ザ・グレート・展開予測ショー

幻聴


投稿者名:ツナさん
投稿日時:(00/10/19)

 再びマンションのロビー。
 臣志の手は読める。再びあの自縛霊を差し向けてくるはずだ。
 最もそれが有効的な手段ではなくなったことを彼は当然分かっているはずである。
 おキヌちゃんの力は俺が思っているよりも、当然彼の情報よりもすばらしいものであった。
 正直、悪霊払い以外での彼女の実力を見誤リ、見くびっていた。俺も臣志も。
「でも臣志さんがあんな人だったなんて」
若干気落ちした様子のおキヌちゃん。彼女はその優しさが最大のとりえだが、反面無条件に人を信じようとしてしまうところがある。
 人がよすぎるのだ。イコール、対人間の戦いには致命的な欠点となる。
 おそらく心の片隅ではまだ彼に同情に近い感情を抱いているだろう。
「人間なんて、そんなものだよ」
俺は言いながら、その言葉に嫌悪感を覚えていた。
 ふと頭によぎる、ルシオラの顔。
 ルシオラはそんな人間を好きになって死んだのか…。
 割り切ったはずの思い出が年月を経たいまでも、時折浮かんでくる。
 決してグットエンドではなかったけれど、答えは未来に引き継がれた、と思っていても。
 別れ際に言った言葉は、今でも俺の心にしっかりと刻まれている。
「行こう」
頭を振って鬱蒼になりかけた気持ちを振り払って、俺は先を目指す。
 変わらない階段。特に何か仕掛けられているようにも見えない。何も無いことに俺は焦りを感じていた。今俺の顔を鏡で見たら、きっととんでもない顔をしているに違いない。
 とにかく臣志の次の手はなんなのか。無防備のまま突き進んではいたずらに傷を増やす。
…いつからだろう。こんな風にいろいろと考えるようになったのは。きっとアシュタロスからコピーした膨大な知識が脳みその中でなじみ始めたからに違いない。
「探してきて、みんな」
おキヌちゃんが先ほどの魔物を解放つ。魔物達は一気に階段を駆け上がるとばらばらに散っていった。
「あの子達が戻ってくるのを待ちましょう、横島さん」
俺の言い知れぬ焦りを見取ったおキヌちゃんが、先んじて手を打ってくれた。
「あ、ああ。分かったよおキヌちゃん」 
俺は自分を落ち着かせるように深呼吸をすると、ポケットからタバコチョコをだして咥えた。最近のはかみがパラフィン紙で出来ていて、端から解ける。
(ヨコ・・マ)
その時俺の耳に飛び込んできた音に俺は耳を疑った。
「るし・・おら?」
(ヨコシマ…)
それは声だけの存在。いや音でしかないのかも知れない。
心の隙間から這い出るようなか細い音。でも忘れるはずも無いその音に俺は驚嘆した。
「ルシオラなのか?おい、答えてくれルシオラ!!」
我を失った。それはあまりにも突然で、俺の心を揺さぶるのには十分すぎた。俺がもしももう十歳年を食っていたら、多少は疑問視したかもしれない。
 が、今の俺にはその声は。
 その声はあまりにも大きすぎた。
(ねぇ。ヨコシマ。私、思い出になっちゃうの?)
「……思い出になんてしたくなかったさ!!でも!!」
(あの夕日を見たとき言った言葉は嘘?)
(何度でも一緒にって、言ってくれたのは)
「じゃあ何で、何であの時命を捨ててまで俺を助けたんだ!」
(もう一度あの夕日を見たかったから…二人で)
「…そうか」
無意識の内に微笑む。俺はまた一つ、あのことに踏ん切りがついた。彼女は俺に生きて欲しかったんだと。いつかまた『二人』で夕日を見るために。
 頭で理解していても、心では理解したくない事実はいくらでもある。と、俺は思う。
 でもいつか理解し、新たな一歩を踏み出さなくてはいけないのだ。
(もう一度二人きりで…見たいね、夕日)
「きみが生まれ変わってくれば見れるさ、俺の子供としてだけど」
(それじゃいや!)
(あたし生き返れる方法知ってるの!あの子の、キヌとか言う子の体があればまた生き返れる、一緒に夕日が見れる!!)
「…それは出来ないよ、ルシオラ」
俺は気付いた。全ては幻想だと。それでも奴には感謝しよう、またルシオラと話すことが出来たことを。
そして許せない、彼女の思いを汚したことを。
気付けばおキヌちゃんが俺の顔を心配そうに覗き込んでいる。
「横島さん、しっかりして!」
「もう、大丈夫だよ」
俺はゆっくりと立ち上がる。どうやら気を失っていたらしい。
「どのくらい気を失ってた?」
「3分ぐらいです」
「そうか」
「随分、幸せそうな顔してましたよ?」
「懐かしいい人にあってきたんだ」
「そぉですか」
それ以上何も言わなかった。たぶん彼女も俺がだれと話していたかおおよそ見当がつくに違いない。
どこかむくれたような、焼いてるような顔をしている。
俺は思わず苦笑いを浮かべた。彼女の気持ちにもいつかは決着をつけなくてはいけない。
「ばうばうばう」
その時ちょうど、魔物の一匹が戻ってきた。
おキヌちゃんの膝元でパタパタと尻尾を振ると反転してかけていく。
「行きましょう、横島さん!!」
「OK。美神探偵事務所のチームの力を見せてやろうぜ!!」
俺は足取りも軽く階段を駆け上がる。
(続く)




 

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