ザ・グレート・展開予測ショー

夢の終わり


投稿者名:NEWTYPE[改]
投稿日時:(00/10/30)

ズズッン!
地を伝う音響は、人の心の底をもゆさぶった。
対岸の旧ホンコンの市街に閃光が走ったのだ。
そして、海岸線に面したビルの向こうで赤い炎に変わるのに時間はかからなかった。
「・・・・・・・!?」
ルシオラは女性らしい仕草で横島の腕の中で身を寄せた。
「なんの攻撃?」
横島はルシオラを抱いたまま、その炎の色の中から黒煙が噴き上がるのを見守った。
と、市街地の噴煙を突き破って巨大な姿を見せたのは、スードラだった。
「正気かよっ!?」
スードラが落とす爆弾が見える距離である。そして、スードラは高度をとっていった。
ニューホンコンに対空砲火の設備がないことを計算しての行動であることが分かる。
「なんて奴等だ・・・・!」
横島は、ルシオラを抱いたまま立ち上がろうとした。ルシオラもそれに倣いながら、
「行かなくちゃ・・・・・」
「家は向こうなのか?」
「そう・・・・・」
「でも今は危険だ。」
「・・・・行かなくちゃ・・・・時間が来たのよ・・・・・」
「何言ってんだ・・・・ルシオラ・・・・」
「時間なのよ!」
「時間って・・・・・」
「十二時でしょ!」
ルシオラは叫ぶと、横島の腕の中から飛び出して走り出した。
その時、さらに激しい爆発が起こり、あたりは一瞬昼間のような明るさになった。コーラルオリエンタル号の船体が白く浮き上がった。
その閃光の中で、横島は海を渡る黒い物体を見た。それは四角の塊である。
「・・・・なにっ!?・・・・・なんだありゃ?」
その物体の移動につれて海面が白く泡立って、それはゆったりとコーラルオリエンタル号の方に移動してきた。
「ルシオラ!」
横島は桟橋を走るルシオラを追った。
「速え・・・・・」
横島は、ルシオラが強化された肉体を持っていることを知らない。
「ルシオラ・・・・・!?」
「・・・・・あそこに私の記憶があるのよっ!」
「・・・・・・!?」
横島は、そのルシオラの言葉も分からない。
「ルシオラ・・・・!」
「孤独はイヤ!紛らわしたくても、紛らわす思いでもないのよ!両親の記憶がある横島には理解できないわ!」
ルシオラは絶叫しながら走った。コーラルオリエンタル号のタラップからは、サイコを見て逃げ出す人々の群れで大きく揺れていた。
「空襲だっ!」
「カオス教だと!」
「あなたっ!」
右側のビル街からも訳の分からない人の群れが押し寄せてきて一瞬にして桟橋は人の群れで埋まり始めた。
「ルシオラッ!」
横島はルシオラの姿が人の流れの中に埋没していくのを見ながらも、押し寄せてくる人の波の中で叫ぶしかなかった。
「待ってくれ!ルシオラーッ!!」


アウムドラ・ブリッジのモニターはMSのコックピットに駆け込むパイロットたちの姿を映し出していた。
「発進急げ!敵はMS隊を出したらしい・・・・・!カオス教奴!どういうつもりやっ!」
政樹の脇で受話器を持つキャラットは蒼白な顔を政樹に向けて、
「市長もヤクソクをした時間をムシされたといっています。スードラの放送をキいて勧告にシタガってくれと言っています。」
「放送?」
「スードラからの降伏勧告だそうです。」
政樹は、放送を受信させる命令を出しながらも、MSの発進のチェックに集中した。
「横島はどこにいるのか分からんのかっ!」
政樹の質問に答えるモニターはなかった。
「ピート大尉のディアス、出ます!」
「ノモの発進も急がせろっ!アウムドラ、移動はっ!」
「放送です!」
政樹は正面クルーの方を見やった。
「・・・・・勧告する。聞こえているか?私は地球連邦軍の犬飼少佐である。ICPOの一党に占拠されたアウムドラが降伏の意思を示せば、ホンコンにこれ以上の攻撃は加えない。抵抗をすれば、ホンコンの被害は拡大するだけである。」
コーラルオリエンタル号の上空を通過したサイコのコックピットに座るヌルは、コーラルオリエンタル号を炎上させてアウムドラが出てくるのを待つつもりだった。
が、サイコのコントロールは思った以上に難しく、コーラルオリエンタル号をやりすごしてしまった。
「よくこんな鈍い動きのMSを考えつく!」
ヌルは罵った。
「来た!アウムドラのMS隊が・・・・・」
モニターに映る一機のMSは小さすぎて機種の確認ができない。
「MK-Uではないのか・・・・・?」
旧ホンコンの上空からサイコに急速接近するのは、ドダイに乗った一機のMS,ディアスだ。
ヌルはサイコを九十度回転させると先制のビーム攻撃を仕掛けた。
ディアスは回避しつつドダイ改から離脱、降下する。
ルシオラは高台に通じる坂の途中で、サイコの高度と同じ高さに立った。
「誰っ!サイコを勝手に使うのはっ・・・・・!」
ルシオラの頭からは横島の記憶はしだいに薄れ、怒りに沸き立っていた。
ルシオラは右手の方に建設中のビルを見つけると、その方向に走り出していた。階段を上るその速さは尋常ではない。
ヌルは山の中腹で進路を変更して後退の挙動示すディアスのドダイに再度攻撃を仕掛けようとして、サイコがまたも異常な振動に震えるのに舌打ちをした。
操縦のプログラムが異常な点滅をしている。
「何だ・・・・・!?」
サイコはビルの間で一瞬停止して方向転換をした。
「どうしたんだ!」
後退の挙動を見せたディアスのピートは、アウムドラからスードラの降伏勧告の情報を手に入れたのである。
「降伏・・・・?しかし、一度は仕掛けてしまったぞ。」
「MSを海上に誘き出せないか!」
ノイズの激しい通信の中で政樹が言った。
「そんなに便利に戦えるかっ!」
ピートは罵りながらもコーラルオリエンタル号を盾にしようとして降下していった。
「・・・・・・・?」
その時、ピートはコーラルオリエンタル号の前方の桟橋に点滅する光を見た。モールスを打つ点滅であった。
「横島君・・・・・!?」
ピートは、横島が、あの女性に会いにいったと思い当たった。
ディアスを乗せたドダイを桟橋に接近させると、オートバイのヘッドライトを点滅させている横島の姿をとらえることができた。
「何をやってるんだ!」
ピートはドダイのコックピットを桟橋にぶつけるようにして横島を収容した。
「いいかげんにしろっ!」
「すんません!」
「アウムドラに戻る!」
ピートはドダイを後退させた。


サイコの機体の震動は一層激しくなっていた。
ヌルの操作のすべてを拒否するのである。
「なんだっていうんだ・・・・!」
ヌルはコックピットの全てのパネルがヌルを嫌い前へ前へ進もうとするのに気がついた。
「・・・・・あれか?」
ヌルは正面の建設中のビルの鉄骨の間に光るものを見たように感じた。
「ん・・・・ルシオラ・・・・・?」
サイコは、そにルシオラに向かって、ゆっくりと接近していって、そのビルの鉄骨に機体をくい込ませるようにして停止した。
ヌルは鉄骨の上にフワッと立つルシオラを見とめると、ハッチが開いた。
「・・・・・お返しするよ、ルシオラ少尉。サイコの機能がこういうものだったとは知らなかったんだ。」
「ありがとうございます・・・・・わざわざ自分の処まで運んでいただいて・・・・・」
ルシオラは怒りを忘れていた。
ルシオラは自分と連動する物がそばにあると安心できるようになっていた。
「アウムドラのMS隊が出てきたら、落とせ!」
「分かっています。」
ルシオラはヌルを押し退けるようにしてサイコのコックピットに入った。
その後ろ姿を見守りながら、ヌルは、これが作られたニュータイプかと納得をした。

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