・・戦災孤児だって言ってたな・・・・・』
公彦はエミの整った顔立ちを見て、もったいないなと思う。こんなことでは、この子は自分で人生を硬直させていってしまうだろう。


ピートは走って見える海面とアウムドラの垂直尾翼の張り出した下にある後部ハッチにディアスの乗ったドダイ改を滑り込ませた。
「ピートっ!」
息を切って駆けつけた政樹は、舷側の通路上からピートにハンドマイクで呼び掛けた。
その間に横島がドダイのコックピットを飛び降りてMK-Uの方に走ってゆくのを確認した。
「敵の降伏勧告は気にするなっ!もうホンコンには火の手が上がっとる。敵の戦力は多くない!叩くぞ!」
ピートはアウムドラの格納庫の中でドダイを回頭させながら、政樹はあの黒い箱型の飛行物体のことを知らないからそんなことを言うのだと思った。
「・・・・了解!MK-Uを急がせてくれっ!」
ピートは叫ぶと、ドダイ改を再発信させた。
大局的に見た時の判断の方が正しいと言うこともある。なぞの物体に捉われて判断を間違うことの方が危険かもしれない。
「ここは政樹の命令を完遂してみせる!」
ピートはニューホンコンにも火の手が上がったのを見て、スードラと黒い箱型の物体を捜した。
「ヨコシマッ!!」
キャラットは政樹の肩を押さえ横島の頬を張った。
「なんスかっ!」
「アナタの出撃がオクれたお陰でルオ商会の補給物資がショウシツしたら、こんなことぐらいではワタシの怒りはおさまりませんよ!」
「商会の・・・・・?だから、すまないとは思ってます。」
「行きなさい!」
キャラットは横島の腕をMK-Uの方に押しやった。
横島はMK-Uが自分を待っているような顔をしていると感じながら、コックピットに上がった。
アウムドラ近くの空域にはベースジャバーに乗ったザック四機と、ノモを二機ずつ乗せたドダイ改二機が交戦中だった。
横島は、その火線を頭上に見ながらもニューホンコンの方角にMK-Uを乗せたドダイを直進させた。
ニューホンコンの高層ビル街の左右の窓は、サイコの電磁バリアーとホバーの圧力で瞬時に四散した。
ルシオラはコーラルオリエンタル号の姿をビルの陰に見つけると、サイコをその方向に前進させていった。
「・・・・記憶か・・・・・」
ルシオラの口癖なのだろう。
横島という少年と会った場所が分かった。避難の人の影は見えなくなっていたがコーラルオリエンタル号の灯はついたままだった。
と、ディアスのドダイが海面から浮き上がるように上昇をした。
「・・・・・!?」
攻撃はしない。サイコの様子を見ているのだろう。
ルシオラには、それがアウムドラから発したものだとは分かっていたが横島が乗っているなどとは思わなかった。
「ヨコシマと別れたすぐ後に見たMS・・・・・」
横島のような少年がMSのパイロットであるはずがない。それがルシオラの学習の結果の想像であった。
「・・・・・・!!」
ルシオラは、再度、後方から接近するディアスのドダイを見た。
またも攻撃を仕掛けずに離脱しようとした。
ルシオラはサイコの前方に拡散ビーム砲を発射した。周囲のビルの表面が砕かれ、ターゲットにしたディアスはパッと上昇した。
「分かっているの!?」
ルシオラは慄然とした。自分以上のリアクションを持つパイロットがいる!?
ルシオラはカッとした。
サイコのスピードを上げてコーラルオリエンタル号の桟橋に繋がる大通りに出た。
「・・・・え!?」
ルシオラはディアスが上がった左下に別の機体が接近するのを見た。
「・・・・MK-U?」
ルシオラが、その機体の略称を口の中で言う短い時間にMK-Uのドダイは、コーラルオリエンタル号を背にするようにして滑り込んできた。
ひどく気楽な行動に見えた。
「・・・・・・!?」
ルシオラはそのマシーンの挙動に戸惑った。MK-Uもまた攻撃をすることもなくサイコの黒い物体を掠めて後方に離脱した。
サイコとコーラルオリエンタル号は、三百メートルとはないのである。その狭い空間に降下して掠めた。
パイロットの腕は尋常ではなかった。
ルシオラは、その航跡を目の端にとらえながら、
「あの子は優しいのよ!」
その意味が繋がらない言葉の持つ直感は正しかった。
ルシオラの意識は認識をしていないのだが、MK-Uに横島の存在を感じていたのである。
横島もまた自分がサイコに引かれるのを自覚していた。
キャラットに叱られたから、戦い急いでいるというのではない。
「街中からは離さねえと・・・・・!」
横島はスードラが見えないのを確認して機体を捻った。
サイコの背後に威嚇の砲撃をする必要を感じてバズーカを撃った。
その弾体は道路の中央に着弾をして爆発したが、サイコ側にひろがった爆発は奇妙に歪んで見えた。
しかし、爆圧でサイコの機体が跳ね上がったのも事実だった。
「MK-Uっ!」
ルシオラは機体に小さい機動性があった方が良いと判断した。
強化人間の素早い反応はサイコの機体を変形させ、その腕を振った。
偶然ではない。狙ったのだ。
サイコの巨大な腕がMK-Uの乗るドダイを跳ね上げMK-Uは空に吹き飛んだ。
「変形っ!?」
横島はMK-Uの機体を小さくしながらも着地する場所を見つけようとした。が、ビルの壁を剥ぐように着地してバーニアを噴かした。
外灯をなぎ倒しながら、MK-Uはサイコが歩む通りに肉薄した。
「MK-U・・・・・」
ルシオラはサイコに強力なホバーリングをかけると機体を滑らせた。
横島は、そのサイコの脚が道路のアスファルトを踏み砕くのを街角の向こうに見た。サイコの全長はMK-Uの三倍はあろう。
横島はMK-Uを後退させて海岸通りに誘導しようとした。
ルシオラは、その赤ん坊のように見えるMK-Uの機体を見下ろして、またも拡散ビーム砲を発射した。
着弾。舞い上がる土煙。周辺のビルが砕け散った。
MK-Uは、その爆発の中から逃れていた。
「どこっ!?」
ルシオラはMK-Uのパイロットの能力を確かめているのだ。
MK-Uはサイコの左脚にしがみつき、サイコの進行を止めようとした。
「離せっ!」
ルシオラは頭に血が上るのが分かった。
「・・・・この敵はっ・・・・!」
サイコはMK-Uを蹴飛ばした。
MK-Uは、まるで石ころのように弾け飛んだ。
「なんで私の前に出るのっ!」
ルシオラは自分の意識の中に滑り込む不協和音を嗅ぎ分けて苛立った。
「みんな死んじゃえっ!」
またもサイコの拡散ビーム砲が発射され、老朽化したビルが粉々に吹き飛び、コーラルオリエンタル号の桟橋にかけて爆圧がひろがった。
「・・・・・・!!」
ルシオラは瞳孔の底に横島と会った埠頭が焼きついた。

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