ザ・グレート・展開予測ショー

左道臣志の欲望


投稿者名:ツナさん
投稿日時:(00/10/22)

 「遅かったですね、横島君、はい」
臣志は屋上の中心、見たことの無い魔方陣の中央に焚かれた護摩の紅い炎の向こう側からやけに落ち着いた声で俺に語りかけ始めた。
「あなた方にははなはだ驚かされますよ。その魔獣の事といい、冷静さといい、高い霊能力といい、ね。それで下らない甘さが無ければきっと世界有数のGSになりますよ」
「そりゃ、どうも」
「しかし、まだまだ若い。その考え方も、その技術も」
「あなたのやっている事は間違ってます」
「ほう、間違っていると。あなたは人間そのものを否定するのですか?」
おキヌちゃんの言葉を鼻で笑う臣志。そして淡々と続ける。
「人間なんて実にいい加減なものですよ。宗教一つ取ってもそう。教義では人殺しを否定する、もしくはそれを示唆すつ言葉を残しておきながら、その宗教のために人を殺す。もっと簡単に言えば人殺しです。日常で殺せば犯罪者。戦場で殺せば英雄ですよ。全ては自分の正義感のため、自分の存在のため、自分の居場所のため。
 全てが自分のために。どんな偽善を言おうが、変わらない事実です。
 だから私は自分のためにこの場所を欲したわけです。人間の決めた法という偽善を無視する形ではありますが、これが私の善であり、正義です、はい」
「…俺はそういう奴を屑というけどね」
「あなたには欲は無い、と?」
「死ぬほど欲はあるさ。金は欲しい、ねーちゃんを抱きたい。いいもん食いたい」
「私もです。ただ私の欲はあなた方に死んでいただかないと満たされない」
「はぁ」
おれは溜め息を漏らし肩をすくめる。あきれ返ってものも言えない。
「私は偽善は嫌いです。人間としてあるべき生き方をするだけですよ。そして人間のあるべき姿は、欲望のままに生きること」
「だから屑だって言ってるんだよ、おれは。人間である以上、破っちゃいけないお約束はたったの三つだ。盗む、犯す、殺す。たったこれだけだよ。それ以外はなにやったって自由だ。あんたはすでに二つを、あの自縛霊になった人を殺し、俺の記憶を犯した」
「なぜ彼らを私が殺したと?」
「幻惑(テンプテーション)の術を使えば人を自殺させることぐらい簡単だろ。あんたの事だ。目的のためならそれぐらいやって当たり前だ。そしてたぶん、有明不動産の連中も事が済んだら始末するつもりだろうな」
「そんなっ」
おキヌちゃんが絶句する。
「あの人たちは何の関係も」
「この男の考えたシナリオはこうだ。臣志はどこからか、たぶん普段からさまざまな場所を探ってるんだろうけど、この物件の情報を手に入れた。そしてまずこのマンションの周辺に式神を放ち化け物騒動を引き起こした。所有者は当然除霊をどこかに依頼しなくてはならない。変なものが出る、なんてうわさになったら建物の価値が下がっちゃうからね。
で彼はそれに乗じてマンションの管理者有明不動産に潜入。除霊の儀式とでも言って全員に術を施す。その中から何人か選んでここに何日か住まわせ自殺をさせた。その霊がさっきの自縛霊だ」
「なぜ死なせなければならなかったのでしょう?」
「彼の狙いはまずはここを安く買い叩くこと。めいっぱい価値を下げるには物騒な話が一番だからね。化け物が出て住んでた人は自殺。GSが祓いに来ても返り討ち。でとどめに所有者にこんな物件持ってたらあんたも呪われるとでも言えば、所有りゃはよほど肝が据わってない限り安く、へたすりゃ言い値で手放す。もっともこんなまどろっこしいいまねしないでもはなっから所有者にテンプテーションかけて巻き上げればいいのに」
「そうはいかないのですよ。実は私の幻惑の術は完璧すぎて簡単に解けないのですよ。この物件を売りに出すとき、前の所有者が脳みそ腐ってました、なんて事になったら思い切り疑われるでしょう?化け物騒ぎや幽霊騒ぎは如何にでもなりますが」
「不動産屋が一つ消えるのは問題ないと?」
「有明不動産は負債を抱えてつぶれる寸前です。いきなり無くなった所でああ、つぶれたんだ位にしか思われませんよ。もちろん、後始末をきちんとつければ、の話ですが」
自信満々に言う臣志。
「今までそうやって、いくつのマンションやら物件をころがしてきたんだ?」
「さぁ。せいぜい50件程度ですよ。海外を含めてね、はい」
「最低でも100人以上殺したのか、あんたは、自分の欲のために」
「たかが100人程度、ですよ。世に中には人差し指一本で何万人も殺せる人がいる。それに比べれば微々たるものです」
「酷い…」
「お嬢さん、あなたにもその内分かりますよ。金が全て。金のために生きる、それが大人の世界です」
「そんなこと…」
おキヌちゃんが少し思いをめぐらしたあと、絶句する。たぶん美神さんの顔でも思い浮かべたのだろう。彼女は現世利益最優先と言い切っている、金の亡者だ。
「あるかもしれないが、くだらねぇ手を使うのは一握りの屑だけだよ。ほかの人間が善人だ、とは言わないけどな」
おキヌちゃんの言葉を補足し、自分の意見を付け加えて言い放つ。そしてびしっと指差してもう一言付け加える。
「屑の居場所はここじゃない。死刑台の向こう側だけだ」
決まった、俺ってかっこいい。一度こんな台詞言ってみたかったんだ。
「無理ですよ」
臣志はやおら札を背広の内ポケットから取り出して、ぶつぶつと呪文を呟く。
「ばうるるる・・・」
バルム達が歯を剥き出し、咽喉を鳴らして警戒姿勢をとる。今にも飛び出していきそうな気配だ。
「横島さん」
おキヌちゃんも破魔札と笛を構える。炎に照らされた凛とした表情が、まるで映画のヒロインを思わせる。マジな事言っておきながらやっぱりどこか逃げ腰の俺とは一味違う。
「魑魅魍魎よ、闇より出でて我に従え!!!はぁッッ!!」
臣志が札を炎に投げ込むと炎の中から無数の鬼面の生首が現れる。
「喰らい尽くせ式どもよ!!」
生首どもはバラバラに俺とおキヌちゃんに襲い掛かる。
「こんなもんでやられるかよ!」
俺の手にはすでに右手に霊波刀が発現している。更に念を込め左手にも、右手のものよりは長さが劣るものの霊波刀がでた。
やってみるもんだなぁ。俺の霊力ってまだ上がってるのかも知れない。
「これで俺も両刀使いか」
「えっ、横島さんてそういう趣味の人だったんですか?」
「何勘違いしてるのおキヌちゃん!!両刀使いってのは二刀流って意味だよ!」
なんて言い合いをしているうちに一気に生首どもに囲まれる。
「失せろ悪霊!!」
俺はぶんぶん霊波刀を振り回して生首を叩き切っていく。剣の修行なんて積んだこと無いからな、たぶん子供の喧嘩みたいに見えるんだろうけど。
おキヌちゃんのほうはと言えばバルムたちがおキヌちゃんを中心に円陣を組んで襲ってくる生首を尽く噛み砕いていた。おキヌちゃんは負傷した奴をせっせと介抱している。
 おキヌちゃんについてから奴ら少々軟弱になったな。
「きぇい、まだまだ行くぞ!!」
しかし俺達が倒している以上に臣志が生首を召喚する。
きりが無いぞこのままじゃ。
俺は霊波刀を消すと文殊をだす。残り三つ。
「くらえ!!」
『浄』の一文字が文殊に浮かび上がり、光が一気に広がっていく。
「横島さん止めて!!この子達が」
おキヌちゃんが叫ぶ。やべ、バルムは魔界の獣だから…。
「ばうばう。ばうっ」
…要らぬ心配じゃないの。しかも光を浴びたバルムが少し変形して、顔が若干柔和になる。
「みんな大丈夫??」
おキヌちゃんの心配をよそにバルム達が舌を出して尻尾を振っている。
…どうやら浄化の光で魔界で培われた邪悪な精神が緩和されたらしい。その姿には愛らしささえ感じられる。顔は怖いけど。
 とにかく、生首は一掃された。かに思われたが。
「まだまだ行くぞ、オーン!」
臣志の気合とともに再び炎の中から湧き出る。
「だぁぁきりがねぇぇぇぇ!!」
俺は思わず悲鳴をあげた。
(続く)













 

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