ザ・グレート・展開予測ショー

造られた少女(後)


投稿者名:NEWTYPE[改]
投稿日時:(00/10/25)

「ふふ・・・・こんなところにいていいの?お前もパイロットらしいけど・・・・・?」
「パイロットにだって休みは必要だろ?たまには気分転換したくもなるさ。」
「それもそうだね・・・・」
ルシオラはアイスクリームのコーンを齧ってから横島の横顔を見つめた。
少年らしい可愛さと、何かを期待させてくれるその眼差しがルシオラは気に入った。
「アウムドラとかって言ってたわね?お前の乗っている船?」
「ん?・・・・ああ。ま、ただ働きさせられてるけどさ、食事だけでもくれるっていうんだから今の時代では悪くないんじゃないか?」
「そうだね。食べられればいいよ・・・・・」
ルシオラは横島の背中を歩んでいく軍人らしい姿の男に気がついて、コーンの最後の部分を口に入れた。
「・・・・じゃあね・・・・・」
「えっ?もう帰るのか?」
「こう見えても仕事を持っているのよ。」
「仕事って?」
「・・・・・インストラクターよ。グラフィック・コンピューターの。」
「ああ・・・・・!」
横島は立ち上がった。
「今度、いつ会える・・・・・?いつって言っても明日にはホンコンを離れちまうんだけど・・・・・」
「なに言ってるの、それじゃ今夜しか時間がないじゃない。それをあけろって言うの?」
「・・・・ごめん・・・・仕事あるんだよな・・・・・」
「でも、港にはよく行くわ・・・・・」
ルシオラはそう言って、じゃあトイウ感じで手を上げて走り出していた。
横島はエレカに戻りながら、ルシオラを振り向いた。ルシオラの上半身がパラソルの陰に隠れて消えた。
「・・・・合えるかもしれないよ・・・・・」
そう、ルシオラがはっきり言ったような気がした。
横島はエレカに乗り、エンジンを掛けた。
「ああ!そうだな。」
横島は口の中でそう呟いてみた。
「ソ、ウ、ダ、ヨ・・・・!」
ルシオラの言葉が横島の耳に明瞭に突き刺さった。
横島は、カフェ・テラスの駐車場を振り向いたが、ルシオラの姿は見えなかった。


「私はそういったやり方が嫌いなんだと犬飼少佐に言うのね!」
「作戦は今夜の十二時を期して行われる。デートをする時間はない。」
「・・・・あの子が、ただの坊やだと思ってもらっては困る。足止めをしていたのよ。」
「・・・・なんだと?」
「アウムドラのパイロットよ。あれはっ!」
「本当かよ・・・・!」
「この後の動きもチェックしてあるわ。もう少し一人にしておいて欲しいわね・・・・」
「・・・了解した。ルシオラ少尉・・・始末をつけられればもっといいが、できるか?」
「暗殺者になれというの?」
「・・・・・あ、いや、それは当方の仕事だ。貴官は、これを身につけておいていただければ・・・・・」
その男は、小型の発信機のようなものを取り出して、ルシオラに渡した。
「・・・・・・・」
ルシオラは投げ出したい衝動に駆られたが、黙ってそれを握りしめた。
「自分はアウムドラの方に行ってみる。」
男は、マメに行動をするつもりなのだ。ルシオラはその男に背を向けた。
しかし、どこに行くあてがあるというわけではなかった。
横島と、もっとはっきりと約束をしておくべきだったと後悔した。
しかし、アウムドラには行きたくなかった。
それは、はっきり敵の飛行機だからだ・・・・・。
そんな敵の光景の中で横島を見ることだけはしたくなかった。


ニューホンコンの近く、チュンムンにルオ商会の備蓄基地の桟橋があった。
そこに接舷するアウムドラの傍らには、膨大な物資が集積されていた。驚くべきことに、新品のドダイ改までがホロに隠されて、アウムドラに積み込まれるのを待っていた。
「なんのおもてなしもできず・・・・すんまへん。公彦さん・・・・・」
「いいんだよ。こんな感じってまるで木馬に帰ってきたような気分で、ちょっと胸がときめくんだ。」
「我々と行動ができないんですって?」
「子持ちはね・・・・美智恵が一番安心できるようにするのが夫の僕の役目だからね。」
「ええ・・・・それは・・・・ね・・・・・」
政樹は、夜になって訪れた公彦をまぶしげに出迎えた。
「冥子クンのことも聞いたよ。君だって普通の父親のように子供を安全に守ってやっているじゃないか?」
「・・・・そりゃそうです・・・・・」
政樹は、おとなしくアップルパイを食べているひのめを見やった。
「・・・・もう忙しくてピートには会えないよね?」
「下にいます。呼びましょうか?」
「いいよ。僕から挨拶する。そうしたら帰るよ。」
「そうですか・・・・・じゃ、ひのめちゃんはここで遊んでいるか?」
「いいね?すぐ戻ってくるから・・・・・」
「はーいっ!」
ひのめは口の周りをジャムでベタベタにしながら元気よく答えた。
「エミ君を呼びましょう。子守りに・・・・」
「いやーっ!あのおばちゃん嫌いーっ!!」
「はは・・・・だそうだ。」
「本人が聞いたら怒りますよ・・・・」
政樹も公彦に従ってキャプテンルームを出て、右と左に分かれた。政樹はブリッジに入った。
「キャラットさん、公彦さんはもうしばらくここにおります。」
「ケッコウです。」
受話器を下ろしたキャラットが深刻な表情を政樹に向けた。一緒に連れてきた公彦親子の事を構っていられる雰囲気ではなかった。
「館長、やはりホンコン市長からのヨウセイはキョウコウです。」
「何時までなんです?」
「市長からのタイキョメイレイは、明日の午後一時までです。それイジョウいればカオス教のコウゲキをキョカするというのです。ここにイても・・・・・」
「・・・・・そうですか・・・・・」
「父上がここにイれば、市長をセットクすることもデきるのですが・・・・・」
「物資の搬入には人の手が不足しとります。それをもう少し増やしてもらえれば・・・」
「このサギョウは、ヒミツという建て前でやっています。これイジョウ、人をアツめたら公の仕事になって、ソッコク、タイキョメイレイを出すコウジツを与えるだけです。」
「そうでしょうね・・・・・」
政樹はブリッジの窓から背後の暗い山陰を見下ろした。
アウムドラの各々のハッチでは忙しげにトラックが出入りしていたが、もう一息人手が欲しいと感じさせた。
アウムドラの格納庫に近い通路でカートを引いてきた横島は、工具を捜していた。
「ルシオラ・・・・・か・・・・・」
横島は溜め息をつきながらも、MSの方に駆け出すつもりだったが、自分が言った言葉に立ち止まってしまった。
やはりルシオラにはもう一度会っておきたかった。
ホンコン以外で会える相手ではないのだ。
と、横島の肩を叩く者がいた。横島は肩をひどく震わせて振り向いた。
「政樹に叱られるぞ。」
「さぼってないっスよ。」
「今の驚き方は尋常ではなかったけど?」
ピートが皮肉っぽい笑いを浮かべた。
「考えごとをしてただけっス。」
「昼間、港であった女の子のことを考えていた?」
横島はドキッとした。
「・・・・いえ・・・・」
「あの娘は、いい娘だったからな・・・・」
「ま、まさかピートさん、アイツに気があるんじゃ!?」
「ははは、そういう意味じゃないよ。」
「男二人で内緒話?」
横の通路からエミが、コンテナを運んだエレカを操縦してきた。
ピートは、そんなエミのお節介に構わずに、横島に小声で言った。
「彼女のこと、ニュータイプだと考えているのだろう?」
「・・・・!!・・・・・俺はニュータイプなんて信じないです。」
「ならいいけど、あの娘、何者なんだ?」
「OLですよ。」
「確かめたのか?」
「いえ・・・・・」
「・・・・・危険だな・・・・・忘れるんだ。」
「どうしてですか?」
ピートは答えずに自分が運んできたカートの方に行こうとした。
「ピートさんっ!どうしてそんなこと言うんスか!」
「・・・・・同じだと感じたからだ。しかし、僕の勘違いかもしれない・・・・」
「何と同じなんです!」
「・・・・・マリンという敵がいた。ああいった敵と遭遇すると、身を滅ぼす・・・・」
その時、エミが空のエレカで戻ってきた。
「・・・・・・?」
エミは、ピートの言った女性の名前を聞き逃さなかった。
「マリン?ニュータイプなんスか?」
「そうだった。」
「どんな人だったんですか?」
「・・・・・精神に攻めてくる敵と言えばいいかな?」
ピートはそう言い切るとカートを押して角を曲がろうとした。
「あ、すまない!」
公彦だ。
「ね、ピート、マリンって誰?」
公彦は三人の動きを素早く見て取ってから、ピートに、
「すまない。これで帰るよ。」
「・・・・・そうですか。残念ですね。」
ピートは作り笑いを浮かべるとカートを押していった。
「ピート!教えて!」
「お待ちなさい。」
ピートを追おうとするエミを公彦が止めたのだ。
エミはムッという顔を見せて公彦にくってかかった。
「聞かせて欲しいワケ?マリンていう女とピートの関係!」
「ジャオンのパイロットだった人だ。ピートの敵だった・・・・」
「ウソ!」
「・・・・・そんなふうに決めつけられたら、なんにも話せないな。」
「私はピートが気になるワケ!ピートを心配してるワケよ!」
「君は不用意すぎる!人の心をどう思っているのかね!?」
「・・・・!私は、自分の心の内を話したつもりよ。そうしないとピートの力になることを教えて貰えないと思ったからよ。なのに何なの!おたくは、黙って見ているだけじゃない。父だってことをバリアーにして、偉そうに傍観者でいて何もしてないワケ。それは卑怯よ!」
エミは言い終えるとエレカのほうに走っていった。
公彦は溜息を漏らしてから横島を振り向いた。
「敵って・・・・・どういう敵だったんスか?」
「ただの初恋だとは思えなかった。ピートとマリンはろくに会ってはいないんだ。なのにピートはマリンを知ったために一生を棒に振ってもいいって思いつめてね・・・・・その程度さ。僕の知っていることは・・・・・」
「一目惚れとは違うんですか?」
「そうかもしれないけど、でも、それで現実の生活を規制するほどのプレッシャーになるものだろうか?」
「そうっスよね・・・・・」
横島は、実はルシオラのような女性が自分の好みのタイプかどうかはよく分かっていなかった。
が、一目惚れでないとは言いきれない。かといって、好きとか惚れているとか、愛を感じるというようなものとも違う、硬質な感触を得ていたのだ。
「ルシオラのことがどんどん分かってくる・・・・・アイツには、親父もおふくろもいない・・・・・そしてアイツは自分の好きでない処で大きくなった・・・・・俺にはそれが分かる・・・・・」
それから一時間と経っていなかった。
接岸しているアウムドラのフロントカーゴ・ドアから横島が走り出てきた。

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