ザ・グレート・展開予測ショー

永遠のあなたへ(68)


投稿者名:馬酔木
投稿日時:(00/10/18)

 深い深い、闇がある。
 目の見えない、何も頼りにならない、底の見えない深い闇が。
 私達の、前にある。

 真っ白な満月を中天に抱いた星空の下、ころんと寝転がり、天を仰ぐ少女が二人。
 夏の始めの、瑞々しい生命力に満ちた柔らかな草に抱かれて二人は、一種神聖なほどの静けさに満ちた空気を保っていたが、しばらくして、小さな囁きがその沈黙を破った。
「……終わったね」
「……そう、でござるな」
 どちらからともなく発された、呟きのような囁き声と、それに応えた小さな返事の声。
 月明かりの下、金と銀とに輝いて見えるそれぞれの長い髪を草の上に散らせて二人は、互いの頭を突き合わせるようにして寝転んでいた。
 頭の方へと手を伸ばせば、草に絡まるように散らばった相手の髪に触れる。
 二人を守りに来ていたピートの使い魔が去って行き、森が完全に夜の眠りを取り戻してから、どれぐらいになるだろう。
 撤退指示は、とっくの昔に聞いている。
 しかし、何となく、すぐに戻る気にはなれなくて、二人は行きついたこの草むらの中でこうして横たわっていた。
 エミや雪之丞はともかく、一応魔物であるシロとタマモは、特に動けないほど疲れているわけではない。
 ただ、何か―――心の底に何か、深く沈んだまま凝っているものがあるような気がして、それが、二人の体を、心を、重くしていた。
「……ねえ、シロ」
 タマモが、頭を動かしたのだろうか。
 かさり、と、草が揺れる微かな音と共に呼びかけられて、シロは、僅かに顎を反らすようにしてタマモの方に心持ち頭を向けた。
「……何でござるか?」
「あの女……人間に、戻ったのかしら?」
 タマモの言う「あの女」が誰を指しているのかは、名前を聞かなくてもわかる。
 ついさっきまで自分達が追い―――ピートが追って行った、あの女。
「……多分、そうでござるな。……もう、気配が無い―――」
「……そうね」
 単に、何か話をしたかっただけなのだろうか。
 加奈江の魔力の気配がもう無いことは、今更聞かなくてもタマモ本人も感じている筈だ。
 また、しばしの沈黙。
 そして、次に口火を切ったのは、シロの方だった。
「……なあ、タマモ。お前も、不老不死なのでござるよな?」
「……わかんないわ。人間から見たらそうかも知れないけれど、一応、年は取るもの。―――あんただって、そうでしょう?」
「まあ、そうでござるが……お前よりは少し早いかな」
 逆に聞かれて、シロも頷く。
 タマモもシロも、人間から見れば長い長い命を持っている。
 しかし、それは、永遠ではない。
 タマモは一度転生しているし、シロ達人狼は、急成長などで、霊力の変化などに合わせて、その姿もどんどんと変わっていく。

 ―――不老不死、永遠、変わらないもの―――

 加奈江が繰り返し口にし、手に入れたいと言っていたもの。
 彼女が、世界に満たそうとしていたもの。

 そして彼女は、ピートはそれを持っていると言っていた。

 また続く、沈黙。
 次にその沈黙を破ったのは、言葉ではなく、がさりと草を揺らして起き上がったタマモの、その音だった。
 急にどうしたのか、と、シロも首を廻らしてタマモの方を見るが、その表情はいつもと変わりない。軽く唇を引き結んだ、クールな無表情の横顔。
 そして、いつもと変わりない、どこか素っ気無いあまり抑揚の無い声で、タマモは静かに話しかけてきた。
「……ねえ、シロ」
「ん……?」
「……そろそろ、戻ろうか……」
「……そうでござるな」
 普段なら、言うこと言うこと何かにつけて互いに反発している二人だが、今夜はそんな気もしなくて、特に何か言うこともなくシロも起き上がる。
 そして二人、立ち上がって、もと来た森の木々の方を見やった時。
 その木々の向こうに立ち込める、月明かりさえ射し込まない暗い闇を、二人は見た。
 どちらからとなく、立ち上がった二人の手が重なり合い、しっかりと繋がれる。
 ―――その闇は、単に、枝に遮られて月明かりも星明りも届かないだけの単なる森の暗がりである筈だったのだが、今の二人には、それが何故か恐ろしかった。
 狐と、狼―――
 どちらも、闇を駆ける獣の血統を受け継いでいる筈なのに―――
 今の二人には、その闇が自分達の前に何か特別な意味を持って渦巻いている何かの象徴のように感じられて、無性に恐かった。

 ―――永遠、不老不死、変わらないもの

 限りなくそれに近いものを持ったシロとタマモの二人に、加奈江がもたらした、闇。
 永遠にこだわり、変わらないものを求め続けた加奈江に関わったことで、二人は、半ば強制的に、自分達が持つ長い命の重さを認識させられていた。
 まだ若い―――幼いと言えるかも知れないほど若い二人にとって、その、自分達の持つ長い命は、たとえそれが永遠でないにしても、あまりに長く、重過ぎた。

 自分達の前に横たわる、長い命と言う深い―――闇。

 もともと基本的に―――特にシロは―――楽天的な傾向にある二人だ。明日になればそんな深刻なことは忘れてしまえるかも知れないが、でも、今は―――
 初めて認識させられたそれが、幼い二人にとっては―――ひどく、恐ろしかった―――

 深い深い、闇がある。
 目の見えない、何も頼りにならない、底の見えない深い闇が。
 私達の、前にある。

 ―――長い―――長過ぎる命と言う、闇が―――

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